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ZAZEN BOYS「らんど」感想


・昔からそこそこ聴いているZAZEN BOYSが12年ぶりにアルバムを出したということで、一通り聴きました。メモがてら感想を書こうと思います。


・まあ自分なりのレビューなわけですが、これを読んで少しでも聴いてみたいと思う人がいれば、更には聴いた上で(酒の席で)アルバムについて話せる相手がいれば、非常に嬉しいです。

・あと自分はドラマーなので、その視点が強めです。

アルバム全体を通して

ZAZEN BOYSのニューアルバムのタイトルは「らんど」だ。

乱土世界の夕焼けにとり憑かれ続けている人間の歌がここにある。

向井秀徳情報 (mukaishutoku.com)



・とのことで、6thアルバムの「らんど」です。12曲目の「乱土」から取ってるのでしょう。ZAZEN BOYSⅠ~Ⅳと来て、前作は「すとーりーず」に。今作もその路線ですかね。初期に自称していた通り、アルバム名の変遷がツェッペリンぽい。


・「Ⅳ」まではほぼ全曲名が英名だったのが前作「すとーりーず」から日本語になり、世界観も和風になりました。前作は「暗黒屋」とか「天狗」みたいな、和風というか妖怪っぽい感じがありましたが、今作はより現代感を強めていると思います(向井秀徳の歌詞はずっと現代社会に向けているけど、より直接的に表現するように)。

・紹介文にもある通り、アルバム全体を通して「夕焼け」がめちゃくちゃ出てきます。zazen boys(というか向井秀徳)は「諸行無常」とか「冷凍都市」とかおんなじワードを色んな曲に登場させるので、このバンド、ひいては前身のナンバーガールから一貫した世界観、メッセージを表現したいというのは明らかなんですが、このアルバムからは「夕焼け」「曖昧」「少年」の概念が頻発してますね。ずっと少女を歌ってたことを思うと大きい変化なのかも。

・楽曲としては、ベースの吉田一郎が脱退、MIYAが加入してからの初めての音源ですね。「Ⅳ」まででどんどん難解になってた楽曲が、「すとーりーず」で比較的ストレートというか純粋な路線に戻り(「Ⅰ」もそんな感じだった)、今作はその路線をより煮詰めた、アクが強い世界観を感じました。

M1:DANBIRA

・「Ⅳ」の1曲目「Asobi」の続編っぽい感じですかね。なんかずっと東京都庁周辺をうろうろしてるな。サウンドも同曲を明るく複雑にした感じ。

・「Asobi」が夜で、こっちはその後の朝~夕か。「だんびら」は刃の広い刀の事らしく、そんなもんを「健康のために」ぶんぶん振り回してたら一発逮捕なので、何かの比喩でしょうね。何かっていうか、うん。

・「発展途上のイノセンス」は別の曲でも出てきますが、いっつも歌ってる「冷凍都市」をより掘り下げてる感じでしょうか。「無邪気にはびこるマッドネス」と合わせて、昨今の社会をより解像度高く表現しているような。

M2:バラクーダ

・7/8拍子でらしさを出してきてますね~。この曲めっちゃ好き。一般的な4拍子とか6拍子に1拍足りない拍子とすることで、1小節ごとにどんどん急かされている感覚になりますよね。世界観の不安定さを強調している。

・バラクーダはカマス(魚)のことらしいですが、多分響きだけで歌っててあんまり深い意味はなさそう。相変わらずだんびらを振り回しているので、1曲目と同一人物が、通行人を眺めたり、空想に耽りながら、夜までずっと街をうろうろしている曲なのかなと思いました。どぶろっくぐらい「女」を連呼している。

・「杉並の少年」なんかもそうですが、ドラムの絡まったフレーズにフロアタムを混ぜてくるのが特徴的ですね。松下敦はこのフレーズ選びにハマってるのかな。

M3:八方美人

・うってかわって女性目線です。しかも極端にデフォルメした女性。「ズルいわ」「じれったいわ」から急に「抑えきれん」と素の向井秀徳に戻るのが少し面白い。

・曲自体の浮遊感とか「夢の中で」みたいな歌詞と、「洗濯物を取り込まないと」とか「いつか住んでた部屋の間取り」みたいな現実味ある歌詞との対比がいいですね。結局最終的にはいつも向井が歌う少女に行き着く。

M4:チャイコフスキーでよろしく

・「はあとぶれいく」みたいなまっすぐな路線でいいですね。ライブの終盤にさしかかったあたりで演奏してほしい。

・現実からどんどんロシアっぽい世界観になっていくけど、チャイコフスキーは射撃のチャンピオンではないし、オリンピックとも関係ないし、結局空想して自分の現状(泥まみれ)から逃避しているだけなのかも。

M5:ブルーサンダー

・「チャイコフスキーでよろしく」からの続きっぽい曲調で、ライブでは連続して演奏されそうな予感。タイトなドラムが印象的。

・あと相変わらず情景を歌いながらも空想の世界にいますね。

・一応1983年、1988年、1996年に起きた事件を調べてみたんですが、どの年にも女児の殺人事件が起きててちょっと怖くなりました。

M6:杉並の少年

・このアルバムの中で一番好きな曲です。どっしり構えた、風変わりなR&B感も感じるサウンド。鋭利なギターを支える、太いベースがとにかく格好良いですね。アルバムが発表されるより遥か昔からライブで演奏されている曲ですが、音源で聴くとより重厚感があってよい。

・この曲もドラムのフレーズにフロアタムを絡めてきますね。ZAZENのドラムはバスドラの音がめっちゃ特徴的なので、同じ低音でもほかのバンドより余計に際立ちます。

・歌詞は短いですが、ここからの数曲は特に夕暮れの情景が強調されている印象。「公園には誰もいない」という歌詞がそのまま出てきていますね。

M7:黄泉の国

・こっちもライブで先行して演奏されてましたね。「杉並」よりも穏やかだけど捉えどころがない。三拍子と見せかけて5/8と6/8の繰り返しで、よく聴くと変だという、絶妙な不安定さを醸し出してます。

・歌も曲に合ってるようで合っていなくて、でも心地よい不思議な感覚ですね。

・このアルバムの他の曲もそうですが、メインボーカルでがっつりハモるのって向井秀徳の曲の中では珍しい部類な気がします。

M8:公園には誰もいない

・唯一のスローテンポな曲。一口にチルな曲とも言い難い、すさまじく虚しさをはらんだ曲だと思いました。

・「誰もいない」と連呼しておきながら、少女やら老人やら恋人やらいっぱい人がいます。物理的には人はいるんですけど、はっきり意志の伴わない、漂うように生きているだけの「俺」から見たら、誰も存在していないも同然ということでしょうか。「八方美人」のことも「人間じゃない」とはっきり言っていたし。

・「いつか悪魔と対決する日を待っている」は、前作「はあとぶれいく」の歌詞ですね。あちらでも歌っていた遣る瀬無さが、こちらでは諦観としてより強くなっている感じがします。曲調も全然違うし。

・ここでいう「悪魔」は「悪魔の証明」的に存在しないものの比喩だとすると、「悪魔と対決」は「明確な目標は無いけど、何かしないといけない危機意識に駆られている」といったところでしょうか。「待っている」だし。

M9:ブッカツ帰りのハイスクールボーイ

・タイトルからギターリフから夕暮れ感満載。もったりしたドラムも良いですね。これは左手でハイハットを叩いているな(名推理)。

・「冷めたからあげ」が持つノスタルジーは凄いですね。何らかの事情で昼ごはんの時間に食べられなかったところまで推測できる。

・「どしゃぶり」で土砂降りみたいなサウンドになるところも好きです。しかも一瞬だけ。最後の方、土砂降りのなかで唐揚げ食べてない?


M10:永遠少女

・先行してMVカットされてた曲ですね。鮮烈さというかインパクトはこの曲が一番強かった。

・聴けば分かるんですけどめちゃめちゃ直接的に戦争を歌ってるんですよね。ご時世もあるのかもしれないけど、曲の舞台は1945年。これまでの曲が一貫して持つ諸行無常感も、戦争に繋がるとまた印象が全然違います。

・「傷口が腐った かきむしった」「泥の川の水を飲んだ」などのやけに不快感を煽る表現によって、生理的に戦争への嫌悪感を駆り立てる歌詞が印象的でした。

・ドラマー的には、語りに入るところでハイハットを3/8拍子から外して細かく刻むところとか、流石だな〜と思ったり。


M11:YAKIIMO

・「ポテトサラダ」みたいなコミカルな曲かと思ったら全然違って、スネアロールで緊張感を煽りながら、いつもの語りのシリアスさを増している曲でした。石焼き芋の売り子の声も、夕暮れを強調する要素の一つだったと。夕暮れ時に無性に不安になり、どうにかなってしまいそうだという気持ちは少しわからなくもないです。

・淡々と情景を語り続けて不安を表現するのは「honnoji」に通ずる部分があるなと思いました。とかく、このアルバムの事実上のクライマックスですよね。

・「永遠少女」の次に置いていることで、戦争によって何が正しいのかわからなくなってしまった人が苦しんでいる曲のようにも感じます。それも毎日(「今日もまた夕暮れは〜」の部分)。


M12:乱土

・前の曲までで張り詰めた糸が切れるかのような、開き直ったような曲調。とても好きです。

・弦楽器がアイコニックにユニゾンしていて、雰囲気は明るいけど結局このアルバムが持つ不安感は変わらずあって、ちょっとバッドエンド寄りのエンディングテーマみたいだなと思いました。短いし。

・ちょっと前作の「泥沼」の流れも感じますね。また「サンドペーパーざらざら」も前作の曲名だったり。「cold beat」のおふざけにナマズが取り込まれる予感満載。


M13:胸焼けうどんの作り方

・ボーナストラックですね。まず曲名よ。リフも前の曲のまんまだし。鰹節80kgってどんな量になるんだよ。

・アルバムの1曲というよりは、ライブで「乱土」をやる時の途中のアレンジとして差し込まれそうな雰囲気だなと思います。「riff man」のライブ版が途中で「移民の唄」になるみたいに。この予想が当たったら誰か褒めてください。

・そう思って聴くと、冒頭がおんなじツェッペリンの「Good times Bad times」そっくりですね。意識してるのだろうか。


終わりに

・以上、全曲簡単に感想を書いてみました。狙い通り、聴いてみたくなる人が生まれたり、これを眺めながら聴いてくれる人がいたりするといいな。聴いた人いましたら一報頂けると喜びます。

・引き続きよろしく。

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