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建設業界にトドメを刺す2つの制度改悪

私の創業時のミッションは職人の地位向上です。学校での生活に合わなかった自分を含め、学歴社会から溢れた若者の受け皿として機能してきた建設・建築業界の職人の地位があまりにも低い、なんの社会的補償も無く、未来が見えず、道具のように扱われるのを経験し、強い憤りを感じたのと同時に、このままでは日本に職人がいなくなる、ライフラインの維持も、産業の発展も出来なくなると危機感を覚えました。

人づくりは志と在り方から

職人の社会的地位を向上させる!との志を立てて事業を始めたのですが、実際に取り掛かったのはまず自分たちの食い扶持を確保することでした。がむしゃらに働いて、なんとかそこそこ安定した生活が送れるようになってから、一緒に働いてくれていた職人たちの暮らしをもっとまともにしたいと、正規雇用に踏み切り、社会保険、厚生年金の加入と異業種と並ぶ程度の環境を整えました。
安心して働ける場をまず提供して、その上で、会社の目指す方向を示し、共に外部環境の変化に振り回されない持続可能なビジネスモデル構築の為の取り組みを進めました。それは、事業所の評価を担う現場での品質、工期、コミュニケーションの改善であり、契約までの顧客接点を担う設計メンバーと、現場で実務を行う職人達が、何のために我々は建築の仕事を行なっているのか?との問いに対する明確な回答を共有する、姿勢と思考、そして態度の変容です。
スタッフメンバーの理解と実践のおかげで、全く宣伝広告を行わなくても顧客や知り合いから継続的に仕事のオファーが頂ける無販促のモデルを10年以上前から続けることが出来ています。その全てのスタートは職人を人としてみる。道具ではないとの在り方を示したことに由来しています。

動き出した職人不足問題の根本解決

そんな実践経験を持つ私としては、モノづくりの事業は人づくりであるとの確固たる信条を持っています。昨今、業界を超えて大きな話題になっている職人不足問題もこの観点をしっかりと持った事業者が増えると根本から解決できると思っていますし、現在、職人を正規雇用する前提の事業者が集まって全国で展開を始めた職人育成の高等学校、マイスター高等学院には全国からひっきりなしに問い合わせが入っています。若者に入職して貰いたかったら、若者が働きたい環境を作りしかない。との、当たり前の理屈だけに共感頂く会社が加速度的に増えています。
現在、小中学校では33万人とも言われる児童が不登校になっています。そして、その子供たちもほぼ全員、高校に進学するのですが、そもそも学校に適応していない、学校に通う意味を見いだせない子供達なので、少なくない数の生徒が高校生活の途中で離脱します。その数、なんと10万人/年に上ります。大工の数は全国で20万人を切ろうかとしており、若者の入職者が皆無であるにも関わらずです。若者がいないのではなく、ただ単に建設・建築業が若者に選んでもらえないだけなのです。

現実と乖離した法改正

建設・建築の事業者が高校の機能を持ち、地域の子供を受け入れて育てるマイスター高等学院のスキームが定着、認知されると、必ず若者が集まる会社になります。学歴社会に縛られず活躍の場を求めている若者がゴマンといるからです。これが私たちが提唱している職人不足問題の根本解決のスキームです。
しかし、こんな私たちの取り組みに水を指すのが、2024年問題と言われる残業時間規制から免除されてきた特定業種制度の解体です。これまで、繁忙期には残業や休日出勤で対応出来る様に規定されていたのが、一般の業種と同じように週40時間の残業の網をかけられてしまいます。残業時間の割増を認める制度になっておりますが、現実の職人の労働時間とは全くかけ離れた規制になっており、焼石に水をたらした程度の緩和処置であり、全く実態とは整合しません。(年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年6ヶ月が限度)
私は職人の地位向上を志に掲げている人間ですので、職人の働き方がもっと余裕のある、仕事以外の時間をたっぷり取れるようになること自体は全く意義を唱えるものではありません。しかし、労働集約型のモノづくりでは、休日を増やせばその分顕著に成果は遅れます。当然、職人の所得も下がるので、それを良しとする職人は週休2日で残業を月に40時間以内に収めて働けばいいと思います。残念ながら、もっと所得を減らしてでもプライベートの時間を増やしたいと思える程、職人の所得は高くなっていない現実があります。

建設業界滅亡へのWパンチ

2024年問題の本質は、所得を減らしたくない職人が圧倒的多数であること。そのニーズを満たそうとすると、殆どの職人を正規雇用している事業所は法律違反になってしまうことです。この相反する問題を解決するのに誰もが思いつくのは、職人を正規雇用から外して、外注扱いの見せかけ個人事業主として働いてもらうこと。
そうすれば(現状はその様な雇用体系をとっている事業所が殆どなので、あまり気にされていない人も多いかと思いますが、)事業所はバカたかい社会保険も厚生年金も事業所は負担しなくて良くなるし、有給休暇なんて元々職人の世界にはあり得なかった制度も無くすことが出来ます。また、暇になった時は給与を払わなくても良くなります。人員の在庫がなくなるのです。
そうすれば、見せかけだけですが、職人の手取りは増えることになります。労働基準法には適法となるので、経営者は胸を張るかも知れません。
しかし、職人の地位はまた下がりますし、全く若者は入ってこない、見向きもされない業界として衰退の一途を辿ってしまうのは火を見るより明らかです。おまけに、インボイス制度で個人事業主の職人は本来払わなくて良いはずの消費税を払わされるか、もしくは元請けの事業所が表面上それを引き受けて、その分のコストダウンをまた職人に皺寄せするかのどちらかです。
職人不足を加速させるしかないWパンチを今の日本政府は打ち出しているのです。

日本人の在り方の再設定

この悪手のタチが悪いのは、反対を唱える人が圧倒的に少ないことです。
そもそも、職人不足は建設・建築業界のみならず、日本全体の社会課題だと言われているにも関わらず、その解決のために費用を捻出して、職人の働き方を安定させる、所得をあげる、若者を育てるといった取り組みに足を踏み出す企業が極々僅か、一握りの事業所しかいません。圧倒的多数の事業者は職人不足問題は誰かが解決してくれるのを待って、自社の今、金儲けにしか興味を示さないのです。残業時間の上限規制に真面目に向き合う経営者さえ皆無とまでは言いませんが、対象を職人に限ればまともに考える経営者は殆どおりません。
私が思うには、それもこれも、建設・建築業界の経営者が悪いのではなくて、全て日本人が「今、金、自分だけ良ければいい」との品のない、志のない、責任もない在り方になってしまっているからで、それは取りも直さず、先の世界大戦での敗戦後、昭和〜平成と行われてきた奴隷教育の賜物だと思っています。
しかし、本来の日本人はそんなに視座の低い民族ではありません。三方よしの商売を目指し、士魂商才と言って倫理観と美学を持って仕事に向き合いました。だからこそ、焼け野原の植民地になった無条件降伏からジャパンアズナンバーワンと言われるほどの復興を遂げたのだと思っています。それは、間違いなく、戦前の明治、大正時代の教育を受けた先人たちです。今一度、神道と仏教と儒学を混ぜ合わせ、独自の価値観、倫理観を醸成してきた日本式の教育を(社会人も含めて)国民全体に施す必要を強く感じます。
在り方を無くした人たちに、本来の在り方を取り戻してもらうことこそが、このどうしようもない制度の改悪に対する唯一のアプローチではないかと思うのです。

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職人不足の根本解決への取り組み、同志を募っています!



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