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キャバクラの営業トークは詐欺になるのか?〜西新宿タワマン事件を参考に考えてみる〜

最近キャバクラで働いていた女性が殺害されるという事件がありました。加害者側の供述によれば、加害者(容疑者)は結婚を仄めかされておりその資金を工面するために、所有していた車などを手放したそうです。

今日はこれと関連してキャバクラの営業トークは詐欺罪(刑法246条一項)にならないのか?について検討したいと思います。

本記事を執筆するにあたっては橋爪隆氏の『刑法各論の悩みどころ』を参照させていただきました。(以下『参考書籍』といいます。)

1 キャバクラの営業トークは詐欺なのか?

キャバクラの営業トークといってもいろいろありますが、ここでは『結婚するつもりがないにも関わらず、結婚を仄めかすような発言をした場合』を考えたいと思います(尚、上記事件についてはあくまでも加害者側の証言であり本当にそのような事情があったかは現在明らかではありません。)。

刑法246条1項は『人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。』としています。
※拘禁刑一本化が施行されれば『懲役』は『拘禁刑』となります。

条文からわかるとおり詐欺が成立するには、『人を欺くこと』すなわち『人を騙すこと』が必要です。

そして人を騙したというのは、ただたんに『嘘』を述べたというだけではだめで『重要な事項』についての『嘘』だといえることが必要です(最高裁平成22年7月29日の決定を参照。)。

結婚する意思がなく、『結婚する』といってお金を騙し取ったのであれば『結婚する』ということは重要な事項になりますので『結婚する』という嘘は『重要な事項』についての『嘘』になりそうです。

ここからはボクの考えですが、キャバクラなどの場合色仕掛けを楽しむという性質があります。ですから、キャバクラで支払う金銭は『色仕掛けを楽しませてもらった対価』とも考えることができそうです。

その色仕掛けのなかで『結婚したい』と言われたということであれば、一般的にみて『結婚するかどうか』に関わりなく、『そういってもらうことを楽しんだでしょ。』というように『本当に結婚できるか』は重要な事項ではないともみれそうですね。ただこれも状況によって変わると思います。

参考書籍にも重要性は『被害者の個人的関心ではなく、当該取引・業務における一般的な重要性によって客観的に判断されるべき』(同章p.261から引用。)とあります。

※引用させていただいた記述は詐欺罪一般についての話です。

ただ、上でも述べましたがあくまでも個人的意見ですのでこれが正しいというわけではないですし、色仕掛け営業については色々議論がありそうです。

2 立証の困難性

仮に営業トークが詐欺にあたるとしても、詐欺の成立を立証するのは難しい場合もあります。詐欺になるにはひとをだましたときに、『人を騙す意思』が必要です。
つまり、『結婚したい』と言ったときに『本当に結婚する意思がないこと』が必要なのです。後から結婚する気がなくなった場合は、結婚詐欺にはなりません。

3 自力救済の禁止

最後に、日本では自力救済は原則としては認められません。それは日本という法治国家においては公的機関にその役割を委ねるべきだからです。なのでタワマン事件で仮に女性が詐欺をしていたとしても、自分で救済することは認められません。(自分でお金を取り返すことはできません。)その意味で加害者が殺害に及んだという行為は許されないことです。
ただ、2の話にもあるように公的機関に相談をしても立証の困難性などから救済を得られない場合もあります。
なので、キャバクラの営業トークで辛い思いをしている人がいるということを頭に置いておく必要がありそうです。
その上でキャバクラの営業トークについて一定の規制を設けるべきなのかどうかということを考えていく必要がありそうです。


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