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関係性の質を高める戒語と幻の講話

国民教育の父と言われた森信三先生の著書「修身教授録」をバイブルの様に右に置く経営者が私の周りには多くおられます。その森信三先生の教えを今も守り、実践に勤む人たちが集うコミュニティ、「実践人の家」の総会が先日、尼崎で開催され私も会員の1人として今年も足を運びました。そこで戦後になってからの森先生の講義をまとめた「幻の講話」なる書籍を購入して疑似体験の受講を夜毎行ってます。激動の明治に生まれ、没後30年近くなっても今なお森信三先生の言葉は輝きを失わず、語り口をそのまま書き起こした文章は胸に染み込みます。

良寛の戒語

幻の講話の中に、学生に向けて人としての器を大きくして、成長するための戒めの言葉がありました。純真無垢な女学生に向けた言葉ですが、酸いも辛いも知り尽くしたはずの50歳の半ばも過ぎた私も恥ずかしながら今更ドキッとさせられました。人としての在り方を表出化させる、コミュニケーションの基本としての言葉の使い方の難しさ、無意識のうちにやっちまっているのではないかとの危惧を感じました。その戒めの言葉を備忘録がてら書き残しておきます。

良寛の戒語

一、言葉の多き
一、口の速さ
一、さしで口
一、学者くさき話
一、手がら話
一、風雅くさき話
一、はなしの長さ
一、さとりくさき話
一、へつらう事
一、物言いのはてしなさ
一、あなどる事
一、人に物くれぬ先にやろうという
一、おしのつよき
一、鼻であしらう

良寛の戒語

最も愛された僧との10年前の出会い

良寛と言えば、日本で最も愛された僧侶としてその名を知られ、越後から全国を歩き、素晴らしい書を多く書き残したことでも有名です。以前、新潟とのご縁を頂いたことをきっかけに小説『良寛』を読んだことがあり、その生き方、在り方に大いに感銘を受けました。
経営と実践を学び続けてきた流れでその良寛禅師が今になって繋がるのだと日本の文化、精神性の奥深さに触れた気がします。
ちなみに、雲にたのみ水が流れるごとく托鉢をしながら全国を流れ歩いた後、故郷である越後に帰ってきて居を結んだのが国上寺に上る山道の真ん中ぐらいとされた『五合庵』です。いまも当時の風情を偲ばせることが出来るように小さな建物がひっそりと残されています。以下は10年前に五合庵を訪れた際に書いていた私の所感です。

2013年12月10日
五合庵考

南に向かって大きく開け放たれた開口を持つその小さな庵は麗らかな春の日や涼しくなり始めた秋の日等は随分と過ごしやすそうでしたが、厳しい雪国にあって、戸板一枚で外気の寒さを防げる訳も無く、日本海からの寒風吹く荒ぶ中すきま風と闘いながら結跏趺坐を結んで日々修行を積み重ねられていたのは随分と厳しい修行だったのだろうと、ネズミ色に朽ちた床板に上がってみて実感することが出来ました。

五合庵

地位や名誉、名声や評判でさえ全て捨てて、生きる為の最低限の食物だけは托鉢行で村人の門に立って仏法を説くことでお布施をもらう。
ただひたすらこの小さな庵で座禅を組み、漢詩を詠み、和歌を吟じた人生は実際に見てみるとあまりにもちっぽけです。
しかし、そのあまりのちっぽけさが日本中で最も愛された僧と言われ、私の様な後世の信仰とは関係のない者まで惹き付ける魅力だということでもあります。
五合庵の南向き1間半の開口は視点が小さければ小さい程世の中を広く見渡せたのかも知れません。

一人の人間の仏法を極まるという念いを体現した生き方が精神を鍛え、魂を磨き続けることの重要さを多くの人に深い共感を呼び、後世に渡って人は何の為に生きるのかという問いを投げかけ続けるほどの大きな影響を持つ。
この度ご縁を頂いてその出所に座り、考える時間を持てたことは、私自身のこれからの人生に大きな影響を与えられることになる様な気がしました。

五合庵

愛のある言葉が全ての源となる

森信三先生が良寛の世界観に触れ、その思想を深く学び、人生の戒めとしてその言葉を心の奥に留め置かれ、若者に伝えようとされていた講話を読んで私が感じたのはやはり本質や真理は時代を超えてあり続けるものであり、そしてその殆どが日本で培われ、熟成されてきたとの事実です。
逆説的に考えれば、森信三先生が若者に伝えた戒めを体現された人は、結局、日本で最も愛された僧侶になったという事になります。
情報革命が世界の隅々まで行き渡り、多様化と多様性を受け入れる個性を生かす時代において、あらゆる事業や組織が生み出す成果の質はステークホルダーを含めた組織を構成する人と人の関係性の質に由来すると言われます。もっとシンプルに言い換えれば「愛」が相互間で存在するか?と言うことでは無いかと私は考えています。その根本はコミュニケーションであり、まず初めの一歩として、良寛和尚の戒語を身につけろと森信三先生は説かれているのだと思います。圧倒的な先見性を持たれていたのか、真理は時代を越えるのか、その両方なのかも知れませんが、とにかく今の時代にこそ、森信三先生の幻の講話に耳を傾けるべきだと強く感じた次第です。愛のある言葉でのコミュニケーションの元となる森信三先生の幻の講話のご一読を強くオススメします。

森信三著 幻の講話

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森信三先生から受け継がれてきた実践哲学を職人育成の高校と職人起業塾で伝えています。

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