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消費が変われば、社会が変わる

今月から再び小売業で、苦い思い出のある役職に就くこととなります。

あの時抱えていた「お客さんはこの商品を本当に欲しいと思っているんだろうか?」「自分はお客さんの生活に本当はいらないものを売りつけようとしているんじゃないか?」という課題への答えはまだ見つかっていません。

ただ、せめてこういう気持ちを持って、与えられた役割を果たしたいというものはあります。

それを忘れないように、ここで書き留めておきたいと思います。

消費が過剰な社会

消費が世の中を動かしている現代社会では、消費をひたすら早く、多くする必要がある。消費がストップすれば、不況を招くからだ。こうして世の中は、もっと売るために、もっと人々が働くために、〝使い捨ての社会〟を実現したが、この社会で生きていくには、消費し続けるしかない。

これを言ったのは、世界でもっとも貧しい大統領として有名なウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏です。

現在、世界で豊かさを示す指標の一つとして使われているGDPは、モノを買ったり何かサービスを受けたりした際に使われたお金の総額です。これが高いほど「国内でたくさんのお金が回っているから景気が良い」と判断されます。
また、GDPが高いということは、国民がたくさんの商品やサービスを購入・消費しているということなので、物質的に豊かな国という判断もできます。

各国では戦後復興期から高度経済成長期にかけて、この数値を増大させることに力を費やしてきました。その結果、現代はモノがあふれ、それを買わせるために消費を促す社会が生まれました。

消費者が大きな力を持つ時代

消費を増大させるために動く社会では、消費者が大きな力を持ちます。なんてったって、買ってもらわなければ消費は生まれません。

なので、企業はお客様に買ってもらうためにあれこれ知恵を尽くしています。

そんな企業努力の一つが、価格を下げることでしょう。

最近は似たような商品が多く、商品を選ぶ決め手が「こっちの方が安い」という理由で決めることが多くなっています。そうでなくても、安いものの方が家計的にも助かります。

それもあってか、多くの企業が安売りを企業戦略の一つとして考えています。昔、牛丼チェーンの安売り合戦なんてものもありました。

ただ、一つ考えてみてほしいのは、商品は何もなかったところにポンッと急に出てくるものではないんです。それを作るための原料があって、それを製品するための人や機械があって、それをお店に運ぶための車があって、と色んな工程を経て、あなたの手元に届いています。そして、要所要所でコストがかかっています。

商品が安く売られているということは、どこかにしわ寄せがきているということです。もちろん、涙ぐましい企業努力により、安価に原料を仕入れたり、生産性の向上でコストを削減できていることもあるでしょう。その一方で、人件費を削減するため安い給料で働かせたり、残業代が出なかったり、海外の原料を安く買い叩いているということもあるでしょう。
「ブラック企業」という言葉が流行っていますが、安いものを求める我々消費者はそれが生まれることに加担しているのかもしれません。

消費に自分の意志をのせて

安物買いがブラック企業につながるのであれば、逆に良い企業が生き残るような買い物もできるはずです。

商品の代金は、それを買ったお店、お店まで商品を運んだ会社、商品を作った会社、商品の原材料を供給した会社、・・・とその商品を作るところから販売するお店に届け消費者の手にわたるまでに関わった会社へと分配されていきます。
つまり、私たちが払ったお金をみんなで山分けしているんです。

会社はそのお金で従業員に給料を払ったり、商品の製造や新商品の開発をし事業を継続・発展させていくことができるので、消費活動はその商品・サービスを提供した会社や従業員を応援しているのと同じことと言えます。

私は森永のダース(ホワイト)をよく買うのですが、商品の裏を見るとこんなことが書かれています。

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なんとダースを買うと、売上の一部がガーナなどのカカオ生産国の教育向上に寄付されるんです。これを知ってからは、チョコが食べたくなったらなるべく森永のチョコを買うようにしています。

ダース以外にも買うことで寄付につながる商品はたくさんあります。例えば、いくつかの食品についている赤いカップのマークはWFP(国連世界食糧計画)が世界の子どもたちに学校給食を届けるのを支援できるものです。

寄付以外でも、児童労働に関心のある方はフェアトレードの商品を購入したり、自然や熱帯雨林に関心のある方はFSC認証やレインフォレスト認証の商品を購入するなど、自分が関心のある社会課題に対して、消費をすることで意思表示ができるんです。(「エシカル消費」って言われているやつです)

すべての買い物をそういうものに変える必要はありません(私もたまにはアルフォート買います)。いつも買っているものを、たまにそういう商品に変えてみるだけでも十分だと思います。そういう商品が少しずつ売れるようになれば、企業はそれに力を入れ始めます。そういう企業が増えれば、少しずつ社会はステキになっていくんです。

消費者一人ひとりの日常の小さな行動は、企業を変え、社会を変えていく力を持っています。

小売業にできること

では、そういう消費を促すために小売業ができることってなんでしょう?


それはやっぱり、良い商品を選んでお店に置き、それが売れるようにすることだと思います。

小売業も一企業ですから、企業を存続・成長させるための売上目標や利益目標があり、それを達成することが現場には求められます。

目先の売上を求めるのであれば、大手の有名商品や安売り商品が売り場を埋めることとなります。エシカルな商品って、まだそんなに売れないんです。

売れなくてもいいというのであれば話は別ですが、それを上が認めてはくれないでしょう。

そうであるならば売れるようにしていくしかありません。自分が良いと思う商品を買ってもらうために、その良さをPRしていく、消費者に自分の姿勢を伝えていくことが大事だと思います。

以前、アメリカのスーパーの魚売り場で魚種ごとに色分けされた表がありました。
そこには、その魚の資源量がどれくらいあるかが書かれていて、消費者が「この魚は資源量が減っているみたいだから、まだ余裕のある魚を食べることにしよう」といった資源量の多寡に応じた選択ができるようになっていました。他にも、消費者と生産地を巡るツアーを組んでいたりと、消費者と一緒に「食」を学ぶ姿勢を示しているのがとても印象的でした。

小売業というのは、過剰な消費を促すのに一役かっている企業の一つです。それが消費を抑制するような行動を取るというのは、自社の存在を否定するような行為だと思います。ただ、小売業があることで引き起こされている社会課題があるのに、目を背けたまま活動を続けるというのは、個人的にあまり気持ちのいいものではありません。
これは私の性分ですが、気づいてしまった課題をそのまま放っておけません。

既存の取引先との関係や売上目標など、様々な課題はあるでしょう。でも、そこはバランスを取っていくしかないかなぁと思っています。
いきなり全部を変えようと型破りなことをしても受け入れられません。まずはきっちりと常道である「型」をやって、成果を出してからの「型破り」です。

売って利益を確保するという企業として当たり前のことをしつつ、少しでも社会が良くなる消費を促す流れを作っていくというのが、新たな場所での私のチャレンジです。

よかったら応援してください。

消費をすることは、大げさではなく、社会を「創造すること」でもあるのです。
(藤野英人「投資家が『お金』よりも大切にしていること」より抜粋)

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