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素直が一番論の是非 #タレンティズムの基本

先日、とある勉強会に参加した際、若手の設備会社の次期経営者による、「なんのために経営するのか?」との問いに対するアンサートークを聞きました。20数年前に設備配管の職人だった父親が震災からの復興を機に忙しくなったのをきっかけに、下請け、孫請け工事を行う設備会社の家業を手伝うようになってから、現在、自分が第二創業に取り組んで、水回りリフォーム専門店として立派に元請け工事店としてショールームを出店し安定した業績を重ねて事業を拡大するまでの軌跡は、ちょっとしたサクセスストーリーで、とても楽しく聞かせてもらえました。住宅設備機器メーカーの後押しと手厚いサポートを受けて設備職人が元請け化するモデルケースのようなその話を聴いていて、素直に学び、愚直に実践することの大切さと、誰しもが持つ大きな可能性に改めて気付かされました。ただ、そこはかとない違和感も覚えたので、以下に整理してみたいと思います。

素直が一番

経営の神様と言われる松下幸之助翁は「素直」こそが最も大事な在り方だと言い残されています。昭和時代に立身出世を果たした数々の経営者の中でも突出して有名な日本を代表する経営の神様が口にされた言葉ですから、小さな工務店と社団法人の代表を務める私が異を唱えるようなことをしてもしょうがないのですが、昭和の人口ボーナスの恩恵を受けて、物を作れば売れる時代と今の令和時代とは全く世の中は変わりましたし、市場自体もマスマーケットが消滅したと言われるほど、当時とは比べ物にならないくらい大きく変化しているICT革命、DXの真っ最中の今、昭和時代の価値観、モノの考え方がそのまま通用するとは考えにくいのは明白です。

上述の下請け設備工事店の元請けリフォーム会社への華麗なる転身の成功は「素直に学び、実践」がキーワードになっておりましたが、それも阪神大震災を起点としているとのことでしたので、まだ、ギリギリ昭和の価値観が残っていた時期ではなかったかと思います。私自身も下請け大工から起業して20数年、同じ時期にチラシやイベント、HPを活用しながら事業を立ち上げました。少し業態に違いはありますが、同じようなダイレクト・レスポンス的な認知拡大から集客を行う流れで生業を立ててきたのは間違いありません。その意味では、私も素直に、貪欲に学び、教えてもらったことを実践してきたからこそ、今があると思っています。

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世界は変わった

いくら神様が残された至言と言っても、素直にそれだけを念じていれば何事もうまく行くわけはありません。これまでの建築業界を取り巻く環境と、これからでは全く違うものになると思っていますし、今現在、既にその兆候は顕著に表れています。リフォーム業界で考えれば、メイン顧客層だった元気なお金持ちのシニアはそろそろいなくなります。団塊の世代の後期の層の人たちは低金利時代に貯蓄しており、これまでのシニア層に比べて圧倒的に預金額が少ないのがデーターで示されています。そして、働き盛りの期間を失われた30年間の社会で過ごしてきた年代は、平均所得が下がり続けるという先進国ではありえない環境の中働いてきて、老後資金2000万円を貯蓄するのさえ難しい人が大半になっています。その下の団塊ジュニアと呼ばれるこれから顧客になるはずの層も可処分所得は減少を続けており、そして、若干、昭和時代の価値観の名残も残しつつも、随分とデジタル・リテラシーが進んで、これまでのリフォームの広告、認知拡大の主役をになってきたチラシなどのマス媒体による宣伝広告には全く興味を示さずに何もかもインターネット検索で情報収集を行います。その下の世代になれば言わずもがな、WEB上で存在感を示せる会社だけが覇権を握る時代に既に突入しているのは誰もが気づいているところではないでしょうか?

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不易流行

インターネットによる情報の媒介はGAFAに代表されるグローバル大手企業が世界を制覇するかの勢いで圧倒的な強さを誇ります。寡占化が進み、巨大国際資本に資金が集約されるこの流れは、現在、G20の会議で税制改革の協定が議論されてはおりますが、その程度では止めようがないと思うほどです。しかし、その大手IT企業が運営するSNSはスモールビジネスに大きなチャンスをもたらしてくれるのもまた事実です。大きな資本を持たなくても、デジタルリテラシーとデザインセンスを強みに業績を伸ばすことは可能で、実際、現在成長している企業は規模の大小を問わず、その部分に強みを見せている会社がほとんどです。

こんなに大きく世界が変わり、今までの常識は全く通用しなくなったとよく耳にするようになりました。しかし、同時に人の本質的な営みは石器時代の一万年前から対して変わったわけではないとも言われます。俳句の世界を大成させた松尾芭蕉は「不易流行」との言葉で、変わるものと、変わらざるもの両方をとりいえることで価値を生み出し、時代を作れると言われています。本質、原理原則、真理はいつの世も変わらない、やっぱり謙虚さを持って学ぶ姿勢を作りだす素直さは非常に重要だと私は思っています。ただ、世界が新しい価値観に移り、パラダイムシフトが繰り返される現代は情報の坩堝であり、何が真実で、どれがフェイクなかの見分けがつかなくなってしまいました。なんでも素直に受け入れるだけでは、混乱するばかりか、思考停止に陥って足を竦ませてしまうことになりかねません。素直なだけではなく、何が本質で何を信じるべきなのか、一定の批判的な視点も持ちながら自分自身で判断する基準をしっかり持つことが必要です。素直に謙虚に、学ぶ姿勢を保ちながらも、必要な批判を明確に意思表示できるように、様々な視点で物事を観る必要があると思うのです。不透明で不安定、複雑、曖昧と言われるVUCAの時代を生き抜くには、長年、忘れ去られていた古典を今一度紐解き、確固たる哲学と信念を持てるような学びが欠かせないと感じた次第です。自立した人格こそ、タレンティズムの基本になると思うのです。

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