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おばあちゃんのまぶたにラメを塗る

4月に担当書籍『看取りケア 介護スタッフのための医療の教科書』が刊行されました。

本書は介護施設に勤める職員の方を対象に、看取りに関する知識と技術を実際の流れに沿って解説したものです。

しっかりした知識をもてば不安が解消できるほか、専門職としての自信もついて的確な対応ができるようになります。意向確認や臨終時の対応、医療職との連携など、介護職として知っておきたい情報を詰め込みました。

制作中に祖母を看取る

実はこの書籍の制作中、編集の私自身も施設に入所していた祖母を看取りました。高齢で、認知症も進み、面会のたびに「会えるのは今日が最後かな」と思い覚悟はできていたので、気持ちが急落下することはありませんでしたが、やはり寂しかったです。

家族で進めていた事前の準備、施設の方とのやりとり、あらゆる一連のできごとがまさにこの書籍で取り扱っているものばかりで、いろいろと感じるものがありました。

施設の方は大変親切で、夜間の対応だったのにも拘わらず私たち家族が疑問や不安を一切感じない対応をしてくださいました。本書では看取りケアを実施している施設で介護職員が備えておきたい技術・姿勢について触れていますが、それらを体現されたような職員さんで、その存在は家族にとって、とても心強いものなのだと身をもって実感しました。

エンゼルメイクがもつケアの力

施設から移動し、納棺のために家族が集まった際に、湯灌ゆかん 師の方が「ぜひご家族のみなさまでお身体を洗って差し上げてください」と声をかけてくれました。

※湯灌:納棺の前に、湯船やシャワーを使って故人の体を洗い清めること

本書『看取りケア 介護スタッフのための医療の教科書』のPART4には、次のような文章があります。

死後の処置と死化粧のことをエンゼルケアといいます。ご遺体をきれいにし、身なりを整えてお化粧をします。初めて行うときは戸惑いもあるかもしれませんが、エンゼルケアでご遺体を美しく整えることには、家族ばかりでなくスタッフの心も癒すグリーフワーク(喪の作業)としての効果があります。

エンゼルケアには家族も参加できますが、無理にすすめる必要はありません。「一緒になさいませんか」と声をかけ、その意思があれば家族の意向を聞きながら実施しましょう。家族が行いやすいのは、清拭や着替え、死化粧などですが、髪を洗ってあげたい、爪を切ってあげたいなどの希望があれば行えるように支援します。

『看取りケア 介護スタッフのための医療の教科書』
(介護と医療研究会著、翔泳社、2024年)p114

※エンゼルケアの範囲やタイミングは場合によって異なります。今回のコラムように、施設ではなく葬儀会社が行う場合もあります。

「グリーフ」は一般的に「悲嘆」と日本語に訳され、大切な人を失った悲嘆からの立ち直りのプロセスのことを「グリーフワーク」といいます。

原稿で読んでいた通りの流れだなあ、と思いながら実際にやってみると、文字で読んで理解していたよりも数倍もの効果に驚きました。効果というとやや冷たいですが、心の満たされ具合、悲しみのやわらぎ具合といったような感覚です。

家族で分担をして全身を清め、マッサージをします。湯灌ののち、着替えやエンゼルメイク(死化粧)を行うことは事前に知らされていたので、生前に使っていたものなどを準備してありました。

ところで私はアイメイクの仕上げによく使うラメがあって、まぶたにのせるときらきらして可愛いので気に入っています。たまたまいつも通りポーチに入っていたのでこれどう? と言ってみたところ、塗ってあげようということになりました。

80歳越えの祖母にしては、20代のメイクは若いんじゃないのと思いましたが、周りに「いいからいいから!」と言われたので遠慮なく塗らせていただきました。 

結果めちゃくちゃきらきらになりました。おばあちゃん、孫愛用のラメどう?

きっと思い込みでもよくて

始めは涙の流れる厳かな時間でしたが、メイクが始まると「お義母さんにはこっちの色がいいんじゃない?」「あ、塗りすぎたママごめん」「この場の誰よりも美肌なんだけど」などなど、喪の空間とは思えない明るさがありました。私自身も、思いがけず祖母とおそろいメイクになり、嬉しいような可笑しいような気持ちになりました。

わいわい騒いでうるさかったのではと思いますが、いつも穏やかで優しい祖母でしたから、きっとこの騒ぎも見守ってくれていたのではないかと思います。思い込みかもしれませんが、そう思えることそのものに意味があるような気がしました。

人生の最期を迎える人に対して、もっとこうしてあげたらよかったなとか、たくさん会いにいけばよかったなとか、後悔の念が残ることは多いと聞きます。

そんなとき、頭や体に触れて洗ったり、お化粧をしてあげたりすることは、貴重な思い出となって心をあたため、悲しみから立ち直る手助けをしてくれるのだなと感じました。

さいごに、書籍を制作するなかで、そして祖母の看取りを通して、人が死を迎える過程に寄り添い支え、家族のサポートまでもを行う介護のお仕事に対し、あらためて尊敬の気持ちを抱きました。

本書が利用者の終末期に向き合う介護職員のみなさまの助けになれましたら幸いです。

(編集部 松本)

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