17_食べものとの関係性を育んでいく
実りの秋。
10月中旬に開催したSchool Food Forum では多くの学びや新たなつながりが生まれた。そのあと参加した全国学校給食研究協議大会では公立小・中学校の給食に関する動向をインプット。8つの分科会全部にそれぞれ参加したくなるほど、学びが多かった。11月頭には徳島県主催の「食育フェスタ」に登壇し、食農NPOの活動を紹介させてもらった。県内の食育関連の取り組みがズラッと紹介されており、一堂に会する、という場の良さを感じた。
今秋、町内の農体験も充実。大人×神山校生、小学生×神山校生、中学生×神山校生、保育園児×神山校生…さまざまな組み合わせで農体験を実施。自分たちの活動について誇らしげに語っている生徒の姿。保育園児に接するときのやさしい表情。対象が変われば、かかわり方も変わる。わたしが知っている生徒の姿なんてその子のほんの一部でしかないことに気づかされて、とてもよかったなぁと思っている。
School Food Forum 2023
10月半ばに開催したスクールフード・フォーラム。1ヶ月経ってじわじわと響いてくるものがある。中村桂子さんの言葉や考え方、それから鎌倉小学校の望月さんの実践。フォーラムでのお二方の言葉や発表を思い返しながら、先日1年ぶりに伺った鎌倉小学校の給食づくりについても触れたい。
日本的な自然観(中村桂子さんのお話から)
福島県喜多方市、そして北海道美唄市で小学校の「農業科」設置に携わった中村桂子さん。神山でも農業高校の先生、かつて農業高校で教鞭をとられていた方で中村さんをご存知の方が何名かいらっしゃって、来られる前から楽しみにされていた。
人間も生きもの。上から目線ではなく横から目線。「わたし」は「わたしたち」の中にいるということ。そのことを、生きものとのつながりを通して感じられるようになるということ。一過性の体験だけでなく通年で「農業」を時間割に入れることが大切だということ。お話を伺いながら、これまで中村さんが研究にかけてこられた年月とスケールの大きさに圧倒される。
農業とも関連するが、植物の成長を扱う教科「理科」についての話がとても興味深かった。学習指導要領「理科」の目標には、①自然に親しむ、④自然を愛する心情を育てる、という日本人的自然観に基づいた視点が入っている。これは、ヨーロッパの科学にはない日本人らしい自然観なのだそう。
中村さんの描かれた「生命誌絵巻」では、すべての生きものの出発点を40億年前の海にいた祖先細胞におき、そこから扇状に進化した多様な生きものが描かれている。
「わたしたちは、アリ一匹もつくることができない」
ほんとうにそう。でも、人がつくれないものがあるという感覚を、ときどき忘れてしまう。
空に浮かぶ雲、海辺の波の動き、太陽の温かさ、月の満ち欠け…。それらを眺める時間は、だからホッとするんだなと思う。人がつくれないものに触れる時間を、大切にしたい。
子どもたちと大豆を収穫した先日、さやを開いて観察したら、一つひとつ形や色が違う。「これは丸いよ!」「こっちはやわらかい」「3つお部屋がある」と言いながらワイワイしていると大きなカマキリがあらわれた。
2010年から「小学校農業体験学習」を行っていた美唄市は、2023年度から小学校の授業の時間割の中に「農業科」を位置付けた。これまでの「副読本」を「小学校農業科〝読本〟」に改め、授業を進めていく手立てとしての役割をより明確な形にして発行している。小学校で「農業科」を置いたのは福島県喜多方市に続いて全国で2例目。
読本の制作には中村桂子さんが特別アドバイザーとして関わっており、「あなたが生きものであることを学ぶ農業」という最初のページには、❶生きものは時間が必要、❷生きものは手をかけることが大事、❸生きものは思いどおりにならないことがある、という章立てで中村さんからのメッセージが寄せられている。
わたしたちの活動も、農体験から一歩進めるために「学びのステップ図(よい名称考えたい)」を制作中。子どもたちとの関わりの視点として、その場に関わる大人たちで共有したい/共有できる資料にしていきたい。
みんなで食べられる給食づくり(望月佐知さんの実践から)
横浜国立大学附属鎌倉小学校の栄養教諭、望月佐知さん。「半歩先の実践」が使命とされる学校で、教科の学びと食の指導を統合させた授業を展開されている。
昨年初めて授業を参観した際、食を通して広がっていく世界に驚いた。授業を受けていた3年生の子どもが、授業終了と同時に「楽しかったー!!」と呟いた瞬間が脳裏に焼き付いている。新しいことを知る、既知のものごととつながる、もっと知りたいという好奇心で満たされている、子どもたちの中で起こっていることはそういうことではないかと感じられる授業だった。
鎌倉小学校の給食は、食材選びにもこだわっている。調味料は地元の自然食品店から調達し、可能な限り有機食材を取り入れる。1食あたりにかかる食材費は同市の公立学校の食材費と比べると104円高い。それでも試食会時の保護者アンケートで「給食に期待するもの」を尋ねると「食材費を抑える」という項目を選ぶ保護者は0人。多くの保護者が「安心・安全な食材の質」や「おいしさ」を期待している。望月さんが鎌倉小学校に勤めるようになって以降、保護者向けに食育の講話や発信をし続けた積み重ねがあって、今がある。使う調味料が変わってくる家庭もあるというから、その影響力は大きい。
今年も3年生「すがたをかえる大豆」の授業を参観させてもらった。
大豆を使った食品は思った以上に多い。「打ち豆」や「おから」、「テンペ」や「大豆ミート」も出てくるし、授業で取り扱いのあった食材は給食にも登場する。家庭では馴染みの少ない「湯葉」や「高野豆腐」も給食で出すようにしているそう。苦手なものや食べられないものでも6年間のなかで食べられるようになることがある。望月さんはそれを、食材と出会う機会、子どもたちの成長の機会と捉え、給食の大切な役割だと話す。
この日の給食。メニューは大人気のきな粉あげパン。大豆の学習をした後でわかりやすく登場するきな粉!
パンは地元のパン屋に依頼してオリーブオイルで作ってもらっているという。甜菜糖ときな粉が絡みやすいようにねじった形状。豆乳スープは昆布で出汁をとり(細切りの昆布が入っていた)、味付けはハーブソルト、塩、胡椒のみ。自らつくり手に働きかけることで、望月さんの目指すより良い給食が生まれている。子どもたちが親しみを感じられるようなメニュー名には、担任の先生や給食委員会の児童のアイディアも反映されているそう。
最近、給食関連のニュースを聞いて心を痛めることが続いた。アレルギー事故もその一つ。鎌倉小学校の飲用牛乳以外の給食(主食と副食)は、アレルギー特定原材料8品目中、7品目【卵、乳、そば、落花生、えび、かに、くるみ】不使用でつくられている。衛生管理やオペレーションへの配慮、さらには「事故の原因を持ち込まない」という考え方が背景にある。牛乳やバターの代わりに豆乳やココナッツオイルなどを使用し、マヨネーズは豆乳マヨネーズを使用。子どもたちには毎日手書きの献立表が届けられる。
40人近くの子どもを見ながら突発的な児童対応にも時間を割く現場。確認を徹底することも大切だが、使う食材そのものを見直すことで事故が起こらない状況を作っていくことは、より健やかな対策に思える。食事制限をもつ児童ももたない児童も、みんなで同じ食事が食べられるのだから。
アレルギーの他にも、宗教、思想、体質によって摂る食事は様々。「一緒に食べられる給食」という観点を取り入れたメニューが一品ずつでも増えていくと良いなと強く思う。
自分自身も給食の現場に入って見ている今年は、昨年以上に気づきが多かった。厳しい衛生管理や時間の制約があるなかで工夫を凝らし、新しい試みを続けられている望月さんの推進力に、毎度勇気をもらっている。
食べものと仲良くなる取り組み
今週は、神山町内の小学校で収穫ラッシュ!
広野小学校の1,2年生の子どもたちと大豆を収穫し、神領小学校の2年生とレタスを収穫し(予定よりずいぶん早い収穫となった)、その翌日は神領小学校の支援級の子どもたちとサツマイモを収穫した。
農家にとったら非効率と捉えられる成長のバラつきも、子どもたちにとったら「なぜ?」を考えるタネになる。
低学年の子どもたちは、大豆の茎を切るだけの作業でも「やってみたい!」と言い、レタスの収穫時に出てくる白い液体(ラクツコピコリンというらしい)は「舐めてみたい」と口にする。サツマイモを掘りながらモグラの穴も見つけた(モグラには会えなかった)。
畑には、教室の中にないものがたくさんある。
子どもたちの働きかけが、生まれ続ける畑にしたい。