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がごめ昆布が、教えてくれたこと

当たり前、を見つめ直す

何気ない会話や、いつも食べているご飯。昨日と変わらない景色。
自分にとっての「当たり前」を見つめ直してみると、それらが予期せぬ場所に連れて行ってくれることがあります。

私にとっての「当たり前」のひとつが、生まれ故郷の北海道です。
北海道には、世界に誇れるたくさんの名産品や、恵まれた大自然があります。

この大自然を、やっぱり製品開発にいかせるんじゃないか。
通勤路を車で走っていたら、そんな当たり前のことに気が付きました。前回のトルコでお伝えした世界を歩く“素材の旅”から帰国した時のことです。

もちろん、それ以前から北海道の素材の使用は検討してきました。
でも、「北海道産」と名が付けば何でも売りやすくなる。そして実際に売れてしまう。天邪鬼な性格の私は、どうしても北海道の素材を使うのに抵抗感がありました。内容ではなく、名産で推しているような気がしたから。

だけど、いつも食べているもの、いつも吸っている空気、いつも見ている自然の景色の中にあるものの方が、自分の体に合うのかもしれないと思うようになりました。そうした視点で、改めて地元の北海道に目を向けてみると、素材の宝庫であることがわかりました。

そんな素材たちとの出会いのひとつが、SHIROの人気製品につながる「がごめ昆布」です。

がごめ昆布に出会うきっかけは、とある人との関係性からでした。
長くお世話になっている北海道庁の方が、キーパーソン。当時、函館へと転勤されたタイミングで、こんなことを投げかけてくださいました。

この、がごめ昆布をもっと多くの人に届けたいんですよね。何か、良い方法はないかな。

がごめ昆布は、函館市の特産品のひとつです。
函館市はがごめ昆布をより多く知ってもらう、消費してもらうために、頭を悩ませているとのことでした。

昆布といっても、さまざまな種類があります。有名なのは、料理に使われる真昆布。その他にも、羅臼昆布や利尻昆布などは聞いたことがあるのではないでしょうか。日本には数十種類の昆布があり、北海道はその最大産地です。

がごめ昆布の特徴は、強いぬめり。丁寧に削って、おぼろ昆布やとろろ昆布として使用されることが一般的です。函館近海にしか生息していない、貴重な昆布でもあります。

函館市は、そのがごめ昆布を売り出して、もっと多くの人の手に取ってもらいたいとのことでした。相談を受けて、私は製品の素材にできないかと検討するようになりました。

昆布を肌につけてみる

まずは、がごめ昆布を研究されている大学教授による勉強会を開いていただきました。私たちが正しい知識を得るためのお時間を用意してくださったのです。

ところが、私は座学よりも実践の場で本領を発揮するタイプ。
アカデミックな領域から知識をキャッチアップするのは、どうも苦手なところがあります。振り返ると本当に申し訳ないことをしてしまったのですが、どうしても集中できなくて、他の仲間にその場を任せてしまいました。

それでも、どうしても、がごめ昆布のことが忘れられません。

きっと、何かに活用できるはず。

経営者としての直感でした。
私を育ててくれた北海道に、誰よりも可能性を感じていたんだと思います。勉強会から1週間後、車で5時間かけて、ひとり函館を再訪しました。

二度目の訪問は座学ではなく実践で。
漁師さんにお願いして船に乗せてもらったり、昆布を加工する工場を視察したりして、直接手に取って感じてみることにしました。現地現物を大切にしている、いつもの私のアプローチの方法です。

私の肌、昆布みたい!

訪問した工場では、おぼろ昆布を生産していました。
お吸い物に入れるうすい昆布で、職人さんが一枚一枚、カンナで削ってつくっています。このとき、余った端っこ部分は、お金を払って廃棄処理されていました。硬くて食用にできないため、使いどころがないのです。

私の関心は、その捨てられている部分にありました。
昆布には、褐藻類にのみ含まれる「フコダイン」という成分がふんだんに含まれています。もちろん、食べられない部分、捨てられてしまっていた切れ端にも。

美容目的なら使い道があるんじゃないか。
直感による思い付きでしたが、廃棄物を美容製品に変えるアイディアを提案してみたところ、漁師の方々には「ゴミ同然のものだから、やめたほうがいい」と言われてしまいました。

さて、ここで天邪鬼な性格の私の登場です。
「難しい」と言われると、やってみなくなります。誰もやったことがないので、検証してみなければわかりません。漁師の方にお願いして、捨てられるはずだった切れ端を自宅へと持って帰りました。

この切れ端をどう使おうか。
あれこれ考えてみましたが、美容製品にするのであれば、まずは肌に良いのか悪いのかを、検証する必要があります。強いぬめりがあるがごめ昆布は、見るからに肌に良さそうな雰囲気を漂わせています。早速、自分の肌に直接つけてみることにしました。野生味あふれる使い方ですが、“物は試し”の精神で。

すると、驚くことに、「パンっ」と肌にハリが出ました。
まるでお味噌汁に昆布を入れると、次第にふくらんでいくように。大げさな表現に思われるかもしれませんが、自分の肌が昆布になったような気分でした。肌にフコダインが浸透したことで、保水されていたのです。自社工場でつくった試作品でも、同じ結果でした。

私の肌が答えなのだ。

エビデンスも、過去の実績もないかもしれませんが、美容製品は実際に肌で確かめてみなければわからないものです。

肌への有効成分を素材から抽出して化粧水をつくる手法もありますが、抽出するには人間の肌にあわない溶剤をつかう必要が生じます。であれば、わざわざ有効成分を抽出せずに、天然由来の素材をそのまま使ってしまう方が良いはずです。

こうして、水分の塊のようなとろみをまとった、SHIROの「がごめ昆布化粧水」は誕生しました。

SHIROは、「捨てられる素材を恵みに変えること」を大切にしていますが、それもこのがごめ昆布との出会いから始まりました。

いつも感覚を大切に

私はいつも、直感や違和感を大切にしています。
重要なのはデータでも、過去の実績でもなくて、自分の目で見て、自分の心で感じること。だからこそ、常に心の機微を見逃さないようにしておきたいと思っています。

素材探しも、ものづくりも同じ。
データとして問題がなくても、違和感が消えるまでは自分の体で徹底的に試します。具体的な根拠はなくても、「ちょっと気になるな」と思えば、何度でも試しています。そこだけは、絶対に妥協しません。

がごめ昆布は製品化に至りましたが、その裏側ではうまくいかなかった素材はたくさんあります。きっと、皆さんが思いつく野菜の素材のほとんどは、自分で試しています。何百種類以上もの素材で実験をし、合わないものをつかった時には、肌が荒れてしまうことも日常茶飯事です。

納得するまで、違和感が消えるまで試すことは、もちろん時間もコストもかかります。SHIROの製品開発のスピードは、他社さんと比較するとゆっくりかもしれません。

それでも、違和感を残したまま製品にしてしまうと、お客様に失礼ですし、買っていただけません。最終的に売れないので、企業活動にとってもプラスにはなりません。

がごめ昆布との出会いで学んだのは、多様な視点を持つことの大切さです。
おぼろ昆布をつくっていた生産者さんには「捨てられるもの」として見えていた昆布の切れ端が、よそ者の私には、光り輝く恵みに見えました。

これは、昆布以外のことにも共通する話だと感じます。

たくさんの人が集まって、多様な視点で見つめれば、捨てられていたものが素材になり、大きく花開くことがある。逆に、素材の生産者さんから美容業界を見つめると、私が気付かないような発見もあるのだと思います。だから、やっぱり現地現物。自分の足で行って、自分の目で見ないと、大事なことは分かりません。

当たり前を、どれだけ疑えるか。
直感や違和感に対して、いかに丁寧に向き合うか。
そうしたひとつひとつの積み重ねが、今のSHIROをつくっています。

(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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