「お願ひ」
先日祖母の家の掃除を手伝っていたら、納戸から古い一枚の紙が出てきた。
薄くてパリパリとした手触りのその紙には、
毛筆で、「お願ひ」と言うことばから始まる文章が書かれていた。
この文章を書いたのは僕の祖父だ。
祖父は昔会社をやっていたのだが、これはその時の社員に向けた貼り紙のようだ。
ちなみに「お願ひ」の後に続く文章の内容を要約すると、以下の通りだ。
・現在急激に物価が高騰していること
・社内備品については当面は今の品質のものを使う予定であるが、より丁寧に無駄なく使って欲しいこと
・その他についてもより一層節約の意識を持つこと
祖母によると、この貼り紙はおそらく昭和40年(1965年)ごろのものではないかとのことだ。
僕はこれを読んで驚いた。
なぜならこの紙に書かれていた内容が、
仮に今僕の働いている会社の備品棚にこのまま貼ったとしても、なんら違和感のないようなものだったからだ。
この貼り紙が作られた時代と比べると、世の中は様々な技術の進歩と共に、随分と便利に、豊かになっていると思う。
しかしこの紙を見る限り、
世の中は進んでも、何か問題に直面した時に人が考えることはそれほど変わっていないのだなとも思うのだ。
また毛筆・縦書きで書かれたこの文章は、見慣れたパソコンで作成された文章よりも遥かに目に留まりやすく、そればかりか心なしか書き手の「お願ひ」の気持ちもよく伝わってくるような気さえする。
いつかこっそりこれを職場の備品棚に貼ってみたら面白いかもしれない。
今回祖母の家の納戸からは、この他にもたくさん僕にとっては面白いと思えるものが出てきた。
祖母の世代は今の世代と比べて、物をなんでも捨てずに大切にとっておく人が多いのだと言う。
たまにはこうして整理に付き合いがてら、大事に保管されたままになった物を見てあれこれ思いを馳せたり、それについての会話を楽しむのもいいものだと思った。
※ちなみに以前の記事で書いた僕の自炊用鍋も、ここから発掘したものだ。
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