見出し画像

メディアの生成AI活用の羅針盤

生成AIは21世紀の産業革命と言われています。生成AIがどのように世界を変革していくかは未知数ですが、少なくともメディアのワークフローやあり方に巨大な変化を与えるのは確実でしょう。もう生成AIのない社会はありえない以上、ラッダイト運動を起こす前にどう生成AIを使いこなせばメディアが社会にもたらすインパクトを向上させられるか考えてみます。

生成AIをどう使うか以前に、生成AIが社会に浸透するとメディアビジネスにどんな影響があるかという考察は別のnoteに書きました。こちらも合わせてご覧ください。

まず初めに、メディアビジネスにとっては、生成AIが善か悪か、使うべきか使わざるべきかという議論は意味がありません。今後私たちが生成AIを意識するまでもなくアプリケーションには生成AIが組み込まれ、目にするほとんどのものには生成AIが使われるようになります。スマートフォンが普及したのと同様に、そこにあって使っているのが当たり前の存在になります。悪用すれば社会に害をなし、使いこなせば今まで以上の価値を生むのはどんな技術も一緒です。

また、生成AIがコンテンツ(記事・動画・台本)を作るから記者や編集者は不要だという論には同意しません。コンテンツによっては、生成AIに作らせても読者・視聴者が価値を感じるものもあるでしょうし、人間が細部までこだわり抜かないと成立しないものもあるでしょう。適材適所に生成AI技術と人間のリソースを振り分けて、合作がどんどん生まれるのではないでしょうか。一緒に企画を考えて、生成AIがリサーチを行い、人間が取材に行き、人間が編集方針を決定し、生成AIが原稿とタイトルを書き、人間がレビューして手直しする。そんなワークフローがすぐそこまで来ています。

2023年末の時点で、私が考えるメディアビジネスに生成AIを活かすポイントをいくつかあげてみます。生成AI業界の進化のスピードが速いので、来年は違うことを言っているかもしれませんがご容赦を。

コンテンツのカバレッジが広がる

まずはなんといっても扱うコンテンツを広げられることが魅力的です。生成AIを活用すれば、コンテンツの制作コストを大幅に下げることができます。従来の無料広告モデルでは読者ボリュームが小さいために収支が合わなかったようなニッチ・ローカルコンテンツでも、低い生産コストで量産できれば採算が取れるようになります。

また、生成AIへの指示(プロンプト)の知見を共有しておけば、ある程度の編集品質を誰でも出せるようになります。企画によっては経験の浅いメンバーを起用したりUGCをプロデュースする形でコンテンツを作れるかもしれません。コンテンツ量を増やす手段が一気に広がります。

1ソース、nコンテンツの時代へ

1回の取材で得た情報から複数のコンテンツを作ることが自然になっていくでしょう。紙面記事、Web記事、放送動画、SNS投稿、長尺動画、ショート動画等の異なるフォーマットの編集を生成AIが担当してくれれば、人間は企画・取材とレビューにもっとリソースを割けるようになりますし、メディアブランドの存在感も高まります。

さらに、コンテンツの届け方ではなく内容自体のパーソナライズができる可能性もあります。既に学習分野では行われている取り組みですが、読者・視聴者のリテラシーに応じて、初心者には平易な日本語で背景から解説し、詳しい人には専門用語でディティールを伝えるようなパーソナライズができたら、ニュースに興味を持つ人がもっと増えるのではないでしょうか。

まだインターネット上にない一次情報・取材情報を持つことが競争優位につながっていく、ある意味ではメディアの原点回帰が起こります。

AIエージェントを前提にしたワークフローになる

文字起こし、原稿作成、タイトル提案といった個別の生成AI活用ももちろん業務を変えていきますが、AIエージェントが制作工程に付き添ってくれることはより大きな変化をもたらすでしょう。

コンテンツを作る過程は細かなリサーチ・状況判断・意思決定・入出力の積み重ねで、しかも毎回異なる創造的な作業が発生するため、自動化・効率化が難しい領域です。生成AI技術をベースにしたAIエージェントがそこをフォローしてくれることで、制作の面倒な部分をAIに押し付けて、人間は本当にこだわりたい創造的な部分に集中できるようになります。

  • 企画の対象者属性やボリュームをいい感じに推定してもらう

  • エージェントとの対話で生まれた企画や内容をいい感じにCMSに入稿してもらう

  • 統計データを分析してもらって気になるポイントをいい感じにグラフにしてもらう

  • 取材依頼書を書いてメールの下書きをいい感じに用意してもらう

AIエージェントは、細部まで要件定義しなくとも過去のデータに基づいて"いい感じに"なんとかしてくれて、コンテンツ制作フローを滑らかに繋いでくれると期待できます。

アーカイブとデータ基盤でAIエージェントを訓練する

AIエージェントがいつ実用的な精度になるのかは生成AIの進化にもよりますが、生成AIの精度に関係なく独自性を保つために絶対に必要なステップがあります。それは、社外に公開していないデータや、アーカイブコンテンツをどのようにAIエージェントに継続的に学習させるか、ということです。

過去のアーカイブを学習させることで、原稿を書くときに著者らしい文体で文章を書いたり、現在のコンテキストに合わせたアーカイブのキュレーション記事を作成することができるでしょう。さらに、コンテンツの閲読データと分析結果を学習させておけば、AIエージェントが自動で記事分析して改善案を出してくれる未来も近そうです。


このnoteでは生成AIがもたらすプラスの可能性を考えてみましたが、もちろんそれぞれにリスクがあり、問題点を無視することはできません。しかし、課題は創意工夫で乗り越えられると信じていますし、その努力に見合ったリターンがあります。
なにより、メディア業界にいるなら新しいものにどんどんチャレンジする好奇心が大切だと思っているので、生成AIを活用したメディアの可能性に面白さを感じる方はぜひ声をかけてください。

最後に宣伝ですが、このnoteに記載した未来をできるだけ早く実現すべく、メディアの生成AI活用を支援するサービス「apnea」(AI-Powered News Editing Assistant)をリリースしました。(現在ベータ版の先行登録受付中)

深津貴之氏、株式会社テレビ大分、株式会社テレビ愛媛、山陰中央テレビジョン放送株式会社といった強力なパートナーとともに、生成AI活用・ローカル情報流通を推進していきます。

ソフトウェア・エンジニアの応募や、業務提携のお誘いも歓迎しています。ご興味ある方はぜひご連絡ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?