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地獄の帝王を飼っていたことがある

「我が家へようこそ!君はオカヤドカリだから名前はヤドカリちゃんだ!」

俺にはネーミングセンスがない。
この25年間、そこを評価されたことがない。
自分の名前はよく褒められるのに、親の才能を受け継げなかった。

小学生の時にカブトムシを飼っていた。
当時ちょうどポケモンから背伸びして、ドラゴンクエストモンスターズにハマっていたので「エスターク」と名前をつけた。

エスタークは作中で「地獄の帝王」と呼ばれるボスモンスターだ。
3つの目、2本のツノ、両手に大きな剣を持っている。
...何一つカブトムシと被るところがない。
あまり覚えてはいないが、「エスタークくらい強くなってほしい」という思いを純度100%でぶつけた結果がこの名付けだったと思う。

エスタークは結局無邪気に与えたはちみつが原因で死んでしまうので、強くはなかった。
俺が悪いんだけど。

だが、こんなにも自分の思いを名前に込めたことが大人になってからあっただろうか。
キャラ名をそのまま使うなんてダサい、今だと絶対にそんな思考が働いて、エスタークを題材にするにも「エスタ」とか「エス」とかつけるんじゃないだろうか。

いや、それどころではない。
現に俺は大学生の頃飼い始めたオカヤドカリに「ヤドカリちゃん」という名前をつけた。
もしかしたらネーミングセンスのなさからの逃避ではないか。
何よりこれは、オカヤドカリに向ける思いに対する背信行為以外の何者でもないのではないか。

生物系の大学を出たし生物飼育のノウハウも得た。
オカヤドカリには今度こそ強く育ってほしい。
ちょうどハサミも2本ある。
よし、今日から君はエスタークだ。

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