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初めまして

「主文、◯◯の罪により被告を懲役1年に処する」
その言葉で私の思考は止まった。

スーツ姿の男達が
手錠の金属音を鳴らしながら近づき
女性の裁判官が「個人的にあなたのことを応援してます」と言ったが
テレビでも見ているかのように
画面越しで事の成り行きを見ているようだった。

無表情の私を心配してか
「大丈夫ですか?」と裁判官に問われたが
返答した記憶がない。

今でも鮮明に記憶に残るのは
傍聴席で涙する両親と俯く当時の彼女。
私の目に涙が溜まるが
それが零れることはなく、法廷を後にした。


車の後部座席の真ん中で男2人に挟まれ
名古屋拘置所へ連れられて
坦々と入所の手続きが始まった。

所持品検査では
実刑を想定して持参した本と下着と住所録
文通の為に持参した住所録のみんなの顔が浮かんだ。

身体検査では
全裸になってー尻押し広げてー玉と竿あげてー
そんな刑務官の指示に無表情で従った。

その後は医務の診察やレントゲン
入所に伴う生活の仕方の説明を受けて
独房に通された。

ガチャン。

重い金属音の扉が閉まった途端
涙が溢れ出した。
目から溢れた涙が頬を伝うと
それからとめどなく涙が溢れ出した。
体の芯の部分が絞られ続けるように涙が出た。

時間の感覚が薄れて夕食になっても涙は止まらず
夕食に手をつけようと思っても涙が邪魔で
夕食の時間は終わってほとんど残してしまった。

思考がまとまらず
浮かんでは消える家族や友達などの顔や
自分を責める自分の言葉や雑な言い訳。

ただただ、涙が流れた。


95年生まれの私は6人兄弟の四男で
甘えん坊で人懐っこくてよく笑うが
幼い頃から活発で善悪の判断よりも
好奇心を優先して行動してきた。

平凡は退屈で、中学に上がれば
犯罪の刺激と、自由と、強さ、に憧れた。
地元で代々続くギャングチームに入り
思うままに若さを謳歌してきた。

そして中学でガスパン、シンナーを覚え
危険ドラッグに大麻、と
駆け足で覚醒剤に辿り着いた。

鑑別所3回、少年院一回。
10代には色んな思い出があるはずなのに
なぜか、淋しかった感情が
至るところにこびりついていて
思い出を言葉にしずらい。


21歳の12月
公務執行妨害、傷害で現行犯逮捕された。
だが記憶がない。
当日は先輩に連れられて、ひどく酔ってた。

意識がハッキリしたのは留置所で
私の顔は青あざだらけで服も破けていた。
警官の話を聞くと
酔った先輩に私が殴られているところを
通報を受けた警官が助けに来てくれたらしいが

「かんけいねぇぇえだろぉぉおおー」

と警官に殴りかかったらしく
その時の拳が警官の目元に当たってしまい
手術を伴う大怪我を負わしてしまった。

そして前科があるからということで尿検査
その日は一年半ぶりに3日前に覚醒剤を使用していて
覚醒剤取締法違反で再逮捕された。


重々しく厳粛さに満ちた空気の中
その場には秒針を刻む時計の音と
書類を捲る乾いた音が窮屈に響く。

部屋の中央には証言台
右側には弁護士、反対側にはそれを睨むような検事
そしてその場の中央の奥には
それらを見据える裁判官。

深々と深呼吸をすると、定刻になった。
両隣に座る刑務官が私の手錠を外し
裁判が始まる。

まずは検事が起訴内容や私の経歴
当事件の証拠などを読み上げた。
検事が読み上げる私は
更生の余地もないようなダメ人間で
非行や逮捕歴は悪人そのものだった。

ふと傍聴席に目を向けた時
母がハンカチで目元を押さえながら鼻を啜り
父は厳格な面差しで姿勢正しく座るのが見えた。

気づけば証人尋問の時間となり
父が固い動作で証言台に歩み寄り
鋭い表情で正面の裁判官と対峙した。

検事の尋問は、私の犯罪性の奥深さや
人格の否定にも聞こえる言葉ばかりで
父はぎごちなくそれに答えるが
父が曖昧な返答をすると
検事は更に厳しい質問を重ねる。

すると父が俯いて何も答えなくなった。
父に視線を向けると父は一点見つめて固まり
よく見ると小刻みに震えていて突然

「こいつは悪い奴じゃないんです!」

激情を捻り出すように父は叫んだ。
そしてボロボロ涙を流しながら
「こいつがどうなろうと俺が面倒見ます」
そう強く言い放った。

当時の事を鮮明に覚えている訳ではないが
父の涙ながらの大きな叫びは
今でもハッキリと覚えている。
それに、いつだって愛情と温もりをくれる母。
数百万円の保釈金をすぐに用意してくれる兄。
面会や手紙で励ましてくれる友達。

事件をきっかけに
多くの私を想ってくれる人達の想いを知った。
それが、投獄を前にしても
前向きでいられたパワーになり
絶対に人生を諦めないという原動力になっている。

だからこそ遂に投獄され
感情が溢れ出して止まらなかった。
この涙は私だけではないと思った。
投獄されて囚われるのは私だけではない。


犯罪は非日常な刺激があって
手っ取り早くお金も稼げるし
薬物を使えば簡単に快楽を得ることができる。
でもその代償は計り知れない程に
重く、大きい。

大切な人を裏切り、自分を責めて
反省して立ち直ったつもりでも
一度知った刺激や快感は忘れられないし
生きていれば欲望が膨らみ
犯罪の誘惑や入り口は至る所で待ち構えている。

そして犯罪を繰り返せば
深く物事を考えることをやめて
欲望のままに、刹那的に、投げやりに、
盲目的に、破滅的に、厭世的に、行動を重ね
人格は寂しく錆びついてしまう。

更にそんな心の在り方と薬物の相性は良くて
人生をどんどん黒く染め続けてしまう。

そして今度は、誰もが持つ"良心"が
罪悪感となって重くのしかかってくる。

だからこそまた犯罪を繰り返して...

そんな負のループの末に辿り着くのが
「なんで俺は生きてんだろう」
その先でいつも、死にたいと同居していた。


でもそんな人生を繰り返す中でも
ずっと心に消えないのは「人生を良くしたい」

そして何度も人々に救われて
結局、「生きたい!!生きて人の想いに応えたい!!想いを返したい」
そう強く思う。


私はそんな感情を描きたい。
波瀾万丈な心模様の中でも
結局は生きていく姿を届けたい。

多くの犯罪に触れて、過ちだらけで
前科4犯で2度の受刑歴を抱えても
人生を諦めることはできない。

人生はひとりひとりの独特な魅力があって
その魅力は誰かの心を動かすかもしれない。

そこに私は全力を注いで
人の心を動かすモノを描き続けたい。


投獄→獄中→出獄を2回経験して
多彩な人間模様を見て感じてきた。
嫌悪感を抱いたり戦慄するような犯罪もあれば
事件を聞きながら
思わず涙が流れてしまった話もあった。

とにかく、犯罪は儚い。
犯罪は絶対悪。

だが犯罪の深淵を覗いた時
私はそれを表現したいと思った。


学も経験もない拙い文章ですが
本気で、「元受刑者の作家」目指して
エッセイと小説を書き続けます。


〜あとがき〜

初投稿最後まで読んでくれてありがとうございます!
文章が固くなりすぎかな〜と思いましたが
普段の僕はニコニコ、ヘラヘラしてるんで
まぁーギャップってやつですね笑

2週間に1回、投稿していくので
フォロー&応援お願い致します!

それではまた会いましょ〜

出所日でーす!
炊場だったので髪の毛かなり伸ばせました!

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