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RPGにおける「段取り」について(ドラクエ4の事例より)

RPGにおいてメインの目的は、すぐに達成されるわけではありません。
段取りをこなさないと先に進めない、ということが往々にして起こります。

この「段取り」は寄り道であるが故に、いろんなことを気にかけて導入していかないと、プレイヤーの興味が続かなくなってしまいます。

(結果、おつかいゲームと呼ばれてしまいます)

優れた「段取り」を作っていくためにはどうすればよいのでしょうか。
ひとつ、よい事例を思い出したのでまとめてみます。

ドラクエ4冒頭の事例

まず、メインの目的がセットされます。
子どもたちがいなくなる事件の真相を追う。

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はじめの目的地は「イムルの村」
そこに向かう過程、はじめの街を出るときにNPCが話しかけてきます。

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この時点でプレイヤーの頭の中には2つの情報がセットされています。
【メイン】イムルの村へ向かい、事件の真相を追う。
【サブ】夫が帰ってこないネームドキャラクターがいる。

イムルの村へ向かうと、子どもたちが消えるという事件が実際に起きています。噂は本当のようでした。

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ここで情報を収集することになります。

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昼夜の概念があるドラクエ4ならではの展開。

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夜に話しかけると、必須ではないけれど重要という、絶妙な塩梅の情報が置かれています。

そして、街にある牢屋の中では、おっさんが子どもがえりしている。
おなかがすいてパンをもらっただけなのに、と盗みを働いて閉じ込められています。

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ここまでの情報をくまなく得ていたプレイヤーは、バトランド(はじめの街)にいるアレクスの妻にもう一度会いに行ってみようと思うはずです。
が、フレアに会っていない場合のフォローとして、バトランドに戻るよう誘導する子どものセリフも用意されています。

先に情報を得た場合の「優越感を感じられるフロー」と、詰まった人の「そこから情報収集して推理開始できるフロー」の両方が満たされている。
この丁寧さは、ドラクエならではです。

そしてふたたび、はじめの街へ。

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NPCがフォローしてくるということ自体が、ひとつの驚きでした。
余談ですが、このバトランドにはもうひとり、フォローしてくるNPCがいます。王宮の戦士に憧れるその老人は、ついてくるものの歩くのが遅く、街の外までは連れ出せません。

そうした「噛ませ犬」を経た上での、NPCがワールドマップをついてくるという演出。この先全編を通して待っている「ドラマ」を予感させる、新しい驚きでした(その予感は、たとえばパノンという名キャラクターのエピソードなどできちんと回収されることとなります)。

フレアを連れて行くと、アレクスは我を取り戻します。

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初プレイのときに幼かった自分にとって、なかなか衝撃的な一幕でした。
(おとなになったいま、改めて深みがわかる一幕でもあります)

そしてメインの目的に一歩近づきます。
それは子どもがえりしていたアレクスだからこそ得られた、子どもたちの秘密です。

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これらの流れの中には、RPGとして大事なエッセンスが詰まっています。

① 理解/共感できる環境を根底に敷く

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あなたもそうだったでしょう?
このNPCは、ドラクエの世界を越えて私たちにも話しかけてきています。

段取りの前提となるのが「この世界特有の環境」「このキャラクター限定の環境」だと、プレイヤーの想像力が働きません。
こういうことってあるよね、と、現実に置き換えたときも理解&共感できることで、はじめて段取りを「感情的に飲み込む」ことができます。

このケースの場合「子どもは大人に言わない隠し事をするものだ」⇒「子どもの隠し事を解き明かす」という、現実にもよくある話で段取りの前段が作られています。

このように「あるある」が根底に敷かれることで、このあとのプレイヤーの行動にも感情が乗ってきます。
大人は子の理解者でありたいという気持ちで戦士ライアンに感情移入し、子どもは戦士ライアンを数少ない理解者の大人として捉えて感情移入するのです。

② 驚きと興味で「段取り」への欲求を高める

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おじさんNPCが子どもがえりしたセリフを喋るという「手触りのザラザラ感」には、否が応でも注目してしまう「驚き」があります。

ゲームを開発していると誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。間違えたセリフを間違えたキャラクターに当ててしまったときの気持ち悪さ…その「ザラザラ感」が驚きに昇華されています。

さらに、ここに妻を連れてくるべきという「目的」をはっきりさせながら、連れてきたらどう解決されるのだろうという「興味」を残しています。

この「興味」によって、おつかいがただのおつかいではなく、楽しみに変わります。

③ プレイヤーの努力によって問題を解決させる

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問題を解決するのはプレイヤー。
プレイを介さずに問題が解決することはありません。

この「親指で問題を解決させる」というのはドラクエのみならず、すばらしいと言われているRPGでは必ず守られている手法です。

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たとえばFF10の「世界で一番ピュアなキス」の直前、湖の森でひとり落ち込むユウナを探しに行くティーダは、プレイヤーが操作します。

ただ、これは単に親指を使わせればいいという話ではありません。

プレイヤーの努力を成立させているのが②の「興味」です。
この先どうなっていくんだろうという「興味」がないと、そもそもこの努力をしようとは思えません。

④ 努力の結果として「興味が満たされる展開」を提供する

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②で抱いた興味がきちんと解消されることで、このゲーム内での「努力」は無駄にならないのだと、プレイヤーは感じ取ることになります。

次の情報を得られること = 報酬にすればよいと安易にゲームを繋いでいくのではなく、抱いた興味がきちんと解消される展開が待っていること = 報酬という構造になっていることが重要です。

しかしこのアレクスという男、ガタイがいいにも関わらず、恐ろしい目にあったら子どもがえりしちゃったり、日頃から夜は妻に甘えていたりと、いい感じの人物ですね。少ない情報量ながら、人間が描かれています。

RPGを支配している構造

① 理解/共感できる環境が根底にある
② 驚きと興味で段取りへの欲求を高める
③ プレイヤーの努力で問題解決する
④ 努力の結果として興味が満たされる展開を提供する

よくできたRPGは、この構造によって満たされています。
ここにバトルが絡んだり、ボスが絡んだり、世界の謎が絡んだり、主人公の運命が絡んだりしてくることで、感動的な物語に繋がっていきます。

でも、やっぱり大事なのはこの基礎構造。
これが、小説やマンガではなく、ゲームを作る意味であり、醍醐味だと思います。

私たちの話

いま我々(Wright Flyer Studios)が作りたいゲームの面白さの根底は、まさにこういった部分にあります。

いま開発中のタイトルでは、3Dの表現力を向上させていくと共に、こういった「面白さの根底」が実現しやすい環境を作るにはどうしたらよいかを考え抜いた上で、Lua文化を継承していくことを決め、大きく投資をしています。

結果、ゲームデザイナーが生き生きと面白いゲームづくりに邁進している現状を見ると、なかなか普通にはできないレベルのことを、普通にはできない人員規模 / コストパフォーマンスで実現できていると思っています。

たとえば、一時期、部長として組織づくりのお手伝いをさせていただいていたアナザーエデンは、運営中のタイトルながら、毎回そのクリエイティビティに驚かされています。

そして現在開発中の3Dタイトルにも、この遺伝子は継承されています。

また「スタジオメンバーを進化させる」という裏テーマもあったりします。

エクセルと仕様書しか扱えないゲームデザイナーを増やすのではなく、コードも書ける、Adobe Creative Cloudをいじる、UnityのTIMELINE EditorやPost Process Profileもいじる、分析のためのクエリも書くことを当たり前にする。

1タイトルに留まらない、そうした「人の成長への投資」「文化への投資」こそが、スタジオの未来に繋がっていくと信じています。

20年近く前にスクエニにいた自分からすると、どちらかというと懐かしい環境ではありますが、ここまで整備されたスクリプト環境でいまゲームを作ってる会社って、他にはなかなかないんじゃないかなと。

新しい驚きを、世界中の人へ。

久々にドラクエ4を見直したりしながら、私たちが進んでいる方向は間違っていないと確信を得たのでした。



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