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23:45 警察署にて

こないだ警察署で誕生日を迎えた記録


 夜中に警察署に着いた

 おそるおそる中に入ると、カウンターの内側にたった一人いた痩せた色黒の男性は固定電話で何か相槌を打っていた わたしと目が合うといったん動きを止めて、来訪者の対応が出来ないことに困っているような顔をした
 置いてあった訪問者カードのような紙を「これを書けばいい?」という顔で指差すと、差し出そうとしてくれたけど、受話器を耳にあてたままでは手が届かず余計に焦ったような顔をする
 カウンターで立ったまま鉛筆を走らせる 「ええ、そうですね、日中にお電話いただければ担当にお繋ぎすることもできますので・・・」と、話のそぶりからおそらく一般市民からの電話なんだろうなと思った こんな遅くに警察署に電話を掛けてくる人がいるのと、こんな遅くでも警察署の電話は繋がることを知って、何十年か後におばあさんになったわたしが夜中に警察署に電話しているのを想像した
 (後日、警察署から着信と留守電が入っていたので折り返したのだけど、音声ガイダンスがあまりにも長くて、誰宛に繋いでもらえばいいか名前があやふやになってきたので途中で切った この夜のことを思い出して、あの電話の主はガイダンスを最後まで聞いて正しいボタンを押して辿り着いたんだなぁと感心した)

 電話を終えた男性はわたしの差し出した訪問者カードを見ながら内線でどこかに掛けていた よくよく見ると彼の手元にはメモがいくつか置かれていて、わたしが来ることも申し送りされていたようだった
 電話の相手に受付であるということをことさら低姿勢に名乗っていたのと、交代する時にも逃げるように去っていったので、もしかしてこの人は警察官の身分じゃないのかもな、と思った そんなことないんだろうけど、この後わたしが会った警察官は全員あんな低姿勢ではなくて堂々としていた
「担当者が来ますので、お掛けになってお待ちください」と申し訳なさそうに言われて、長椅子に掛ける
 訪問者カードに書いた時間は23:45、警察署の1Fには一般市民は誰もいなくて、時折警察官たちが降りてきて何か喋ってまた連れ立っていなくなった
 担当だという人がしばらくして降りてきて、まだしばらく掛かります、というようなことを言ってまた去っていったので、わたしもまた長椅子に戻った
 壁に貼ってあるポスターを眺めたりしながらぼーっと待っていると、時計の針が12時を回った あ、誕生日になっちゃったな、とだけ思った
 誕生日になった瞬間に警察署の長椅子にぽつんと座っていることなんて、確率としてはかなり低いんじゃないかな 警察署に来ること自体、バイクに轢かれて後日事情聴取のために呼ばれた時以来9年振り2度目だった

 日付が変わって気が緩んだのか、いつもは寝ている時間なのでだんだん眠くなってきた頃に、交代して受付に座っていた眼鏡の女性に名前を呼ばれた
 エレベーターで3Fに行ってください、と指示されたけど、もう眠いスイッチが入っていたので「はい」と言った声に社会性はなくて、3歳児くらいの声色だった 案の定、3Fに着いてからもしばらく迷った

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