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もういちど、生協

生協とスーパーの違いって何か分かりますか。生協に勤めたことの無い人からしてみたら、そんなことどうでもいいのかもしれません。スーパーと同じように食品や生活雑貨が買えるところというふうに思っている人が多いかと思いますが、その始まりは人々の「つながり」から始まっています。日本の人口が減っていくにも関わらずモノが溢れたこの世界では、その「つながり」というものが改めて大きな意味を持つと思っています。

1.生協の起こり

そもそも生協はどう始まったのか。最初の生協は19世紀のイギリスで発足しました。当時イギリスは産業革命が起こり生産量が飛躍的に増加した一方、労働者の労働環境は悪く、生活においても混ぜものの入った商品や目方の足りない商品を高価格で売りつけられるという立場でした。そんなみじめな生活に耐えかねた労働者たちが自らお金を出資し合い作ったのが「ロッチデール公正開拓者組合」です。この時売り場に並んだのが、小麦粉、バター、砂糖、オートミールの4品でした。このとき定められた運営原則は今日の世界の協同組合原則に受け継がれています。
(1.自発的で開かれた組合員制 2.組合員による民主的管理 3.組合員の経済的参加 4.自治と自立 5.教育、訓練および広報 6.協同組合間協同 7.コミュニティへの関与)

日本では明治初期に生協が作られはじめ、現代の生協につながるものとしては大正時代に現在のコープこうべの前身となる神戸購買組合と灘購買組合が設立しました。

2.モノがあふれた世界

現代日本では、未だ貧困が残るところもありますが、概ね安全な食品を手に取れるようになりました。これには、組合員運動など先人たちの努力のほかにSNSの普及によるものも大きいと思います。なにか商品で問題を起こそうものなら一気に拡散され企業の存続に関わるような案件も多くなりました。そして、ある程度の安全性を前提としたうえで企業は成長を目指すため、消費者のニーズに合わせ多種多様な商品が生みだし、今ではフードロスが問題になるほど食品があふれています。
かつて商品がなかなか手に入らなかった、または手に入っても品質が悪かったころから比べれば、随分と発展したように思えます。ただ、それによって生協も他の小売業と同じように競争に巻き込まれ同質化し、冒頭の「生協とスーパーの違いが分からない」という状況を生み出したのではないかと思います。
生協の原点は、生活の中で困ったことを地域の人たちが協力して解決することでした。それが生協とスーパーの違いであり、その原点に立ち返ることがこれからの生協の進むべき道なのではないかと思います。

3.「つなぐ」生協

下図は心理学者マズローが人間の動機づけに関する理論で提示した「欲求5段階説」です。人間の欲求はピラミッドの下から始まり、それが満たされるとどんどん上へと欲求が変わっていくことを示した図です。

生協が起こった頃の人たちはピラミッドの下段「生理的欲求(生命を維持したい)」「安全欲求(身の安全を守りたい)」という動機で行動を起こしました。時代が進むにつれ、その2つの欲求が満たされたのが今の日本の状態です。そうなると、次に人々が求めるのは「社会的欲求(他者とつながりたい、集団に所属したい)」や「承認欲求(自分を認めたい、他人から認められたい)」といったものです。つまり、人は物質的に豊かになり、安心・安全に対する欲求が満たされると、充実感やつながりといった心の欲求を求めるようになるということです。「新 協同組合とは そのあゆみとしくみ」にはこんな記述があります。

企業活動が盛んになり、お金さえ払えばほしい商品が簡単に手に入ることは、確かにいい面があります。行政機構が確立し、さまざまなサービスが充実するのも結構なことです。しかし、そのようになればなるほど、私達の生活は「受け身的」で他人まかせのものになっていくという問題があります。一度しかない自分の人生を、自分の納得できるやり方で生きてみたいという願望が人間にはありますから、商品があふれ、行政サービスが行きわたれば行きわたるほど、そうした「受け身」の生活に満足できず、もっと輝いて自己実現をしてみたいという人びとの気持ちも高まっていきます。

人の欲求がこのような段階にシフトした今だからこそ、生協の原点である人と人との「つながり」が重要になってきます。某生協では「つなぐ」をキーワードとして掲げていますが、こういう状況を見据えていたのかもしれません。

4.生協 × ファンドレイジング

3年前からファンドレイジング(NPO等の資金調達)について勉強をはじめて、それが最近は生協とすごく親和性があるんじゃないかと思い始めています。
ファンドレイジングとは、民間非営利組織の資金集めのこと。単に活動資金を調達することではなく、支援を募る過程を通じて、より多くの人たちに社会の課題を示し、理解と共感を得て、その課題解決への参加者を増やして社会をより良くしていく取り組みです。繰り返しますが、生協は生活の中で困ったことをみんなで協力しながら解決してきました。その過程は、ファンドレイジングととても似ていると思います。この親和性の高い2つが掛け合わさった時にどんな可能性があるんだろうと、日々妄想しています。

生協という仕組みがもう一段上がった先にどんな世界が見えるのか、ちょっと楽しみですね。