しるびやんけ

1984年生まれ。長崎県出身。小説家。 最新作 ⇒ https://onl.tw/j…

しるびやんけ

1984年生まれ。長崎県出身。小説家。 最新作 ⇒ https://onl.tw/jmTSerQ 文学フリマなどで作品を発表しています。長崎とマインスイーパーが好きです。

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■なにをするサークル・コミュニティか 私、本多篤史が、架空の街「鳴海ニュータウン」についての独白小説や取材記事、近況ニュースをアップしていきます。 ■活動方針や頻度 最低でも週に1回は更新できるようにがんばります。「あの人は今どうしてる?」「あの店はどうなった?」など、皆さんからの声をもとに取材・執筆を行います。 ■どんな人に来てほしいか 海が好き、ニュータウンが好き、やさしい物語が好き、誰かと語り合うのが好きな方。 ■どのように参加してほしいか やさしく見守りつつ、たくさん声をかけてくれると嬉しいです。

  • 鳴海ニュータウン自治会

    ¥260 / 月

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  • 鳴海ニュータウンズ オムニバス掌編小説集

    「鳴海ニュータウン」は日本の西の端、海のそばの丘にある架空の町です。 町に暮らす人々のあれこれを書いています。 出会いとか、別れとか、置いてきてしまったものとか、もらったものとか。 オムニバスでそれぞれのエピソードは独立しているため、どこからでも読めます。 コメントなど反応もらえると嬉しいです!

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GPT-2を使って小説を書いたよという話

工学部出身ですが、小説を書くのが趣味です。 純文学、と自分で言うのは恥ずかしいのですが、エンターテイメント性に乏しい小説なので、あえてカテゴリ分けするとそうなってしまいます。 自分で書いた小説を本にして、年に1回ほど 文学フリマ で売るのが、ライフワークです。 かつては新人賞に応募をしたこともありますが、箸にも棒にも引っかからず、今に至ります。 そんな僕ですが、工学部出身ということで、技術系、特に機械学習関連のトピックには関心があり色々と自然言語処理系のAIを調べていたとこ

    • ユカが誘いに乗ってくれたのは意外だった。初めて同じクラスになったのはちょうど一年くらい前、三年生になって進学クラスに入った時だ。市内から帰る方向は同じだったけれど、彼女が住んでいたのは鳴海ニュータウンよりさらに先、僕が言うのもなんだけどまあかなりの田舎だ。 鳴海ニュータウンは国道からそれて迂回する形になる。だから鳴海ニュータウンを通るバスはそのほとんどが、団地の中のバス車庫が終点となる。ユカは烏帽子岳行きのバスに乗るし、そもそも部活もやっていなかったから、帰りのバスが一緒にな

      • 変な大人

        鳴海ニュータウンには、少し変わった大人たちがいた。多くの人が気にも留めないだろうけど、僕にとっては忘れられない人たちだ。多分、僕が書かなければ何もなかったことになってしまうから、そういう意味では、変な大人たちのことを書いておくのには、いくばくかの意味があるように思う。 朝の6時になると、団地を一周するおじさんがいた。いつも同じ灰色のジャージを着て、決まったルートを走っている。僕はひそかに彼を「ジャージおじさん」と呼んでいた。いつも口をとんがらせて、つらそうな顔で走っている。

        • 台風

          健一はテレビのニュースで、九州に接近する台風の情報を見ていた。台風の進路を予測する天気図に、記憶が呼び起こされる。彼が育った鳴海ニュータウンの、台風の夜。 内海に面した鳴海ニュータウンは気候も穏やかな町だったけれど、台風の夜となると話は別だ。90年代のうちは、台風が来るたびに短い停電も起こった。 その日も朝から強い風と雨が窓を叩きつけていた。学校は臨時休校。手持ち無沙汰に兄と遊んでいた午後、突然ぷつりと電気が消えた。健一の家は薄暗い闇に包まれ、兄弟たちは声を上げた。ギャー

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        • 鳴海ニュータウンについて

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          秘密の場所

          梅雨入り前の朝、町は静かな目覚めを迎えていた。空にはまだ薄い雲がかかり、東の空がわずかに明るくなる頃、僕は窓を開けて外の空気を吸い込んだ。爽やかな風が頬を撫で、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。 鳴海ニュータウンは、1970年代に造成された計画都市だ。海に突き出た小さな山塊を切り開いて作られたこの住宅地は、田舎的な暮らしと都会的な暮らしが交錯する独特の雰囲気を持っている。住民の数は減少し、僕が小さかった頃に比べるとずいぶん静かになっているが、それでも町は息づいている。

          同窓会の夜 3

          一応、コンビニにガムを買いに行くという体で出てきた僕たちは、律儀にまずコンビニへ行って、実際にガムを買った。一緒にお酒も買ったけど。 どっか行こうよ。そんな言葉がするりと出てくる自分が誇らしいような、でも心のどこかで軽蔑するような、不思議な気分だ。23時を過ぎて、思案橋の街に人はまばらで、街は眠たげ。路地の明かりも半分くらいはきえてしまっている。 僕は長崎の夜の街をよく知らない。人のまばらな街から逃げるようにして稲田さんに手を引かれるままついたホテルも、一体どこなのかよく

          同窓会の夜 3

          同窓会の夜 2

          二次会のカラオケには結局一次会にいたほとんどが行くことになったらしく、パーティールームはもうめちゃくちゃだった。 部屋は人数の割にちょっと小さくて、中学の頃から目立っていた連中がソファの上で飛んだり跳ねたりはしゃぐもんだから、ちょっと上品な子たちは廊下に避難して、その辺に座って喋っている。誰の何の飲み物かも全然わからない感じだったけれど、まあいいやとその辺にあったグラスの飲み物を飲んだら、カルピスとコーラが混ざった味がした。 「音楽好きだよね、なんか歌ってよ」 派手な連

          同窓会の夜 2

          同窓会の夜 1

          稲田さんと再会したのは、21歳の夏のことだった。大学を4年で卒業するのがほとんど無理だろうということはその時にはもうわかりきっていたけれど、両親にどうやってきりだせばいいかわからず、とりあえず確定するまで寝かせておこうと思っていた頃だ。 稲田さんから同窓会の連絡があって、ピンとタイラも誘ってみたけれど、ピンは帰省していなくて、タイラは仕事。仕方なく一人で参加することにした。 思案橋の飲み屋街は初めてだった。一時間くらいバスに揺られて着いた街は夜。昼間しか通りがかったことが

          同窓会の夜 1

          空っぽの部屋 4

          美穂の母は口数の少ない人だった。会話は必要なやり取りがほとんどで、愛しているとか大切だとか、そんな言葉を母から聞いたことは無かった。 二人に残された時間は半年あまり。いくつかの治療を試してはみたけれどそれほど目に見えた効果は無くて、病状はほとんど、最初に医師からの予告があった通りに進んでいった。最初の1ヶ月で、死後に必要な決め事のほとんどは整理することができた。いつもこんな風に、テキパキと段取りのいい母だった。 動けるうちに旅行がしたいということで、二人で温泉にも出かけた

          空っぽの部屋 4

          空っぽの部屋 3

          いつか行こうね。そう言いながら実現しなかったことはいくつかあるけれど、コウヘイと約束した「いつか長崎へ行こうね」という約束が果たされないままでいることは、美穂のこれまでの長くはない人生において一番後悔の残る約束になった。 思い出したくもない辛い報せは突然だった。イヤな報せほど、なんでも無い時に突然、寝首をかきにやってくるのはどうしてだろう。 コウヘイは自転車が好きだった。すごく速いロードバイク。何度か誘われたこともあったけれど体力に自信が無かったから、断っていた。その日も

          空っぽの部屋 3

          空っぽの部屋 2

          空っぽにした部屋を出て就職したオフィスは、天神の繁華街のすぐそばだった。通勤には耐えられないだろうと思ってオフィスの近くに小さな部屋を借りた。 小さな窓を開けたらすぐに隣のビル。電熱線のコンロが一口と流し台があるだけのキッチンに、ユニットバス。昼間でも薄暗いその部屋だったけれど、美穂は初めての一人暮らしが楽しくてたまらなかった。 行きたいところもやりたいところも特に無いから、平日は気の済むまで働いても別になんとも無かった。家に帰るのは大体21時過ぎ。コンビニかスーパーで買

          空っぽの部屋 2

          空っぽの部屋 1

          人生というものを思い浮かべる時、それぞれに固有のイメージがあると思う。底なしの真っ暗な穴。ライオンの頭に蛇の尻尾がついた雄々しい生き物。指の先ほどの小さな箱庭。 美穂が人生というものについて考える時、そのイメージはいつからか、主人のいない空っぽの部屋になった。窓の外、遠くに海が見える小さな部屋。はじめから空っぽだったわけではなくて、そこかしこに生活の名残がある。 本格的に学校に通うことができなくなったのは、いつ頃からだったろうか。この町に帰ってきた頃、しばらく頭に霞がかか

          空っぽの部屋 1

          風土記 1

          鳴海ニュータウンが属する琴海町は、西彼杵半島の東部に位置する。町の西部、北に伸びる半島の背骨にあたる部分には標高561mの長浦岳や飯盛山などが連なり、町全体が東向きのなだらかな斜面となっている。斜面に広がるのは、照葉樹林やスギ林や、半島全域で広く栽培されているミカン畑だ。 海岸は大村湾に面し、リアス式海岸で複雑に入り組んでいる。大村湾は開口部が非常に小さいため、湾全体で波が穏やかだ。町の北部には尾戸半島が南に伸びており、半島に挟まれた形上湾は、さらに波が穏やかで、このあたり

          二度目の帰省 4

          船着場には人影はなくて、小さな街灯が寒々しい。岸壁に沿って数軒並ぶ家も静かで、一軒だけ小さな窓から灯りが漏れている。船着場のあたりに車を停めて、僕たちは車を降りた。 「どこ、ここ?」 「いや、知らんし」 「謎の集落」 「生きて帰れんかも」 「やめてよ」 タイラが情けない声を出して、3人とも大笑いだった。実にくだらない。くだらないのはわかっているけど、そのくだらなさが楽しいし、切ない。 年の瀬だというのに、驚くほど暖かい夜だった。防波堤の先まで歩いて、横になって空を見上げ

          二度目の帰省 4

          二度目の帰省 3

          12月30日。ピンとタイラに連絡をして、3人で集まることになった。夏休みには会えなかったから、二人に会うのも9ヶ月ぶりだ。 夕食を済ませて車のキーを借りて外へ出ると、外はまだ明るい。この街が東京から遠く西にあることがわかる。 車に乗り込んで、まずはピンの家に向かった。メールをするとピンはすぐに玄関にあらわれた。それからすぐにタイラの家へ。蜘蛛の巣のように縦横に道が張り巡らされたニュータウンは、初めて来た人にとっては同じような景色ばかりで、あっという間に迷ってしまう。でも小

          二度目の帰省 3

          二度目の帰省 2

          12月29日。朝から特にやることも無かったから、運転の練習ついでに母の買い物に付き合った。緑のラパンは小さくて、慣れない駐車もやりやすい。 お節料理の材料を買いたいからと、ニュータウンのグラシアスではなくて、国道沿いのじょいふるさんへ向かった。車もまばらだったグラシアスに比べて、ジョイフルサンの大きな駐車場はほぼ満車。年末年始の買い出しに店内は活気付いていた。 東京へ出て9ヶ月が経った。一人暮らしの部屋では滅多に魚を食べることがないから、ジョイフルサンの鮮魚コーナーに並ぶ

          二度目の帰省 2