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書類の書き方がわかれば、考えが整理できる

一生懸命つくった資料を意気揚々と上司や同僚に見せたのに、思ったような好反応を得られなかったという経験は誰にでもあるだろう。

どうしてこのワクワク感が伝わらないのだろうと悩んだり、あるいは感性についてこれない上司や同僚が悪いのだと人のせいにしてしまったりするものだが、
大体の場合、原因はたったひとつだ。

その資料はロジックが通っていない。

書類を書く力は、わかりやすい競争力になる

ロジックの通っていない資料は、思いつきの羅列に見える。
思いつきの羅列を見て、心を動かされる人はいない。

だが、世の中はロジックの通っていない資料で満ちている。

新人が犯しやすいミスというわけでもなさそうだ。
その道何十年のベテランでも、ロジックの通っていない資料を胸を張ってプレゼンする様子をよく見る。

つまり、身につければ「わかりやすい競争力」になるということだ。

若い頃は特に、素敵なアイディアを出す人が輝いてみえる。
同僚よりアイディア力がないことに悩み、アイディア力を身につけるためにはどうしたらいいかと四苦八苦した経験が、僕にもある。

でも、身につけておくべきはアイディア力より先に、書類を書く力だった。この実感は、自分自身の実体験からきている。

頭の中に住み着いた上司

大学在学中の20歳からゲーム業界で仕事を始めた僕は、若手としてはそれなりの成果を出していたこともあって少しばかり調子に乗っていた。

でも23歳のときにジョインしたチームで、自身の出していた成果が大したものではなかったことを思い知らされることになるのだった。
そこは、ちょっと話をするだけで力の差を重い知らされるほどに、自分よりずっと優れた能力を持つ人たちの集まりだった。

あのころは本当に何もわかってなかった…
イチからいろんなことを教えてくれた方々に感謝しかありません。
必死で食らいつき、縦横無尽にいろんなことをやらせていただき
最終的にはCEDECで講演までさせていただきました。

入ってはじめに教わったのが「書類の書き方」だった。

今さら「書類の書き方」程度でダメ出しをされていることが情けなかった。
そんな基礎的なことは教わらなくてもわかってる、と反論したい気持ちももちろんあった。

でも、今になって思う。
23のときに教わっていなかったら、いま自分はどうなっていただろう。

書類の書き方とはつまり、自分の考えを整理する方法だった。
そして、そのベースがあったからこそ、10年15年にわたる自分の思考をロジカルに整理することができるようになった。

いまだに書類を書くたび、そのときの上司が頭の中に現れる。

その考え方で本当に大丈夫?
そう問いかけつづけてくれる頭の中の上司は、自分の成長にとってなくてはならない存在になった。

実践:書きたいことを整理する方法

たとえば「新しいゲームの企画書」を書くとする。

どのようなことについて考え、どんな内容を書くべきだろうか。
まずはそれを洗い出してみよう。

・世界観
・ゲームシステム
・自分のアクションの種類
・敵の種類
・ステージリスト
・成長要素
・シナリオ内容
・ターゲットユーザー

項目の大小に関わらず、とにかく書き出すことが重要だ。
とにかく考えつく限り、漏れなく書き出しておくこと。

企画書だから詳細を書いても仕方ないじゃないか、と思うかもしれない。
でも「知っていて省略した」のと「考えから漏れていた」のは全く違う。

この段階では、とにかく「全て」を書き出しておく必要がある。
なんなら考えに考えて、答えを導き出した上で、あえて書面上では省略する、という手順を取ったほうが良い場合もある。

またこの「洗い出し作業」は、紙に書き出したりメモ帳に並べたりなど、具体的なテキストとして起こしておくことをオススメする。

そんなのは頭の中でやればいいじゃないかと思うかもしれないけれど、実際に書き出すことが大事だ。一度思いついたことを脳内に留めておくだけで、脳の処理能力が大きく圧迫されるからだ。
書き出すという形で脳の容量を適切に空けながら、洗い出すことに全ての処理能力を使うことで精度は劇的にアップする。

さて、洗い出しが完了したら、書面にする前に、これらの項目を「大項目」「中項目」「小項目」と整理してみよう。
たとえば以下のように。

■ゲーム概要
 ◆コンセプト
 ◆ジャンル
 ◆ターゲットユーザー

■ゲームシステム
 ◆概要
 ◆詳細
  ◇プレイヤーアクション
  ◇エネミーアクション
  ◇ステージ

■世界観
 ◆設定
 ◆シナリオ概要

■全体構成
 ◆概要
 ◆構成
  ◇第一章
   ・コンセプト
   ・詳細
    -ステージ概要
    -シナリオ概要
    -エネミー

  ◇第二章

  ◇第三章

ざっくりした例にはなるけれど、こういう形で整理をしていくのがとても大事になる。

このときに気をつけるべきは
 ・同じ大きさの項目が、正しく「同じ大きさ」になっているか
 ・小項目が正しい大項目にぶら下がっているか

ということだ。

実際にやってみるとわかるのだけれど、これが意外に難しい。
たとえば

■全体構成
 ◆概要
 ◆構成
  ◇第一章
   ・コンセプト
   ・詳細
    -ステージ概要
    -シナリオ概要
    -エネミー

こうまとめるべきところを

■全体構成
 ◆概要
 ◆第一章
  ・コンセプト
  ・ステージ概要
  ・シナリオ概要
  ・エネミー

こうまとめてしまったりする。

でも、実際に書類にしたとき、正しく章わけされたものとそうでないものを比較すると、読みやすさが明らかに違う。
そしてなにより、きちんと書類を項目わけできていない場合、これから作ろうとしているものの全体像を捉えられていないことが多い。

この状態で書類を書き、それに基づいてものを作りはじめると、以下のようなことが起こってしまう。
 ・かけるべきコストを見誤り、スケジュールを見誤る。
 ・あとでやらなくてはならないことが判明する。
 ・一部の仕様にコンセプトがないまま、曖昧に進行してしまう。

一方、正しい章わけを徹底していると、以下ような利点もある。

・テンプレートが別の書類を作るときにも利用できる。
  ⇒「考えなければならないこと」について考える時間が減る。
  ⇒思考のスタイルが徐々に確立していく。

・自分の考えから抜けていたことを、指摘される前に発見できる。
  ⇒項目の整理が多角的なに考えられているかのチェックにつながる。
  ⇒他の人が書いた書類から「考えの深さ」を読み取れるようになる。

この手法を試してみると、きっと、書類を書くのってこんなに時間がかかるんだ、と驚くことと思う。
これからもずっと、こんなことをやんなきゃなんないの? と憂鬱な気持ちになるかもしれない。

でも、大丈夫。この方法を続けさえすれば、徐々に慣れていくからだ。
やがて、一発で正しい項目わけを導き出せるようになる。
それまでのトレーニングだと思って、ぜひ、この書類の書き方を、実践してほしいと思う。

実践:書いた書面をストーリー化して伝える

さて、ロジカルに整理された書面ができたら、次は「伝える」必要がある。

何かを実現させるとは、仲間を増やすことだ。
あなたの書いた書面にこれから巻き込まれる人たちは、どうせなら「面白い企み」に乗りたいと思っている。

そのために必要なのが「ストーリー」の力だ。

書面を伝える上で必要な「ストーリー」とは何か。
それは「あなたがこの書面で実現したと思ったことを、なぜ実現したいと思ったのか」という「あなたを主人公としたストーリー」であり、
そこに巻き込まれていく「顧客を主人公としたストーリー」である。

・実現したい「コンセプト」を提示する
  ⇒あなたのストーリー
・その「コンセプト」を実現するための「手法」を提示する
  ⇒顧客のストーリー

これらのストーリーを伝えるべき相手は、目の前にいる「仲間」だ。

この「仲間」の脳内をイメージしながら、レゴのタワーを組み上げていくように、慎重にひとつひとつのブロックを手渡していかなければならない。

あなたのミッションは「ブロックの全てを手渡すこと」ではない。
相手がブロックを組み上げやすいように、適切な順番で、どこで使われるブロックなのかを丁寧に伝えながら「タワーを組み上げてもらうこと」だ。

そのためにどうすれば良いか。
ここでもまた、先の「ロジカルに項目わけされた書面」が役に立つ。

自分がよく使うプレゼンフォーマットに以下の形がある。

① 現状こういった課題があります(課題はデータで裏付けられています)
② 課題を解決するために「○○」というコンセプトを立てます
③ このコンセプトに沿って、以下3項目を設計します
④ まず1項目ですが…

相手の脳内にブロックを組み上げてもらうために、自分は伝えたいことの全体を「3項目」ほどにわけて提示するようにしている。

この「伝わりやすい区分け」の構造は、先に書いた「ロジカルに項目わけされた書面」に必ず埋まっている。

そして、やりたいことが相手に正しく伝わることで「正しく完成に向かっていく力学」が発生するようになる。

無数の「やらなければならないこと」の海に溺れることなく、確実に「ゴールに向かってひとつひとつを積み上げている実感」を持ちながら日々のタスクに向き合うことができるようになる。

また、進めながら何かが間違っていたときのエラーに、チームメンバーが気付きやすくなったりもする。

書類の書き方は、考え方であり、伝え方

実際、現場で書類の書き方を教えると、真面目に聞いてもらえないことが多い。
高校や大学で教わってきたことだから知っている、今さら言われなくてもという心理が働くのだと思う。

でも実のところ、書面を書くというのは難しい。

高い技術で書かれた書面は、簡単に見える。
一方、技術を駆使せずに書かれた書面は難しく見える。

だからこそ「あれくらい簡単なものなら自分にも書ける」と思い込んでしまうものだけれど、実際そうとは限らない。
絵を使う、図を使う、表を使う、色を使う…さまざまな方法を使って伝わりやすくしようとしても、元の構造が美しくなければ「伝わる書面」は作れない。

そして、これは一度習得したら終わる技術ではない。

専門領域になればなるほど、あるいは実現したいことが大きくなればなるほど、伝えるべき人数が増えれば増えるほど、難易度は上がっていく。
(具体的に、整理するときの見出しとなる「項目」が何かを導き出すために一晩悩むことなどザラにある)

とはいえ、基礎にある考え方は一緒だ。

だからこそ、この「書類の書き方」をいち早く身につけ、「思考の深さ」や「物事の伝え方」について考える、きっかけを手にしてほしい。

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