クラウドソーシングで本当にひどい案件に遭遇したので書かずにはいられなかった


はじめに

我が社は弱小制作会社である。それはもう下請けの中の下請け。チラシやポスター、パンフレット、ウェブサイト、書籍、雑誌。ジャンルを問わず依頼があれば何でも作る。
現在取引しているクライアントの大半とはうまく関係を築くことができており、お金に関してもめたこともない。決して割がいいとはいえないが、社員一同で必死に制作して納品して喜んでもらえて、ギリギリ食べていけるかいけないかで毎月乗り切っている。

ところが久しぶりに大変悪質なクライアントにぶち当たってしまった。責任はこの仕事を受けてしまった社長の私にあるのだが、それにしてもひどい案件だったため、自責の念もこめてここに文章を残しておく。
こんなバカな案件を受けようと思う制作会社やデザイナーは存在しないかもしれないが、お金に困ると思考力・判断力が低下することもある。この記事が目にとまり、何かしらの教訓になれば幸いである。

クラウドソーシングサイトなんて2度と使わないぞと毎回思う

事の発端は、某クラウドソーシングサイト「●ンサーズ」で書籍のDTP案件に応募したことにある。
すでに多くの人が知っているように、クラウドソーシングサイトに掲載されるような仕事はコンペ案件や単価の低い案件ばかりなので、普段はほとんど使用しないのだが、新たなクライアントの獲得につながればと、たまに応募してみたりもする。
この時もデザイナーの手が少しあいていて、1〜2週間で完了する案件ならば…といくつか応募してみた。とはいえ、どの案件も30件以上の応募があり「多分これは受注にはならないだろうな〜」という気持ちだった。

予想通りそのとき応募した案件3〜4件は発注ならず、そうこうしているうちにクラウドソーシングとは関係のないところで、新規案件が入ってきたりと日々忙しくしていた。

募集終了したはずの案件から直接スカウトがきた

それから1ヵ月くらい経っただろうか。他の発注者に決まったとのことで、募集終了がきていた書籍のDTP案件について、直接スカウトの連絡が届いた。
内容はざっくり以下の通り。

・別のデザイナーに発注していたが、制作途中で辞退となった。
・すでに表紙や本文の一部、図版は制作完了している。
・残りのページ制作を依頼したい。

ここまでは、まあいい。なぜそのデザイナーが途中でおりたのか詳しい理由は書かれていなかったが、「手に負えなかったのかな」「クライアントと相性が悪かったのかな」くらいに思っていた。
この時点ではクライアントのメールはとても丁寧だったし、法人だったのでそれほど悪い印象は持っていなかった。何より版元がなかなか堅いところだったので、次の仕事につながれば…という気持ちがあったのは確かだ。

※ちなみにこの発注者は版元(出版社)ではない。デザイン会社や編集プロダクションでもない。個人ではなく法人ではある。出版社はビジネス書籍の大手D社。

発注金額は1冊分の制作費としては中々安かったが、図版作成なしでDTPだけならまあいいか、と思えるくらいではあった。スケジュールもかなりタイトだったが、むしろこの短期間でこの金額を稼げるならいいかと思っていた。

「テスト」という名の価格破壊案件だった

しかしここからが私の大きな判断ミスであった。
本件は直接スカウトが届いた時点では正式発注ではなく、本文の一部を制作する「テスト」を完了させてから、正式発注を行いたいとのこと。我が社以外にも、数名のデザイナーに同様のテストを行ってもらっているとか。

テストの内容は、本文の一部のDTP+図版修正。
報酬は●万円。
※特定を防ぐために伏せ字にするが、本当に少ない金額である。相場の5分の1くらいでは。

少し迷ったがデザイナーが1日で対応できれば、仮に正式発注にならなくてもまあいいだろう、正式発注になったらまとまった売上になるし、と思いOKした。

ところが蓋を開けてみると、信じられないボリューム感であった。これをテストで発注する?テストなら数ページでよくない?(弊社が外部デザイナーに依頼するときには絶対にそうする)
トータル80ページほどのDTPと50点以上の図版の修正(修正といったが色の変換やらサイズ変更やらトレースやら作業は多い)であった。

そしてこの「テスト」で作った納品物は実際に使用するんだって。
つまり激安で発注したものを、実際の成果物(書籍)として使用するわけだ。制作費をめちゃくちゃ削減できるわけだ。賢い発注法だね!(下請けにとっては地獄!)

もしかして数名のデザイナーにテスト発注をしているってことは、テスト発注だけで1冊できちゃうのでは?制作費をめちゃくちゃ削減できてるじゃん!お得だね!(下請けにとっては本当に地獄だし、これを許容してる版元もひどすぎる)

気付いた頃には時すでに遅し。着手してから「やっぱやめます」とは言えず、もうとりあえず納品して終わりにするか、という気持ちになっていた。

発注者都合の修正にも追加料金が支払われない

地獄は簡単には終わらなかった。
納品後も追加修正がくるのである。しかもこちらのミス等ではなく、仕様変更とかいう発注者都合の修正が。テストなのに?テストなのに修正させるの?

追加料金を請求するむね連絡すると、こちらのクオリティの問題であるとし(繰り返しになるが修正内容は仕様変更によるもので、こちらの制作物のクオリティの問題ではない)、修正を行わなければテスト料金を支払わないと脅される。

おまけに正式受注の可否については「検討中」とのことで回答しない。
こちらとしては正式受注を期待してテスト発注に応じているので、今後のスケジュールのこともあるし、早く判断してもらいたいのだが。
やっぱり●万円という大変低い報酬で制作させて終わり、という詐欺みたいな案件なのでは…と疑いが強くなる。

ちなみに成果物は先方が指定したアップロード先に納品しているので、たとえばこの案件を途中で辞退するなどしても、報酬をもらえず、こちらのマイナス評価につながるだけだ。

なんだかんだと理由をつけて、予想通り正式発注にはならなかった

莫大な量の修正を終え、再納品。
もう正式発注になっても辞退しよう…という気持ちになっていた。

追い打ちをかけるように再修正がきた。また先方の仕様変更による修正。
いい加減にしろよ…と思いながら、続けて届いたメールを見ると正式発注はおそらくないとのこと。
なんだかんだと理由が書かれていたが、こちらにとってはとても些細なことだったので(クオリティの問題ではない)、おそらくやはり最初から「テスト」と称して、激安で制作させるだけの案件だったのだろう。

この発注者と関わることは2度とないけれど、この本が売れたら本当に嫌な気持ちになるし、もし版元と仕事することがあったらこの話をしようと思う。

クラウドソーシングサイト側は何もしてくれない

ちなみにこの案件について、●ンサーズに違反申告を行った。規約違反かどうかはわからなかったが、こんな詐欺みたいな仕事があることを知ってもらいたかったからだ。
もちろん何の反応もない。その発注者に注意喚起することも、アカウントを停止させることもせず、たぶん別に何もしないのだろう。
プラットフォーム側は何もしてくれない。発注者と受注者の自己責任。何か起こったら当事者同士で話し合って解決してください、というスタンスのようだ。

今回の教訓

今回のことが会社にとって大きな打撃になったかというと、そんなことはない。人件費の面では赤字になっているが、そんなのは些細なことだ。トータルで取り戻せばよい。

ただ、怒りなのか呆れなのか疲労感なのか、嫌な気持ちが溜まる仕事であった。こんな詐欺案件に引っかかった自分の不甲斐なさに腹が立っているのかもしれない。

今回得られた教訓はシンプルに以下の2つ。

  • テスト案件には応じない(仮に正当な報酬だったとしても、よくよく検討する)

  • クラウドソーシングサイトは気軽に使わない

これを読んでくださった方も、どうぞお気をつけて。

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