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Neutral Milk Hotel / In The Aeroplane Over The Sea

今日取りあげる作品は、ある意味「時代遅れ」とは一番縁遠い作品かも知れません。

1998年のリリース当時はほとんど注目されず、バンド解散後にカルト的な支持を受け、現在では名盤の仲間入りをしているという、数奇な運命を辿ったアルバム、ニュートラル・ミルク・ホテル『In The Aeroplane Over The Sea』です。

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ニュートラル・ミルク・ホテルは、元々はジェフ・マンガムソロ・プロジェクトでしたが、このアルバムを発表する前後の2年間ほどは、4人組のバンド編成となっていたようです。

そして、このアルバムをリリース後、北米とヨーロッパをツアーしますが、特に話題に上がるようなセールスを示すこともなく、バンドは1998年に解散しています。

普通だったら、このまま埋もれてしまうところですが、コアなファンたちがこのアルバムをカルト的に支持したことで、2005年のリイシューにつながります。そして、リイシュー時には音楽誌やサイト等で軒並み高評価を受け、それ以降、名盤との評価を確立していきます。

実は、私も、このアルバムの存在を知ったのは21世紀に入ってからでした。

音楽サイトの『Greatest Indie Albums of All Time』みたいな記事を見ていて、まったく聴いたことのないバンドとアルバムが高い順位にあるのに気づき、「これは聴かねば」と思い、CDを探し求めたことを思い出します。


肝心の音ですが、このアルバム、一言で表すのがかなり難しいアルバムです。

基本的には、アコースティック・ギターの弾き語りをベースにしているのですが、あまりロックでは馴染みのないような楽器が随所に散りばめられていて、いい意味でインディーっぽくない作品です。

また、同じ曲が、テンポや楽器が全く異なるアレンジで登場することがあり、アルバム全体が1つの「組曲」を構成しているとも言えます。この辺りも、インディーっぽくないところです。

とはいえ、過度に作りこまれていない、ザラザラとした音の質感は、インディー特有のリアルさを感じさせます。

この相反する要素の絶妙なバランスが、高評価の要因であろうと思います。


アコースティック・ギターの弾き語りによる「The King of Carrot Flowers, Pt. One」でアルバムはスタートします。

45秒過ぎから入ってくる管楽器(イリアン・パイプスというアイルランドの民族楽器らしい)が、何とも味わい深い雰囲気を醸し出しています。

そのまま2曲目の「The King of Carrot Flowers, Pts. Two & Three」へと続きます。

タイトルが示すように、1曲目のアレンジ違いなのですが、歪みまくったヘヴィー・サウンドのパート2から、パンク・ロックのような高速ビートのパート3へと、ダイナミックな展開を見せます。

3曲目はタイトル曲「In the Aeroplane Over the Sea」

2番の「いつか僕らが死んだら/僕らの灰は海の上の飛行機から飛ぶのかな」と歌われるタイミング(40秒前後)で、「ひゅ~」という音が入ってくるのですが、まるで魂が宙を舞っているような感覚に包まれます。

ずっとテルミンの音だと思っていたのですが、シンギング・ソーという、のこぎりの様な形の楽器の音のようです。

4曲目の「Two-Headed Boy」は、アコースティック・ギターの弾き語り。

始まりはアップテンポですが、ラストはスローな3拍子になり、そのままインストゥルメンタルの「The Fool」につながります。

6曲目は、シングルでもリリースされた「Holland, 1945」

ストレートロック・バンド・サウンドですが、このアルバムの中では、むしろ異色の存在とも言えます。曲の後半に登場する管楽器のアンサンブルも見事です。

次の「Communist Daughter」や、9曲目の「Ghost」も取りあげたいところですが、ほぼ全曲紹介になってしまうので泣く泣く断念して...

ラストは「Two-Headed Boy, Pt. Two」。アップテンポだった4曲目のパート2です。

シンギング・ソーの不気味な響きに導かれ、アコースティック・ギターの弾き語りでゆっくりと歌われます。そして、アルバムは静かに幕を閉じます。


初めて聴いた時、あまりの完成度の高さに驚いたことを覚えています。特に、管楽器のアレンジは、インディー・ロック・バンドのイメージからは遠く離れたものでした。

このアルバム、海外での評価に比べて、日本での評価が驚くほど低いですが、間違いなく一聴の価値がある作品なので、気になった方は、騙されたと思って聴いてみることをおすすめします。

(ただし、お気に召さなかった場合でも、返品・クレーム等は受け付けておりませんので、悪しからずご了承ください。)


これだけのアルバムが、発売当時は全く陽の目を見なかったというのは驚きですが、サブスクリプション全盛の現在と違い、当時はCDを中心とするパッケージの時代

最低限のプロモーションとディストリビューションが無ければ、コアな音楽ファンを除き、音を耳にすることもアルバムを手にすることも出来なかったわけなので、致し方のない話なのかも知れません。

その点では、今は、個人でもありとあらゆる情報発信を行うことが可能なので、良い時代なのかも知れません。

まあ、巷に溢れる情報量があまりにも多いので、その中でいかに差別化するか、別の能力を試されることにはなりますが。


その後のニュートラル・ミルク・ホテルは、2011年にミニ・アルバムをリリースした後、2013年から2015年にかけて、ツアーを行うために再結成しています。現在は活動休止状態で、再始動があるのかどうかは不明です。



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