因習だらけで身動きできない組織に変革をもたらす「出島組織」とは?
社内で「新しいこと」をやろうとするとさまざまな課題が立ちはだかりますが、その中でも越えがたい障壁が組織間の軋轢や複雑な人間関係、前例主義、事なかれ主義などの因習です。
どうやってこの因習を乗り越えて新しいことに取り組めばいいのでしょうか。そのヒントが出島組織です。
出島組織は出島組織サミット実行委員会 副会長の倉成英俊さんが広告会社の新規事業部で働いていたときに出会った言葉で、「本体から離れて新しい価値を生む組織」と定義されています。
翔泳社ではこの出島組織について、倉成さんら出島組織サミット実行委員会の皆さんが解説した書籍『出島組織というやり方 はみ出して、新しい価値を生む』を、2月21日(水)に発売予定です。
出島組織とは何なのか。
どんなメリットがあるのか。
どうすれば作れるのか。
実際に新しい価値を生むために大事なことは?
こうしたテーマについて、20もの「出島組織」への取材を通して解説します。特に、それぞれの組織を9つのタイプに分類し、それぞれの出島組織の実態を取り上げることで、読者が所属する企業ごとに適した出島組織のあり方が分かるようになっています。
社内で新しいことをしたい、新規事業を立ち上げたいと考えている方や、取り組んでいるがうまくいかない、社内の調整で苦労している方に、ぜひ「こういうやり方もある」ことを知っていただければと思います。
今回は発売に先駆けて、倉成さんによる「はじめに 江戸時代も21世紀も、新しいことは辺境から生まれる」を抜粋して紹介します。
出島組織がどういうものか、少しでも知っていただければ幸いです。
※内容が刊行時と異なる場合があります。
※サムネイルは川原慶賀『長崎港図』より
出島組織との出会い
出島組織という言葉にはじめて出会ったのは、2009年の秋だったと記憶している。
当時僕は、広告会社に新設された変わった部署に異動したばかりだった。そこは広告を企画制作するクリエーティブ部門にあるけれども、広告は作らない。広告のスキルを拡張するとどんな新しいことができるか?を模索する、いわゆる「新規事業部」的なもので、部屋も少し違った場所に作られた。
他の部署と離れた、全社員が利用する共用のフロア。その端っこの、20名分のデスクを置いたらいっぱいになる、鍵がかかる秘密めいた部屋。そこへ異動したてのその頃、誰かがこう言ったのだ。
「出島だね」と。
その部署では、いろんな会社の宣伝部とではなく、新規事業部の方々と交流を深めていく作戦を取り、いろんなプロジェクトに結びついていくのだが、他社の新規事業に携わる立場の方々とお会いし名刺交換する時にも、またこの言葉が出てきたのだった。
「同じ出島組織ですね」と。
なるほど。本体から離れた組織を、出島に例えて呼ぶんだな。
たまたまか。いや運命だっただろう。年に何度も繰り返し出島という単語を聞くようになっている中、招かれたカンファレンスの会場がハウステンボスで、長崎に行くことになり、本家である出島に立ち寄る機会を得た。出島組織と呼ばれるからには、行かないわけにはいかない。
鎖国していた江戸時代、日本が唯一外国への窓口として開いていた、小さな扇形の島、出島。行ってみるとその出島は、現在は島ではなかった。三方が埋め立てられていて、橋はあれども地続きだ(そのことに驚く方が多いらしい)。しかし、国の史跡に指定された1922年ののち、長崎市が100年事業という長期のリノベーション計画を立て、建物のほとんどがクオリティ高く復元されており、昔の風情を存分に湛えている。島かどうかとかはもう関係な
い。橋を渡ればそこは、江戸時代だ。
その第一印象は、お洒落。しかも、とてつもなく。中でも特に、恋に落ちるかのように好きになってしまったのが、一番船船頭(オランダ船船長)の部屋だ。畳の上にベッドやデスクや椅子が置いてあり、壁には和柄の唐紙がウォールペーパーとして一面に貼ってある。ガラスなど西洋からのイノベーティブなものもありつつ、南蛮からの鳥がいたであろう鳥籠もあり、シーツはパッチワークされたインドのものだったりする。
和、洋、だけでない世界中の国々のものが調和する、見たことのない折衷デザイン。素敵すぎる。それ以来、世界で一番デザインが美しい空間はどこか?と聞かれたら、出島のこの部屋だと言っている。
あまりに感動したので、デザイナーの視点でも見てもらおうと、その後、同じチームのアートディレクターにも見に行ってもらった。「どうだった?」と聞くと、彼の口からは意外な言葉が出てきた。
「デザインも良かったですが、一番おもしろかったのは、出島は長崎だけじゃなかった、ってことですね」。
どういうことか? 彼に問うと、オランダから長崎までの航海の途中、東インド会社の船は、たくさんの国々に寄港し、交易しつつ向かってくるが、その港は、出島と同じく陸から出っ張っているところがたくさんあった、と。なるほど。その各国の出島をつないで、途中交易しながら来たから、あのユニークな素晴らしいデザインの部屋ができ上がったのか。
となると。東インド会社が各国の出島をつないでいたように。出島組織も、出島組織同士がつながったら、さまざまな予期せぬ化学反応が起こり、見たこともないおもしろいものができるのではないだろうか。オランダ船船長の部屋のように。
出島組織サミット
そんなことがきっかけとなり、2022年11月12日、長崎市と連携協定を結び、全国のさまざまな出島組織に長崎の出島に集まってもらう「第1回 出島組織サミットin出島」を開催することになった。
場所は、せっかくだから本物の出島の中で、と希望したところ、特別に、出島の中の文化財の一室をお借りすることができた。
募集をかけると、大企業、スタートアップ、自治体、大学などさまざまな組織の出島から続々と申し込みが。全国どころかシンガポールからも。お借りした部屋に入る定員は申込み開始から10日で上限になり、結果、当日は30組織52名の方々が集結、このイベントに掲げたキャッチフレーズ「出島が、出島で、出島と、出会う」。まさにその通りとなった。
この日のプログラムは、開会を告げるオープニングトークの後、全出島組織自己紹介、出島の学芸員さんによる出島組織向けの出島スペシャルガイドツアー、8つの出島組織がトークセッションに登壇し知見をシェア。最後は長崎市長より「長崎市公認 出島組織認定証」が手渡されてフィナーレ。
好評を博したため、2023年11月10日、長崎で第2回の出島組織サミットを規模を少し拡大して開催。45組織84名が集結し、また新たな出会いと熱量に、みんなで胸を躍らせたところだ。
さて。今、みなさんに手に取ってもらったこの本。
この本は、出島組織サミット当日のセッションをベースに、再度大幅なインタビューを行い、自分たちの分析を加えたもので、出島組織(出島戦略とも言われる)について俯瞰的にまとめられた、はじめての書物となる。
「出島組織」には、今の日本に必要なインスピレーションがたくさんある。そう感じることが多々あり、刊行する運びとなった。
おもしろくも熱いさまざまなチャレンジに、生きた言葉で、このあとたくさん触れていただくことになるのだが、その前に、前書きとして、出島組織概論をお伝えしておきたい。つまり、そもそも何なの?ってことを。
我々が長年、出島組織に在籍してきた経験と数年かけたリサーチの結果、わかった総論。
出島でのサミット当日のオープニングでお話ししたことなので、参加した気分になってもらえるかもしれない。
出島組織とは? 定義とその特徴
まず、「出島組織」という言葉は、いつできたか定かではない。2000年頃という人もいたが、30年以上前に書かれた記事も最近発見した。提唱者がいるわけでなく、自然発生的に生まれた言葉との見方が強い。なので、サミットではこのように定義した。
また、出島組織の特徴としてはこのような点が挙げられる。
提唱者がアノニマス。故に権力者がおらず、タイプも自由
出島=「自由」「未来」「イノベーティブ」の比喩 /象徴と捉えられている
比較的着手しやすい仕組み(成果が出るか、続くかは別だが)
日本発のコンセプト(オランダ人もおもしろいと言う)
出島(組織)と自称する人がうれしそう
自由であると書いたそのタイプ。調べてみると、この点が実におもしろいのだが、同時に、世の中に知られていないことだったりする。出島組織という場合、多くは、大企業のもの、と思われている。例えば、経団連の資料に象徴されるこの部分。
メディアについても同様で、例えば毎日新聞の出島組織についての記事はタイトルも『“鎖国”が続く日本企業で「出島」が急増しているわけ』(2019年
12月21 日)となっており、やはり企業についてだ。
しかし、丁寧にリサーチやインタビューをしていくと、それだけではない。何かを打開したいと思うさまざまなジャンルで多様な形が生まれている。また、「企業の出島」の中でも、必要に応じて、さまざまなタイプが発生している。
結果、サミット開始当時は7タイプに整理したが、再度検証し、今回の本では9タイプに分けた。俯瞰してみると、大きく通底する共通点もありつつ、違った工夫もある。出島組織に属されている方にとってヒントとなり、また、新しいことを起こしたい方には自分の立場でやりやすいタイプを見つけられると思う。この点、ご活用いただけたらうれしい。
また、出島組織は少々前に話題となった「両利きの経営」にまとめられがちだが、実はちょっと違うことも付け加えておきたい。
両利きの経営は、『「経営者」が「既存事業」と「探索事業」を両方見るべき、両利きのように』という手法で、確かに本社が既存事業をやっている間に、出島組織が探索事業をやる、という点では一致する。しかし、出島組織の場合、本体組織の社員と横同士でつながって、経営者が知らない間に新しいものを生んでいるケースもある。つまり、ボトムアップ型の、現場主導の勝手な両利き。出島理論の方が、あり方が自由なのだ。
出島組織はせっかく日本発のコンセプトなのだから、アメリカ発のコンセプト(両利きの経営)にまとめてはもったいない。その点でも、両利きの経営とは似て非なる別物として、先入観なく読み始めてもらった方が良い。
最後に、注目してほしいのは「熱さ」。出島を「出す」のではない。ほとんどの方が自ら「出た」のだ。出る覚悟。出て、新しい地平を開く覚悟。実は、そこが一番のポイントだったりするが、それは読めば自然と、感じ取ってもらえると思う。
出島では、江戸時代、「通つう詞じ 」という通訳が常駐し、日本とオランダの媒介役を果たしていた。
我々が果たしたいのは、まさにその役割。出島組織の通詞だ。出島の歴史から、そして現代の出島組織からさまざまなインスピレーションを、通訳して届けたい。
出島組織は、提唱者がアノニマスで、自然発生的な、みんなが参加できる「運動」なのだ。
これから新しいことを生みたい方には前例と方法論を。出島組織に所属されている方には同志からのヒントと勇気を。そして、本家である長崎の出島を作った先人たちに最大限の敬意を示しつつ。
精神的、慣例的に、見えない鎖国になっているこの国に、変化をもたらす運動を、みんなで盛り上げられたらとの思いを込めて。ここに21世紀の出島の「翻訳書」をお届けする。
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