部屋の掃除してたら初恋を思い出した
それは日本一周から家に帰り、荷物の片付けをしていたある日のこと。
作業中、芸人ラランドのラジオを聴いていたら受験の話をしていた。
自分にもそんな時代あったな。
片付けを放り出して、受験関連の棚を数年振りに引っ張り出してみた。
あぁこの手触り、懐かしい。
高校生活の思い出が甦ってくる。
・・・
中学で陸上部に明け暮れた結果、
偏差値41の高校に進学した。
人見知り過ぎて友達は全く出来ず。陸上部に入ろうと思ったがそもそも無く。何個か入部体験行ったけど、うまく馴染めず、結局帰宅部になった。
学校では誰とも話さず、授業が終わるとまっすぐ家に帰る。当時はこれといった趣味は無かったが、Against The Currentってバンドをよく聴いてた。でも言ってもみんな知らないから、好きなアーティスト質問されたら「特にないかな」って答えてた。そりゃ友達できねぇ。
放課後は吉祥寺の井の頭公園で、1人で太宰治を読むような男の子だった。みんなが見るアニメ、ドラマ、映画、スポーツ、それに合わせなきゃいけない雰囲気が窮屈だった。
そんな殻に閉じこもった生活を1年間続け、気付けば高校2年生になっていた。
出会いは、突然訪れる。
その子は高1で同じクラスだったけど話したことは無かった。2年生から文系理系でクラスが分かれる学校だったので、自分は文系、その子は理系に進んだ。
高2に上がってすぐの4月、数学でわからない問題があり、去年から同じクラスで、唯一の友達に質問した。すると
「俺理系に知り合いいるから、その子にLINEで聞いてみて!彼女、頭いいから」
と言われた。
同じクラスだったとはいえ、知らない女子にいきなり質問すんの?いやハードルたか。
当時は先生に質問しに行く勇気は無かったから、渋々LINEを追加して聞いてみた。
「いきなりすみません。去年同じクラスだった〇〇です。数学で分からないところがあって...」
今思うと唐突すぎて怖いLINEだが、その子は優しく教えてくれた。
「あ、覚えてますよ!
この問題はこうやって解くと簡単で...」
わざわざ要らない白紙を探して書いたのであろう、丁寧な解説の書かれた紙の写真が送られて来た。
「ありがとうございます!やっと理解出来ました!」
すると、
「これ、実は教科書の最後に載ってるんですよ笑」
恐らくその子から見て、俺の第一印象は「バカ」だろう。
確かにめちゃくちゃ分かりやすい図が教科書に載っていた。
「あ、気付きませんでした笑」
その日からだ。お互い何も知らなかったのに。いや、知らなかったからこそ、毎日LINEをするようになった。
部活は?
趣味は?
お家はどの辺?
好きな食べ物は?
話すことがたくさんあった。
LINEは休日も続き、1日も止まることが無かった。気付けば、お互い毎日10通ずつ送り合う異常事態にまで発展していた。
そんな日が1ヶ月、2ヶ月と続き、夏休みに入った。
夏休みには、もうタメ口で話す仲になっていた。
男友達と隅田川の花火大会に行った日に、花火の写真と一言送った。
「めっちゃ混んでる。」
すると、
「え、花火!!誘えよ!!」
と返信。
ここで重大なことを思い出した。
あれ?俺この人の顔知らない。
去年同じクラスだったけど話したことがないから、顔も知らない。
というかそもそも女子と遊んだ事がなかったから、2人で遊ぶって発想がなかった。この時は深く考えずに
「今度行こう!」
とだけ送った。
偶然、8月末に多摩川で花火大会があると聞いた。ここならお互い家から近い。
「この日空いてる?」
と聞くと、空いてるよ、と返信。
花火の日が近づいてくる。
集合時間と場所を決めるのに、なぜか電話することになった。その時初めて声を聞いた。
「もしもし?」
「もしもし、聞こえるよ。」
「集合時間なんだけど...」
あれ、なんか緊張する。
とりあえず場所と時間は決まった。てか伝えるだけだから、30秒くらいで要件が済んでしまった。待て待て、電話って何話すんだっけ?
すると
「○○君って、結構声低いんだね」
「え?そうかな」
沈黙。4ヶ月も毎日LINEしてんのにこれかよ。頭をフル回転させて考える。
結局気の利いたことも言えず、電話は終了。当日大丈夫か?急に不安が募ってくる。(絶対相手の方が不安)
花火大会当日の昼。幼馴染に手伝ってもらって、自転車で場所取りに来た。
途中のコンビニでレジャーシートを購入。2人だとサイズどれくらいだ?
「何人来んの?」と聞かれ、1人、と答える。「女?」と聞かれ、頷く。
「へー、良いじゃん」ニヤニヤする彼。 こいつ。
適当に180×180くらいのシートを買った。
多摩川に着き、広げてみる。あと数時間後には、違う人と来るのか。なんか変な感じ。
場所も取れたし、最寄駅から会場までのルートを通って下見。よし、これでバッチリ。彼と自転車で家まで帰る。
あの時はありがとな。
日も落ちて、約束の時間が近づいて来た。最寄駅はとんでもなく混雑していた。見つけられるかな。
すると、全身白いワンピースを着た子が照れながら笑顔で近付いてきた。
「お待たせ!」
「じゃ行こう。」
と言い、会場に向かう。
会場まで徒歩20分。
緊張して前しか見れない。何の話したかなんて覚えてない。
正確に言うとこの時は「好き」まで意識してなかったと思う。
ただ、強烈な緊張感は抱いていた。好きを自覚するのはもうちょい後の話。
歩いていると、突然轟音が。
もう花火が始まってしまった。こんなに混雑してるのは予想外だった。
「あ、始まっちゃった!」
急ごうとしても、人混みで牛歩しかない。ドン!ドン!と後方で上がる花火。上を見ながら歩くから、彼女と腕が当たってしまう。
「あ、ごめん」
と同時に謝る。
なんとかレジャーシートに辿り着く。
「場所取りありがとう!」
ちゃんとお礼も言ってくれる。
花火が綺麗。花火に意識がいったことで、冷静に戻れた。そっからはLINEのテンションに戻れた。
最後にどデカい何尺玉かが上がり、会場で拍手が起きる。あ、終わったのか。あっという間だった。
ものすごい人混みなので、しばらく待ってから帰ることにした。
2人でシートに寝っ転がって、夜空を見ながら他愛もない話をする。あー楽しいな。
「そろそろ帰ろっか」
一緒にシートを畳み、最寄駅まで歩いていく。
ホームに着く。彼女とは逆方面なのでここでお別れ。すると、
「絶っ対また遊ぼうね!」
と何度も言ってくれた。
今日が8月末で、9月は文化祭、10月は修学旅行と中間テストがあるから、11月に遊ぶことが決まった。
別々の電車に乗って解散。最後誘ってくれたけど、楽しんでくれたってこと?
・・・
2学期が始まった。学校全体が文化祭に向けて大忙し。去年は友達がおらず退屈だったが、今年はどうかな。
彼女はフォークソング部の部長で、当日出し物をする。教室を1つ借りて部員たちがギターを演奏するのだ。
「見に行ってもいい?」
「恥ずかしいけど、来てくれたら嬉しい!」
文化祭は2日間で、その演奏は初日にある。
「クラスの出し物は何やんの?」
「こっちはチョコバナナ屋さん、そっちは?」
「こっちは縁日。
そうだ、2日目のこの時間シフト休みなんだけど、暇なら回らない?」
「私も暇!一緒に回ろう」
トントン拍子に一緒に回る事が決まった。もうこの頃は好きになっていた。
文化祭初日、恥ずかしいので数少ない友達1人を、ギター聴こうと言って無理やり連れ込んだ。モタモタしてたので途中参加。
ギターを弾く彼女の姿は新鮮だった。真剣な顔で弾いていて、素直にかっこいいと思った。
演奏が終わり、拍手。教室を出るときに軽く会釈すると、向こうも気づいて会釈を返してくれた。
翌日の文化祭2日目、彼女と廊下で待ち合わせ。学校で会うのは今日が初。待っていると彼女がやって来た。お土産にチョコバナナを渡してくれた。好き。
わたあめを食べたり、ジュースを飲んだりして校内を散歩する。お化け屋敷の前に通り掛かった。
「行ってみる?」
「良いけど...」
自分はこういうの怖くないので普通に誘ったのだが、彼女の様子がおかしい。
「良いけど、手借りるかも。」
5組くらい並んでたので、並ぶ。中から悲鳴が聞こえる。高校生のお化け屋敷なんて怖くないだろ。
順番が次になった。係の高校生に、「2人です」伝えると、教室に向かって
「はいカップル入りまぁす!!」
と大声で言う。おいてめえバカ野郎。
2人で中に入る。彼女はどう思っただろうか。
彼女に先行ってと言われたので、自分が先頭。スタートは四つん這いで進まないといけない。彼女が後ろから俺の足首を掴んでくる。右側に生首が置いてあるが、ドキドキしてそれどころじゃない。
最初の曲がり角でやっと立ち上がる。隣に立った彼女がそっと手首を掴んでくる。上から何かが降ってきたが、ドキドキしてそれどころではない。
最後はロッカーからでかい音がするオチだが、並んでる間にネタバレしてるから、驚かずに終了。
「思ったより怖くてドキドキしたね」
と言われる。うん、ドキドキしたね。
お互いシフトの時間になったので解散。
「じゃ今度は11月だね」
「うん、また!」
と言って教室に戻る。
文化祭から数日経ったある土曜の朝、登校中に彼女に似た人が前を歩いていた。案の定彼女だった。邪魔かなとも思ったが、声を掛けてみた。
「おはよう。隣歩いてもいい?」
「わ!おはよう。もちろん」
うちの高校は土曜授業がある。土曜日だけ電車の本数が減る。
「いつもこの時間なの?」
「そうだね。○○君も?」
「んー俺はいつも時間バラバラかな」
「そうなんだ。
私○:○○分の電車だよ。」
「そうなんだ、じゃ来週一緒に行く?」
と聞くと、快く受け入れてくれた。
そこから毎週土曜日は一緒に登校することになった。
この辺の時期から、お互い下の名前を呼び捨てで呼ぶようになった。
・・・
10月頭に高校生活最大のイベント、3泊4日の修学旅行がある。行き先は長崎。
自分にとって人生初の飛行機に乗って、長崎に出発した。
男7人の班で、メガネ橋やら平和公園やらを回る。その間、彼女と
「今ここ!」
「あ!そこさっき居たわ」
などと数時間置きにLINEしながら。
夜はホテルの部屋で自由時間になる。
みんなとトランプやりつつ、彼女とLINEする。
「今何してんの?」
「部屋で友達とアイス食べてるよ」
「え、アイスあるの?」
とか話してると、突然
「会いたい。笑」
さすがにトランプ中に抜け出すことは出来なかった。それにもうこの時間は出歩くのが禁止だった。
ここで、はっきりと好きだと意識した。そして、もしかしたら彼女も...と。
今は会えないので、
「東京帰ったら電話しよ!」
と誘うと
「え、嬉しい!楽しみにしてる!!」
そんなこんなで、修学旅行は終わる。
・・・
東京に帰り、約束通り電話をした。
修学旅行の話で盛り上がったあとに、11月の話に移った。
話し合いの結果、彼女の最寄りの映画とカラオケに行くことになった。
11月のいつにしよっか?といったが、早く会いたくて11月1日に決定。
その前に10月末の中間テストを乗り越えないとね。
ちなみに彼女は理系で学年1位だ。
・・・
テストも終わり、11月1日を迎える。
11時に府中駅集合になっていた。自分は楽しみすぎて、40分前に着いた。10:50ぐらいに「もうすぐ着く?」とLINEが着た。嘘だけど「そろそろ着くよ。」と返す。
「え、待って、どうしよう、服が決まらない!」
結局10分ぐらい遅れて、秋らしいブラウン系のニットとワンピースで走って来た。遅刻の理由かわいすぎんだろ。
まず映画のチケット発券しに行く。当時クレカ持ってなかったからね。
そして、神社でおみくじを引こうと話していたので引いた。彼女は謎におみくじに自信があったが、凶を引いて落ち込んでた。自分は大吉。
日頃の行いの差を見せつけた後は、お昼ご飯にサイゼリヤ。今思うともっと他にあったはずだが、当時は高校生=サイゼだったよね。
映画の時間になったので、「バクマン。」を観る。
「バクマン好きなの?」
と聞くが、あんま知らないらしい。
後日、最初に「彼女に数学の質問しなよ!」と言った友達が、彼女にバクマンを勧めたと言う話を聞いた。
映画の後はエレベーター降りたところにあるカラオケに。
彼女はカラオケが好き。自分は苦手。
苦手って伝えてたんだけど、ゴリ押しされて来てしまった。
まぁ今日カラオケ行くって分かってから友達に練習付き合ってもらって、初めてではないんだけどね。
「最初に歌って!」とゴリ押ししてくる彼女。気は進まないが「天体観測」を入れると、「良いねぇ!!」と1人テンション上がってる。楽しそうだなおい。趣味じゃない邦楽を数曲覚えてきた甲斐があった。
次は彼女の番。
何の曲か覚えてないけど、感動するレベルで上手だった。普段は褒めると図に乗るのに、対面だと照れる彼女がかわいい。
歌い終わって、外に出る。
なんかで靴のサイズの話になって、
「一緒に写真撮ろ!」
って言われたからツーショットを撮った。
靴の。
その後は決めてなかったから、ショッピングモールの通路のベンチで座る。
すると、はいこれ、といって袋を渡してきた。
何?と聞くと、誕生日プレゼント、と照れ臭そうに言う。
今日が楽しくて、数日前が自分の誕生日だったのを忘れていた。
中にはボールペンと手作りのお菓子が入っていた。奥の方に手紙も入っていた。
(その日、帰ってからから読んだ。内容はさすがに覚えてないけど、日頃の感謝とか書いてあって、泣いたのは覚えてる)
「ありがとう!!」
多分この日が誕生日プレゼントを貰うのが人生で初めてだったかな。
すごく嬉しかった。
その後3時間くらい話した。進路とか受験など真面目な話だった。高2の秋だしな。
彼女はもう進路を決めていた。指定校推薦でいくみたい。理系で1位だもんね。
自分はこの頃...
一般受験なのは決まってたけど、どの大学かは絞れてなかった。てか頭悪いし、担任には「まずは日東駒専を目標にしよう」と二者面談の時にそういう話になっていた。
情けなかった。
頭が悪いことも、進路が決まってないことも。
その時、彼女はこう言った。
「英語できる人ってすごいなって思う」
大した意味は無かったと思う。でも、この一言が自分の人生に大きく影響した。
話し込んで気付けば23時になっていたので、彼女の家の途中まで送った。
その道中勇気を出して、聞いてみた。
「そういえば、今彼氏いるの?」
「いないよ。」
その日は、解散した。
次に会うのは、クリスマス。
彼女のことが好きだと意識してからは、彼女に振り向いて欲しかったし、対等になりたかったので、12月の期末テストでは、文系で学年1位を取った。
英語は特に力を入れた。元々興味があったのもあり、先生に褒められるほど上達した。
期末テストが終わり、冬休みに入った。
クリスマスの今日、彼女に会って自分の気持ちを伝える。
17時、恵比寿駅で合流。
恵比寿ガーデンプレイスの、落ち着いたイタリアンのお店に入る。
彼女は今日何を言われるか察してるかもしれない。
食べ終わって、イルミネーションを見る。その後、座ろうと言ってベンチに腰掛ける。
適当な話をする。緊張で呼吸がうまくできない。何度も逡巡したが、勇気を振り絞って
「○○のことが好きだから、付き合って欲しい。」
と伝える。
すると彼女は、考えたいから少し時間が欲しいと言った。
もちろん、と言って、その日は解散。
全く落ち着かない年越しを経て、1月2日の夜に彼女から電話がかかってきた。
年始の挨拶をして、少し世間話をした後、
「この前のことなんだけどね、
私好きな人がいるから、ごめん。」
何て返したかは覚えてない。とりあえず返事をしてくれたことに感謝を伝え、その電話は終わった。
なんとも、しょうもない話だ。
自分だけが勘違いして、舞い上がっていたのだ。自分だけが楽しんでいて、彼女のことなんて考えられてなかったのかもしれない。
短い冬休みが明けた。あんなことがあっても変わらず3学期は始まる。担任が受験の話を始める。
もう全てがどうでもいい。
この時が受験のタイミングで良かったのかもしれない。
勉強してる時は、何も考えずに済んだ。辛いことを忘れた振りができた。
高3の模試では、1年前には考えてなかった大学も、視野に入ってきた。
結局第一志望の早稲田には落ちてしまうが、「まず日東駒専が目標」だった高2と比べたら成長できた。
落ちたけど、自分はこのくらいだよな、と結果に満足したから良かったのかもしれない。
2月には、他の大学から「頑張ったね」と聞こえてきそうな合格通知が何日か置きに届いた。
もちろん、勉強中に彼女を思い出さなかった訳ではないけど、
この人をモノにしたい!じゃなくて
この人に恥じないように生きたい、成長して肩を並べたい、そう思わせるような人だった。
実際あれから英語に興味を持って、今年の夏、海外に1年行こうと計画している。
この人に会ってなかったら、どうなってたんだろうか。
帰宅部で友達が少なかった灰色の高校生活に、彩りを与えてくれたあの人には感謝している。
これが自分の、初恋の思い出。
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