Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https:/…

Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https://faryeast.com/

マガジン

  • Off Flavor入門

    ビールのオフフレーバーについて解説するシリーズ

  • ビールと水

    ビールと水についてざっくり解説するシリーズです。

最近の記事

  • 固定された記事

個人的な科学読み物の方針

ビールを理解する上で、化学や生物に関する知見は絶対に必要です。理系で元々科学的な素養ある方は全く問題ないと思うのですが、私のような文系出身の人間には結構難しかったりします。論文や書籍も含めていろんな読み物を読んだり、セミナーを受けたりして、「ちんぷんかんで困った!」という経験は一度や二度ではありません。 そんな経緯から、専門書や論文の手前で一般の人と専門家の架け橋的な読み物があったらいいなあと個人的に思っていて、それが私の書くビールの科学読み物の方針になっています。 参考にし

    • Off Flavor入門〜⑱酪酸

      前回からの続き 前回の酢酸と同じくカルボン酸の酪酸です。カルボン酸としての有機化学的な特徴は同じなのでぜひ前提知識編や前回投稿と合わせてお読みください。 化合物としての特徴酪酸(Butyric Acid)は炭素数4のアルカンであるブタンにカルボキシ基がついたカルボン酸です。アルカンや官能基については第5回や第6回を参照ください。直鎖アルカンとの対応表を下の図にまとめてみました。 アルカンから水素原子1個を除いた官能基をアルキル基と呼び、カルボン酸からヒドロキシ基(-OH)

      • Off Flavor入門〜⑰酢酸

        前回からの続き 前回はアセトアルデヒドでしたが、今回はアセトアルデヒドが酸化されることで生成する酢酸についてです。前回と合わせて読まれることをお勧めします。 化合物としての特徴酢酸(Acetic Acid)はビールに含まれる有機酸の中でも代表的なものの一つです。一般にはお酢の主成分として、むせるような酸味があるフレーバーとして知られています。 酸性を示す有機化合物の総称を有機酸といい、有機酸の多くはカルボン酸です。カルボン酸の中でも炭化水素鎖にカルボキシ基が一つついたものを

        • Off Flavor入門〜⑯アセトアルデヒド

          前回からの続き 前回までは前提知識編として、感覚器官、電子軌道、有機化学、熱エネルギー、生化学、ビアスタイルガイドラインなどをざっくり眺めてきました。今回から個別紹介編ということで、オフフレーバーを一つ一つ紹介していきます。 初回はアセトアルデヒドです。以前から読んでいただいている方はお分かりかと思いますが、論文のように専門性や新規性のある内容でもなく、醸造技術書のような実務的な内容でもありません。一般知識として科学的な理解が深まるベーシックな内容を意図してますので、お読みに

        • 固定された記事

        個人的な科学読み物の方針

        マガジン

        • Off Flavor入門
          21本
        • ビールと水
          23本

        記事

          Off Flavor入門〜コラム:バランスの中のオフフレーバー

          前回までで前提知識編は終わり。次回から個別にオフフレーバーを紹介していく形式になります。今回はちょっと一休み。オフフレーバーとビールのフレーバーバランスについての雑記です。 ビールの多様性フレーバーバランスを考える前提として、まずはビール自体の多様性の話から。 自然栽培とワイルドエールの共通点 農業関係者以外で、有機栽培(オーガニック)、自然栽培、自然農、自然農法の違いを言える人は少ないと思います。4つの中では有機栽培が最もカジュアルで、自然農法が最もガチです。外形的に

          Off Flavor入門〜コラム:バランスの中のオフフレーバー

          Off Flavor入門〜⑮ビアスタイル・ガイドラインの中のオフフレーバー

          前回からの続き 前回はオフフレーバーに関する化学的な理解をまとめました。今回は前提知識編の最終回としてビアスタイルについて触れます。ビアスタイルは内容としては膨大なので、ここで扱える内容は網羅的ではありませんが、代表的なオフフレーバーとしてダイアセチルとDMSの傾向を見ていきたいと思います。 ビアスタイルとはワインや日本酒の分類との違い ビール好きの人にはお馴染みのビアスタイルですが、ワインや日本酒の分類との違いに着目すると面白さがあります。日本酒は精米歩合と純米か否など

          Off Flavor入門〜⑮ビアスタイル・ガイドラインの中のオフフレーバー

          Off Flavor入門〜⑭化学的理解のまとめと汚染

          前回からの続き 前回は酸化還元についての基礎理解を確認した内容でした。多くの化学反応はそもそも酸化還元であること、酸化還元も電子が関係してくることが確認できました。今回は第2回から13回までの内容をまとめてみたいと思います。 化学的理解のまとめこのシリーズの第1回め「イントロダクション」で下記のような図を提示し、前回までにカバーしました。 匂いを感じる仕組み オフフレーバーは嗅覚や味覚で感じるものですが、留保条件があります。嗅覚や味覚は案外あてにならなくて、視覚・聴覚な

          Off Flavor入門〜⑭化学的理解のまとめと汚染

          Off Flavor入門〜⑬酸化還元の基礎

          前回からの続き 前回は酵母の代謝についてざっくりと見てきました。その中で、補酵素NAD+/NADHなどの酸化還元についても言及しました。この「酸化」はけっこう誤解されやすい言葉なので、今回は酸化還元の基礎的な解説をしたいと思います。 酸化・還元の基礎酸化は誤解されている 酸化という言葉は化学の世界以外でも一般的に耳にします。特に食品業界では酸素=劣化というイメージがあります。リンゴや桃を切ると断面が赤くなるのはポリフェノールの酸化による褐変として有名です。ビールの世界では

          Off Flavor入門〜⑬酸化還元の基礎

          Off Flavor入門〜⑫酵母の働き

          前回からの続き 前回は代謝、ATP、酵素に関する一般的な内容に触れました。熱などのエネルギーによる無駄の多い化学反応と違って、生物は代謝ネットワークと酵素を駆使して精緻に狙いの産物を作っています。今回は実際にビール酵母がどのように産物(排出物)を作っているのか見ていきたいと思います。 糖代謝解糖系とATP産生は好気呼吸とも言われ、代表的な代謝経路です。生物の教科書でも詳しく説明されます。大まかに見ると、解糖系で1つのグルコースから2つのピルビン酸に異化し、その後ピルビン酸の

          Off Flavor入門〜⑫酵母の働き

          Off Flavor入門〜⑪代謝と酵素

          前回からの続き 前回はエネルギーと反応について見てきました。今回は生物がエネルギーを駆使しながらいかにして目的の生成物(産物)を作るのかを見ていきたいと思います。 代謝とはビールはある意味廃棄物の塊 ビール酵母は材料を分解しては組み立て、いろいろなパーツを作って活動しています。主には糖から自分たちに必要なエネルギーを生成し、残渣を排出します。エネルギーはATPという形で確保し、残渣は主にエタノールと二酸化炭素です。ATPの生成以外にも細胞膜や酵素など自分たちの活動に必要な

          Off Flavor入門〜⑪代謝と酵素

          Off Flavor入門〜⑩エネルギーと反応

          前回からの続き 前回は分子軌道のHOMOとLUMOに着目した反応理論であるフロンティア軌道論についてでした。今回はその反応を引き起こす要因となるエネルギーについてです。 熱力学の法則を出していますが、物理学的な専門性がある記述にはなっていません。イメージだけふわっとお借りしてる感じです。誰もそこまでは期待してないと思いますが念のため。 エネルギーと熱力学エネルギーの代表的なものは熱エネルギーです。温度が上がると液体の水は水分子(H2O)同士の水素結合を断ち切って気体になり、

          Off Flavor入門〜⑩エネルギーと反応

          オフフレーバー入門〜⑨フロンティア軌道理論

          前回からの続き 前回は動きやすい軌道と空の電子軌道について。そして電子密度に差がある不均衡な状態が反応を促進するという内容でした。ところが実際は軌道と軌道の相互作用を考えないと説明がつかない現象があります。そこでフロンティア軌道論の登場です。 なお、フロンティア軌道理論のちゃんとした説明は私にはできませんので、あくまでもざっくりとしたイメージだけの話をさせてもらいます。誰もそこまでは期待してないとは思いますが、念のため。 フロンティア軌道論とは原子価結合法と分子軌道法 宗

          オフフレーバー入門〜⑨フロンティア軌道理論

          Off Flavor入門〜⑧動きやすい電子と空軌道

          前回からの続き 前回は化学反応の基礎の基礎として、求核剤と求電子剤の説明をしました。求核剤から求電子剤の空軌道へ電子が受け渡されることで反応が起こるということでした。今回は電子が移動する条件をもう少し詳しく見ていきたいと思います。 反応が起こる条件前回の求核剤と求電子剤の図に少し書き足したものです。求核剤から求電子剤への電子の授受はどのような条件で起こるのでしょうか。 求核剤になりうる動きやすい電子動く側の電子に着目すると動きやすいことが必要です。核としっかり相互作用して

          Off Flavor入門〜⑧動きやすい電子と空軌道

          Off Flavor入門〜⑦化学反応の基礎

          前回からの続き 前回までは2回にわたって有機化合物の概念と代表的な官能基をざっと見てきました。今回からは反応についてです。 有機化学的な狭義の化学反応とともに、発エルゴン反応と吸エルゴン反応、平衡、異化と同化といった有機化学と生化学にまたがる様々な内容を数回に分けてざっくり整理していきたいと思います。壮大ですね。書ききれるかな。まず今回は「化学反応とはなにか」から。 化学反応とは化学反応のイメージ 方丈記は無常観や儚さが底流にある文学作品です。無常とは物事が流転し永遠では

          Off Flavor入門〜⑦化学反応の基礎

          Off Flavor入門〜⑥官能基の続き

          前回からの続き 前回に続いて官能基です。3700万種類もあると言われる有機化合物を官能基ごとに「分けて」いって「分かる」に近づきたいですね。 ビールに関係する有機化合物(続き)チオール アルコールのヒドロキシ基(-OH)がチオール基(-SH)に置き換わったものです。官能基はメルカプト基とも呼ばれます。硫黄の電気陰性度は2.58とやや高いので、酸素ほどではないですが電子を引き寄せる力があります。チオールはアルコールに似た反応性を示します。 ビールで有名なチオールは、なんと

          Off Flavor入門〜⑥官能基の続き

          Off Flavor入門〜⑤有機化合物と官能基

          前回からの続き 前回は分子の形と極性についてでした。 今回から2回にわたって有機化合物の構造と官能基についてざっくり眺めたいと思います。数ある官能基の中で特にビールと関係が深いものに絞りました。 有機化学の教科書では官能基の説明とその反応特性をセットにして構成されることが多いですが、このシリーズでは最初に官能基を一通り見た後に反応について抽象度の高い説明をするという構成を考えています。 有機化合物とは有機化合物とは、ざっくり言うと炭素を含む分子(化合物)です。炭素骨格を持つ

          Off Flavor入門〜⑤有機化合物と官能基