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生きる(あらゆる刺激は、麻薬である)

あらゆる刺激は、麻薬である。
刺激に慣れると、それを求めつづける。
ひとは、その原理原則から逃れることができない。

つまり、

生きているということは、
いま生きているということは、麻薬なのだ。

ーー

のどがかわくということは、麻薬である。
木漏れ日がまぶしいということは、麻薬である。
ふっと或るメロディを思い出すということは、麻薬である。
くしゃみすることすら、麻薬である。

生まれたての頃は、すべての刺激が新鮮だった。

しかし、ひとの感受性のゴムは
経験とともに、やがて伸び切ってしまう。

刺激に慣れてしまうと、戻れない。
知らなければよかったなどと後悔しても遅い。

繋がりは可逆なのに、欲望の高まりは不可逆。

だから、

あなたと手をつなぐことは、麻薬だ。

ーー

ミニスカートは、麻薬である。
プラネタリウムは、麻薬である。
ヨハン・シュトラウスは、麻薬である。
ピカソは、麻薬である。
アルプスは、麻薬である。

すべての美しいものに出会うということは、麻薬である。

さらに美しいものを。
美味しいものを。
極上の香りを。
柔らかな重みを。
完璧な音を。

ゴムが伸びてゆく。

あなたを取りまく経済活動が、
感受性のゴムを、さらに引き伸ばそうとする。

ゴムを極限まで引き伸ばすこと、
それを人生の価値だと謳い、
あなたの懐から、金を奪い取ろうとする。

ゴムが伸びれば伸びるほど
次第に得られる喜びが小さくなってゆく。

それは果たして、幸せなことなのだろうか。

ーー

そして、

かくされた悪を注意深くこばむこともまた、麻薬である。

悪を見極め、拒むという快楽。
それにより自尊心や自己肯定感が育ってゆく。

しかし、善の対岸にあるのは、もうひとつの善だ。

あなたはやがて、気づくことになる。
悪を定義するということの傲慢さに。

あなたが正義を行使するそのとき、
対岸の別の正義が涙を流している。

誰かが正義を行使するそのとき、
対岸のあなたの正義は、傷つけ損なわれることとなる。

せめて、知らなければ幸せだったのに。

ーー

泣けるという麻薬。
笑えるという麻薬。
怒れるという麻薬。

自由という、麻薬。

それに毒された、資本主義国家のひとびと。

麻薬に溺れている間に台頭する、
対岸の正義、共産主義や独裁主義。

国家として統一の意思を持ち、
顔色を伺うことしかできない資本主義国家の政治を傍目に
どんどん追い抜き、発展していく国々。

そして生まれる経済の格差は、
結果的に「本当の自由」を再分配してゆく。

麻薬に溺れているうちに、自由が消えていくことに気づかず
いつか終わる祝祭を、永遠だと夢想するひとびと。

義務教育によって、
たとえば、前時代的な詩によって
たとえば、芸術という皮を被ったプロパガンダによって
麻薬漬けにされていく、哀れなひとびと。

ーー

あらゆる刺激は、麻薬である。

いま遠くで犬が吠えるという麻薬。
いま地球が廻っているという麻薬。
いまどこかで産声があがるという麻薬。
いまどこかで兵士が傷つくという麻薬。
いまぶらんこがゆれているという麻薬。

いま、いまがすぎてゆくという、麻薬。

ーー

あらゆる刺激は、麻薬である。

鳥ははばたくという麻薬。
海はとどろくという麻薬。
かたつむりははうという麻薬。

その事実を隠しながら、社会は廻っている。
麻薬を撒き散らしながら。
同時に、過度に溺れたはみだしものを、異常だと非難しながら。

この社会矛盾が、抑圧を生む。
抑圧を受けて、他者からの攻撃を受けて、心が傷つく。
その傷を修復するために、正義を振りかざす。
その傷を修復するために、正義を振りかざす。
その傷を修復するために、正義を振りかざす。

ーー

多数派は、マイノリティを値踏みする。

マイノリティの中の多数派を慎重に選び
仲間に加えていくことで
差別などしていないという安心感に浸りながら
本当のマイノリティを悪と名づけ、
正義を振りかざし、断罪していく。

溺れてよい麻薬の、溺れてよいレベルは
およそ論理的に決まっているわけではない。

いつ誰が断罪されるかは、誰にもわからない。
代償は、ランダムな誰かが支払うことになる。

それは、袋に詰めこんだ荷物がよれて
ひとところに荷重が集まるような偶然によって選ばれた
ランダムな誰かだ。

ーー

そして、残酷なことに
人は他者を麻薬に溺れさせたいという欲求を持っている。

だからこそ、

人は、愛するという麻薬のシャワーを闇に向け、
あなたもまた、手のぬくみという麻薬でひとを包み込む。

結局のところ、波打ち際の砂粒に過ぎないあなたは、
刺激を受けることも、避けることも、
世界中から非難されることもコントロールできない。

できることは、水流を読み
うまく乗りこなそうとする小さな努力くらいのものだ。

ーー

繰り返す。

あらゆる刺激は、麻薬である。

刺激に慣れると、それを求めつづける。
ひとは、その原理原則から逃れることができない。

つまり、

いのちは、麻薬なのだ。

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