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研究者日記 Day30 GW中…

GW中です。授業や出張はないので若干羽を伸ばしちゃってます。でも、やらないといけないことが…。

ところで皆さんには、水中文化遺産の保護に関する問題で日本が世界に対して責任ある行動を取っていると思っていらっしゃるでしょうか? 水中遺跡保護に関する問題? 責任? 何のこと? と思った方もいるかもしれませんが、海洋問題、環境問題、様々な海の問題と水中文化遺産は密接にかかわっています。

国連海洋科学の10年という取り組みがあります。これと関連して、様々な組織が協力して3つの国際的な水中文化遺産に係る諸問題に取り組んでいます。

その3つの問題とは…
Polluting Wrecks  Bottom Trawling  Deep-sea Mining

 1 沈船による海洋汚染
 2 漁業(底引き網・トロール船)
 3 深海採掘・資源開発



 その1 沈船による海洋汚染

これは、海洋の自然環境や生物多様性の問題と関連しています。特に金属製の大型船のオイル漏れが問題です。木造船でも水銀など化学物質を運んでいることもあるので金属船だけではない。まあ、あと不発弾なども問題です。

特に第2次大戦の船が問題。一応、日本は旧日本軍の軍艦など所有権を主張しています。でも、管理や環境汚染があった場合の対応などは特に言及していません。所有権を放棄したとしても、環境汚染の元凶者である責任は放棄できるのでしょうか?

文化遺産だけに限らず、環境への配慮が足りていません!

また、歴史的な沈船からオイル漏れがあった場合どうするか。オイル処理のために船体に穴をあけてオイルを吸い取る方法がありますが、貴重な文化遺産・戦争遺跡の現状変更になりますし、その穴から劣化が始まる可能性が。そのお金はどこから来るのか?

世界の海に残された沈船のオイル=2000万トン
1トン当たりのオイル除去料金~1万7千ドル
→→ えっと、3400億どる?

50兆円~トヨタ自動車の時価総額と同じぐらいでしょうか…日本の一般会計の総額が100兆円超えててましたっけ?(ちなみに、日本の文化庁の水中遺跡調査検討委員会の予算が年間2000万円でした)

世界の海からオイルをすべて除去するのにかかるお金ですが…問題は、これ、結構多くは日本の船なんですよ。そして、そろそろ80年前の沈船が崩壊していく時期に差し掛かっています。あと10年もすれば、太平洋諸島にある船などからドバドバとオイルが流れ出す…

この問題に対して国際会議などが開かれたり、たくさんの書籍が刊行されています。残念ながら、それらの多くに日本人の姿はありません。政府なども積極的に取り組むべきなのですが、無頓着・無関心。誰の責任なのか…

国の所有する文化遺産が環境を破壊する可能性、どのように管理するべきなのか指針なども明確ではなく曖昧。他国に対しては、国際的な慣例に従いメモリアルとしてリスペクトするよう申しつけているのに、遺骨収集をしています。

一貫性のない文化遺産の保護、自国の文化遺産が他国の水域にあってっも何も考えていないのです、もちろん、これは文化庁などではなく…国・内閣府の問題。

国として責務を果たしていません。


その2 漁業(底引き網・トロール船)

世界の水中遺跡の圧倒的大多数は漁師によって発見されていますが、例えばローマ・ギリシャ時代の沈船の多くは現代の網がたくさん引っかかっています。中世の釣り道具(おもり)なども古代の遺跡に混じっていることがあります。

世界の多くの国では、水中遺跡のある場所では網を入れることは禁止されています。場合によっては、この場所は調査済で遺跡がないから網を入れてOKという場所などもあります。

時々、かなり大きな歴史的沈船の一部が引っかかることも…

https://www.cbc.ca/news/canada/nova-scotia/coast-guard-shipwreck-discovery-nova-scotia-1.3695456


漁師の網が遺跡を破壊する問題は、結構深刻です。漁業をやめるわけにも行きませんし。トロール船が多くの沈船を破壊していることは、世界的にも常識です。サイドスキャンソナーなどでトロール船が海の底をひっかいた傷が残っている場所では、いくら調査しても遺跡が出てきません。





    海揚がり品ですね。

日本では、海から引き揚げられたものは、個人のモノになったり、ネットで売られたり、ゴミだと思って捨てられたりと、悲惨な運命をたどります。

ところが、世界では海で発見したモノは、きちんと報告をする義務がある国が多いです。下は、韓国の例。

以前は、世界の水中遺跡のほぼすべては漁師によってすでに発見されているというのがよく言われていました。現在でも、まあ、当てはまりますが、海洋開発の事前調査でも多くの水中遺跡が特定されています。でも、やはり一番水中遺跡の場所に詳しいのは、漁師であることは間違いありません。

考古学者が水中遺跡を見つけることなんてほぼありません。漁師が知っているポイントを調査して、それがなんであるか、意義・意味を与えるのが我々の仕事です。

海で何かを見つけた時の報告の義務、また、水中にも遺跡があることを教育する(海洋教育)が大事です。それは、考古学者ではなく政府の取り組みが必要になります。漁師の方々への説明が必要です。

そして、漁業従事者が多いのは日本ですし、欧米などの寿司ブームなどで漁獲量が増えたりしているのも、日本の影響なのかもしれません。それなのに、水中文化遺産と漁業従事者の関係についての国際会議などに日本の姿はありません。政府からの説明も今までに一度もありません。さらには、海洋基本法をはじめ様々な漁業に関する法律や規制などにおいて水中文化遺産の保護については何一つ言及されていない。

国として漁水中文化遺産に対して何も考えていない



 その3 深海採掘・資源開発

最後に、3つ目の問題。深海における海底資源の採掘中に遺跡破壊が起きる可能性があること…。深い場所にも沈船などが見つかることもあります。

海底の掘削には、大型の機械を用い遠隔操作で作業を進めることがほとんどです。大きな機械でガッツリ掘削う~。


深海には、まだまだ未知の遺跡が多く残っているはずです。ユネスコの試算では、世界に300万隻の沈船があるとか。国連海洋法第149条では、一応、水中文化遺産の保護について書かれています。

第百四十九条 考古学上の物及び歴史的な物
  深海底において発見された考古学上の又は歴史的な特質を有するすべての物については、当該物の原産地である国、文化上の起源を有する国又は歴史上及び考古学上の起源を有する国の優先的な権利に特別の考慮を払い、人類全体の利益のために保存し又は用いる。

これを見ると、日本も深海底においては水中遺跡の保護をしないといけない…ところが、日本にはその法的根拠がない。日本の排他的経済水域・EEZにおいても文化財の規定がありません。遣唐使船をみつけようがスペイン船をみつけようが、文化財として扱う根拠がない。

スペイン人にとって、ガレオン船などは日本人にしてみれば動く姫路城、もしくは天皇陵にちかい。それが、外国人(日本人)の企業が資源開発によって破壊してしまう。もちろん企業としては、どうしようもできない。法律がなかったのだから。他国のように資源開発を行う前に下調べをして遺跡の有無を確認しておけば、遺跡を守ることができたはずなのに。

他国の所有権のある文化遺産をも破壊する可能性を秘めた資源開発に対して国の責任もあるはずです。企業に責任をなすりつけるのでしょうか?そもそも水中文化遺産に対する法律が存在しないのだから、何もできない。それは、企業の責任ではないですよね? 

まさか、開発業者に遺跡破壊という罪をなすりつけるのでしょうか?これは、開発業者こそ積極的に国に訴えていく必要があります。でないと、企業イメージもかなり悪くなります。国際的な地位は落ちるでしょうし、日本のエネルギー企業は世界からもう批判を受けるでしょう。

国がしっかりとEEZにおいても文化遺産の保護を考えるべきです



結論

日本政府はあまりにも水中文化遺産について無頓着。このままでは、何か問題が起こった時に何も対応ができませんし、国際的に非難されるのは目に見えています。


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