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伝統に「遊び心」をプラスして 地域に寄り添う宮彫り師

※本記事はインタビューを元に制作しておりますが、内容にはプロモーションが含まれています。

花を持つ力神、笛を吹く風神、三味線を弾く猫又…その表情やしぐさはとても生き生きとして、今にも動き出しそうだ。制作したのは、宮彫り師の小山広樹さん(小山彫刻)。広樹さんが制作する屋台や寺社の彫刻には、象徴性や装飾性、時代の壁を超え、見る人の感覚に寄り添った「ひと工夫」が込められている。浜松市・東区大蒲町にある工房で、制作へのこだわりについて伺った。



要望に応えつつ、時代や見る人に寄り添う屋台彫刻


「ここ一年半ほどかけて制作しました」

写真で見せてくださったのは、地元の一大イベント・浜松まつりで使われる屋台の彫刻だ。屋台の新造のタイミングで彫刻を依頼された。


浜松市・飯田町の新しい屋台(広樹さん提供)

町の協議会からの要望で、鳥獣戯画をモチーフに動物たちがサッカーやバスケットボールをしている様子や、地元の偉人・歴史にちなんだデザインを入れ込んだ。さらに、見る人やお祭りの雰囲気に合わせた工夫もちりばめられている。

「子どもの頃を思い返すと、当時の目線の高さからよく見えたのは、『腰彫り(屋台の囃子台の下の彫刻)』の部分でした。だから、そこには子どもたちが見たときにおもしろいと感じてもらえるようなものを彫ろうと思ったんです」

腰彫りにあしらわれた十二支は、どれも動物の特徴がとらえられ、どこかチャーミングだ。お披露目会の際には、早速子どもたちに人気だったという。

柿を見つめる表情が印象的な申(広樹さん提供)
ころころとかわいらしい戌(広樹さん提供)
勢いよく走り抜ける亥(広樹さん提供)



「御簾脇(屋台の正面の両脇の縦長の部分)」の風神・雷神にもちょっとしたオリジナリティが。

「伝統的な意匠として、雷神は『太鼓』を、風神は『風袋』を持っていることが多いんです。だけど、せっかくお祭りの屋台なので、風神にも何か楽器を持ってもらって、一緒に盛り上げてもらおうと思いました」

『笛』を吹いている風神(広樹さん提供)
風神と対に彫られている雷神。こちらは『太鼓』を持っている(広樹さん提供)


祭り文化の盛んな浜松市は大蒲町に生まれ育った広樹さん。

「子どもの頃、お祭りの屋台を見て、あ、おもしろいな、と思ったのを覚えています」

ご本人曰く、コツコツとやり続けるタイプ。高校生の進路選択のとき、一生やり続けたい仕事は何かと考え、思い浮かんだのが、幼いころに屋台彫刻に魅かれた体験だったという。京都の工芸専門学校に進み、2年間基礎を勉強。その後、工務店勤務等を経て、岐阜・「波雲彫刻」で7年間の修行ののち独立。浜松に戻ってアトリエを構え、市内を中心に社寺彫刻や屋台彫刻等を手掛け、今年で10年目になる。子どもの頃に憧れた屋台彫刻。節目の年を迎えると同時に、今回の依頼で初めて屋台全体の彫刻を手掛け、完成させた。



飯田町屋台の一部(広樹さん提供)


小山彫刻の作品は、依頼内容に沿ったものであることはもちろん、伝統を守りつつ、時代や使われるシーンに合わせたひと工夫が加えられている。丁寧にデザインされた約30ものパーツから構成された新しい屋台は、2023年5月の浜松まつりから使われる予定。

「ぜひ屋台彫刻にも注目して、少しでも多くの人におもしろいと感じてもらえたらうれしいです」



生き生きとした表現を「立川流」の彫刻から学ぶ


広樹さんのユーモア溢れる作風はどこから来たのか。原点となったのが、浜松市天竜区春野町にある秋葉神社の神門の彫刻との出会いだ。1831年(天保2年)、信濃諏訪の名工・二代立川和四郎富昌によって建立。宮彫りの中でも「立川流」という流派の作品だ。

「修行を始めて間もなく存在を知り、実際に見に行ったのですが、衝撃を受けました。かっこいいだけではない躍動感があり、ぐっとくるんですよ。『こういうものを彫りたい』と思いました」

修行の中で目指す具体的な目標が決まったという。

秋葉神社の神門(広樹さん撮影)


修行7年目。親方の下でも成長できるが、自分で仕事をとっていきたいと独立を決心。そんなときに制作した作品が『力神の休日』だ。「力神」とは、力の神様のこと。社寺建築では建物の重みを支えているようなポーズで付いていることが多い。しかし、広樹さんは力神をあえてそこから解放し、代わりに桜の花を持たせた。

「先輩の宮彫り師さんのところに伺ったときに、同じように力神を彫っていたんです。それにすごく憧れて。でも、同じポーズじゃつまらないな、と思って。『立川流』の生き生きとした雰囲気も入れ込みたかった。力神の生活を想像して、いつもの建物を支えてくれている姿ではなく、休日の力神の姿を表現してみたらおもしろいんじゃないかと思いました」


『力神の休日』。桜の花を口元に寄せたポーズが、力強い力神のやさしい側面を思わせる(広樹さん提供)


「『立川流』の職人が彫った力神の資料を見たときに、木目がすごくきれいに活かされていたんです。最初はどうやっているか分からなかったのですが、修行を重ねるうちに段々理解できていって。今ならできる、と思って彫りました」

体のふくらみや関節に合わせて、木目が活かされている(一部拡大)


親方は作品を見て、独立を許してくれたという。

「『いつまでもここに居てほしいけれど…』と言ってくれたのが印象に残っています」


浜松市・大蒲町の工房での作業風景


スタッフが語る宮彫りの魅力・難しさとは


「屋台の屋根がクレーンで取り付いた瞬間、その大きさに感動しました。町内の大人から子どもまで、幅広い世代の方が完成を喜んでいる姿を見て、私も嬉しかったです」

そう語るのは、小山彫刻のスタッフ・結さん。大学を卒業後、学校教員等を経て、一年半前から制作に関わっている。

「今回、屋台彫刻の下絵をいくつか担当しました。立体にしたときの見栄えを考えつつ、壊れにくい形になることを考慮して描きました」

実際に粘土で形を作りながら考えていくこともあるという。

屋台彫刻の下絵。これを元に彫っていく。下絵は結さん
完成した鳳凰。制作は広樹さん(広樹さん撮影)

「宮彫りのおもしろいところは、ひとつひとつの表情や動きから物語を想像できること。彫っているうちに、木の素材には力強さや温かみがあることにも気づいてきて。今後は動物を彫ることにも挑戦していきたいです」

そう目標を語る。

「助かりますね。ぜひ頑張ってほしいです」

広樹さんもエールを送る。2名体制となった小山彫刻。さらに制作に力が入る。


ユニークさあふれる個人制作


子どもの頃から、不思議なものが好きだったという広樹さん。個人作品として「妖怪」を制作し続けている。

「『かっこかわいい』ものを作りたいと思っていて。好きなものを作っています」

『猫又』。三味線を抱えて軽快に歩く。何を考えているのか想像がふくらむ
『枕返し』。夜に現れ、枕をひっくり返す妖怪。大胆に振りかぶっており、躍動感がある
目にはガラスを使用。今にもきょろきょろと動き出しそう

2020年8月には、浜松市の怪奇骨董秘宝館・鴨江ヴンダーカンマ―でのグループ展にも出品。活動の幅を広げている。

「今後も妖怪たちを増やしていきたいと思っています。作品として誰かに気に入ってもらえるものが作れたらと思います」

依頼の品でも個人制作でも、広樹さんの作品から感じられるのびのびとした『遊び心』は、見る人を楽しませてくれる。




Profile

小山 広樹
2006年京都伝統工芸専門学校木彫刻科卒業。2007年岐阜波雲彫刻で彫刻修業開始。2013年に小山彫刻として地元浜松にて独立。以来、市内を中心に社寺彫刻、屋台彫刻を手掛ける。2015年浜松市浜北区龍泉院山門彫刻、2018年浜松市浜北区貴布祢西町組屋台腰彫刻、2023年浜松市南区飯田町屋台彫刻。

小山 結
2014年静岡大学教育学部卒業。特別支援学校教員を経て、2021年9月より小山彫刻制作スタッフ。

●小山彫刻
静岡県浜松市東区大蒲町109-1
Instagram @koyacyou

●妖怪制作所(広樹さん個人制作)
Instagram @horihiro02


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