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なぜ、あなたの意見は通らないのか?

「会議で、なぜか自分の意見が通らないんです」

最近、若手からこんな相談を受けました。話を聞くと、どうやら「意見の内容」自体が悪いわけではないのです。

会議がはじまって15分後ぐらいに、自分の意見を言ったのだけど、いまいち反応がよくない。

それで2時間ほど話し合ったあとに、自分が言ったのと同じような意見を、別の人が言った。するとなぜか「いいね!」となって、話がまとまったーー。

「え?」と思いますよね。「俺、嫌われてるのかな……」「もっと出世して発言力がつくまで、自分の意見は聞いてもらえないんだろう」と。

しかし、そんなことはありません。

あなたの意見が通らないのには、別の理由があります。もちろん、意見の内容がいいことは大前提。ただ、僕の経験上「正しい意見」だからといって、必ずしもスムーズに合意がとれるわけではありません。

意見を通すのにも「技術」がいるのです。

今回は、僕がこれまで社内、クライアント、パートナー企業、政府や自治体など、さまざまな相手と交渉するなかで気づいた「意見を伝えるコツ」について書いてみました。

せっかくいい意見があるのに、伝え方のせいでボツになってしまうのはもったいない。このnoteが、相談者と同じような悩みを抱える方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

「相手のメリット」を設計せよ

あなたの意見が通らない、最大の理由。

それは「その相手にとってのメリットがないから」です。

結局、みんな「自分」が大好きなんです。自分にメリットがあるのなら、人は頑張ります。でも、その人にとってのメリットがない状態で、いきなり意見を主張されると「なんだよ!(怒)」となってしまうんです。

あなたのことが大好きな相手になら、いきなり主張してもいいんです。好きな人のことを助けられるのは、メリットですから。でも、そうでない限り、基本的には聞いてもらえません。

だからまずは、なんとかして「相手のメリット」を設計する必要があるのです。

そのために最初に考えるべきは「相手は、誰から言われたことならやってくれるのか?」ということ。

たとえば、その人の上司に言われたことならやってくれるかもしれません。それなら「あなたの上司は、こういうことを求めてます。だからこういう施策をやったらいいと思いますよ」といって、意見を伝える。

相手が営業担当だったら「このお客さんは、こういうことをやると喜ぶんですよ。だからこの施策どうですか?」と伝えます。営業の人って、お客さんのためになることなら、何が何でもやろうとしてくれますから。そこに、自分のやりたいことを重ねる。

「相手がやりたいこと」と「自分がやりたいこと」をうまく重ねて、共通のコンセプトをつくることもあります。コンセプトを作って「これならすごくうまくいくと思うんです」と伝える。

相手がやりたいことをやる。同時に、自分がやりたいことも実現しているようにする。

これが、交渉ごとの基本になる考え方です。DIのビジネスプロデュースでもよく使います。たくさんの関係者を巻き込むような仕事には、必須のスキルだと思います。

「正しい意見をいえば通るはずだ」と思っていた人も多いかもしれません。でも、全然そんなことはないのです。意見が通らないのは「正しさ」以外の理由も大きい。

仕事は、実はロジックの外で動いているところもけっこうあるのです。

意思決定は「好き嫌い」で決まっている

組織には「力学」がはたらいています。

だから意見を言うときは、相手の組織の構造を考えて、力学を読み解くのが大切です。

下手すると「いい意見ほど通したくない」って人もいます。「この意見を通したら、こいつが目立っちゃうじゃん。相対的に俺の立場がなくなりそうだな」と思う人がいるのです。

そうなると、もう意地でもやらないですよね。

いい意見だから通るわけじゃないんです。むしろ力学によっては、悪い意見のほうが、簡単に通ることもある。

そういうことを知らずに、必死にいい意見を通そうとするのはかなりつらいでしょう。若手のいいアイデアが通らずに、ベテランのしょうもない意見が通るみたいなことになってしまう。

身も蓋もないことをいいますが、大半の意思決定は「いいか悪いか」ではなく「好きか嫌いか」で決まっている。これが現実なのです。

好かれるにはどうすればいいのか?

こういったお話をすると「好かれるのって難しくないですか?」と聞かれることがあります。

自分が主張すればするほど、どんどん相手との距離が開いていく。だけど仕事のなかで、どうしても主張しなければいけない場面がある……。

どうすれば好きでいてもらいながら、主張を伝えることができるのか?

大切なのは「まず相手の話を聞くこと」です。

人の好き嫌いは「何分間、自分の立場に立ってくれたか?」によって決まると、僕は思っています。

だから会議では、主張よりも「質問」をたくさんしたほうがいいんです。「〇〇さん的にはどう思いますか?」「教えてください」と。

それで、相手の主張に混ぜて、自分の主張も言うといいです。「〇〇さんのおっしゃる通りで、こうですよね」という感じ。

「相手の話を聞く」という一手間をかける

うちのメンバーには「初めてのお客さんとプロジェクトが始まったときは、必ず、すべての部署にヒアリングしましょう」と言っています。

プロジェクトには関係ない部署にも、10人ぐらいの小さな部署にも、できるだけ直接お話を聞きに行きます。アジェンダは質問だけ。30分ずつ時間をとって会いにいって、よろこんで話を聞きます。

すると、そのあとの提案がものすごく通りやすくなるんです。

ヒアリングをしておくことで、相手は「この人たちは少なくとも、自分たちの哲学を理解したうえで提案してるんだな」と思ってくれます。

「聞く」プロセスなしに、いきなり主張をぶっ込んでしまうと、ほとんどの場合相手は、「自分には害がある」か「自分には関係ない」かのどちらかを思っちゃうんですよね。

これで冒頭の相談にあった、会議の話の謎も解けます。

ほとんど同じ意見でも、会議の最初に言うのと、最後に言うのとでは、まったく反応が違う。それは「相手の話を聞いたかどうか」による違いです。

会議の最後に意見をいうと、相手は「これまでの1時間半の話をふまえて、そう言ってきたのかな?」と思います。すると、納得してもらいやすい。

「同じ結論なら、早く答えを出したほうが効率的じゃん」と思うかもしれません。

たしかに短期的にはそうです。でも「相手の話を聞く」というひと手間をかけるだけで、その後のプロジェクトのやりやすさがまったく違ってきます。だからこそ、このひと手間が、実はものすごく大事なのです。

経産省の、とにかく粘り強い先輩たち

僕が意見の通し方をはじめて学んだのは、新卒で入った通産省(いまの経産省)でした。

経産省の人たちは、当時の大蔵省(いまの財務省)に「予算要求」というのをするんです。「こういう施策をやるので、○億円の予算をください」と。最初はけっこう無理筋な予算でも、ゴリゴリ作って持っていく。

それで、めちゃくちゃ怒られて帰ってくるんですね。

僕もあまり物怖じしないタイプではあったのですが、それでも経産省に入って、あんなに怖い人たちと対峙するのは初めてでした。もう、行った瞬間に怒られる。「なんでこんなんで要求通ると思ったんだよ」「なんの意味があるんだよ」って、ブワーッと言われて。

でも先輩たちは、ぜんぜん懲りないんです。質問に対してちゃんと答えて、答えられなかったものは「宿題にさせてください」といって持って帰って、また行く。

それを繰り返すうちに、なんとなく雰囲気が変わっていくんです。

法律もそうです。法律だと内閣法制局に持っていきます。予算だと大蔵省(現財務省)主計局、税だと主税局に、それぞれ「要求」を持って行きます。そのときもみんな、ぜんぜん諦めないんですよね。

仕事ができる人ほど、何度も行くんです。

何回も何回も。どんなに怒られても、難問でも、必ずちゃんと宿題をもらって、繰り返し、繰り返しもっていく。そうしないと、ぜんぶの政策が消えちゃうんだと思います。

心底「すごいな」と思いました。ふつうは一回怒られたら、もう逃げだしたくなりますよね。でも、諦めちゃダメなんです。それが感覚としてわかりました。

「怒られるのを怖がっているよりも、飛び込んでいって仲よくなっちゃったほうがいいんだな」と思ったんです。

予算を通すために、係長に20回会いにいく

はじめて自分ひとりで予算要求をしたのは、入省して3年目のときでした。

提案したのは、沖縄で開催するAPECのための新規予算です。数億円単位の予算を一生懸命に積み上げて、大蔵省主計局に持っていきました。相手は主査や係長。当時の僕よりも少し上ぐらいの人たちなのですが、もうゴリゴリに詰められるわけです。

でも、ずーっと話しているうちに、やっぱり少しずつ仲よくなっていくんですよね。

「ホント嫌だなあ」と思いながらも、指摘されたことを「宿題にさせてください」と持ち帰って、また持っていきます。一生懸命「この間こう言ってたじゃないですか」と提案して。

すると、宿題を返すときに、相手もちょっとニコッとし始めるんです。

このときは、だいたい20往復ぐらいやりとりしました。3カ月間、毎週、毎週会いに行って。朝行って、夜また行く。もう執念でしかないですね。

そうやって提案を練るうちに、だんだん雰囲気もよくなってくる。だからやっぱり、できるだけ早くその状態をつくったほうがいいんだろうな、と思います。

人は「わからないもの」が嫌い

人は「わからないもの」を嫌います。だから「知らない人」のことは、当然ながら嫌いです。「初めて見るもの」も嫌いです。

これは僕が仕事をするうえで、強く意識していることです。

特にDIでやっているビジネスプロデュースでは、まだこの世に存在していないビジネスアイデアを提案します。必然的に「誰も知らないこと」ばかり話すことになる。下手をすると、嫌われかねないのです。

だからこそ、いきなり意見をぶつけにいったらダメなんですよね。

部下にはよく「お客さんやパートナーには、何回も会いにいけ」と言っています。

2回も3回も会いに来ようとする人がいたら「この人はきっと俺のことが好きなんじゃないか?」と思います。人ってそういう生き物です。

そして、こっちもなんとなく好きになってくるんですよね。毎週会いに行ったりしたら、もうラブラブです。会うのが楽しくなってきて、相手のほうが先に来て待っていたりするようになります。

プロジェクトにとって重要な人に会いにいくとき、いちばん大切なのは「次に会うアポが取れるかどうか」です。

提案の中身がどんなによくても、嫌われたらもう二度と会えません。最悪、中身がしょぼくても「こいつはおもろいな」と思ってもらえれば、2回目のチャンスがもらえます。そこで宿題をもらって、改めて持っていけばいい。

そっちのほうが「成功」の提案だと思います。

手柄をばら撒け

意見を通したいなら、手柄を相手に渡すのも大切です。

相手の主張をまずは聞いて、そこに自分の意見を混ぜる。「あなたのおっしゃる通りで、僕もこう思うんですよ」と、まるで相手のアイデアかのように言うんです。

それがいいアイデアであれば、その手柄を相手に渡すことになります。もらった人は、ちゃんとわかっているんです。「うんうん、やっぱりそうだよね」と言いつつも(自分の意見じゃないんだけどな)と。

そして、手柄をくれた人に対しては密かな「負い目」ができます。そうすると、次にこちらから何かお願いをしたときに「聞いてあげないとな」と思ってくれるんです。

やっぱり人って、みんな自分のことが大好きだし、かわいいんじゃないかなと思います。だから、自分を大事にしてくれる人や、自分が「大事な人」になるように演出してくれる人のことは、みんな好きになるんですよね。

愛もばら撒け

僕はよく「愛と情報とお金は、ばら撒いたほうがいい」と言っています。そのなかでも、愛がいちばん強力です。

愛をばら撒くと、自分に返ってくるんです。

愛を伝えるというのは「すごい調べてきました!」みたいにアピールをすることとは、ちょっと違います。

僕は「興味を持つ」ことが、愛を伝えることにほぼ匹敵していると思っています。

相手のことを知らなくてもいいから「あなたのことが気になるんです」と伝えて、話を聞く。周りからチラッと聞いたその人の評価を「こう聞いてます!」とそのまましゃべるのは危険です。相手にとっては、不本意な評価かもしれませんから。

だからまずは、相手に「自分はこう見られたいんだ」というのを話してもらう。それで「そうなんですね!」と言うだけでいいんです。

「あの記事にはこう書いてあるんですけど、本当はそうなんですね」とかも言わなくていい。とにかく「目の前の相手」に興味をもって、話を聞く。

そうやって愛をばら撒くと「じゃあ、こいつの話も聞いてやるか」と思ってもらえるようになるんです。

これは、相手が嫌な人でも同じです。

嫌な人でも、怖い人でも、プロジェクトにとって重要な人なら逃げてはいけません。

とはいえ最初はやっぱり気が重いです。だから僕はいつも「自分はこの人のことが大好きなんだ」と思い込むようにしています。その人の嫌だなと思う部分も、なんとか「好き」と暗示をかけてから部屋に入る。

そうすると向こうも好きになってくれます。そのうち不思議と、自分も好きになってくる。結果的に、本当に仲よくなれるんです。

「あの人とあんなに仲良くなった人、あなたしかいないですね」と言われるぐらいになれば、もう最強です。その人との情報の窓口は、自分しかいないことになりますから。

そもそも組織で偉くなるぐらいの人で、本当に嫌な人って、あんまりいないものです。大きなビジネスの場に出てくる人は、大体いい人が多い。

だから、好きになって愛を渡しておけば、ちゃんと返ってきます。

自分の意見を手っ取り早く通す方法

「明日の会議でどうしても通したい意見がある」という人もいるかもしれません。何回も話を聞きに行ったり、手柄や愛をばら撒いたりしている時間がない。

そういうときは、会議で自分と似たような考え方の意見が出るのを待っていればいいんです。

出た瞬間に「あ、それってもしかしてこういうことを言ってますか? それすごくないですか? 大発見です!」と。

で、それをホワイトボードに書くんです。

「こういう意味じゃないですか?」と言いながら、どんどん自分の解釈を加えていく。加えるときも、できるだけ相手の意見から引用します。そうやってどんどん「みんなの意見」ということにしてしまう。

これならわりと早く意見が通ります。

ファシリテーターをやろう

書記って、実は裏の権力者なんですよね。

だから意見を通したいときは、ファシリテーターをやると有利です。その気になれば、ほぼその場を制御できます。

役所の意思決定でも、実は「事務局」がすべてを握っていたりします。いろんな課の意見をバーッと聞いていくのですが、最後は「事務局側で取りまとめました」といって、実は最初から、事務局のストーリー通りに進んでいる。

意見した人たちは、自分が言ったことさえ入ってればいいので、そこだけ見てOKを出すんです。すでにいろんなところで書いている人がいますが、それが役所の意思決定システムなんでしょうね。

ただ座って会議を聞いているだけだと、もったいないです。

意見を通したいなら、書記をやったほうがいいし、日程調整やアジェンダ設定も「やっときますよ!」といって動いたほうがいい。

それだけで、意思決定をかなりコントロールできます。

すべては「ロジ」が決める

経産省には「ロジスティックス」と「サブスタンシャル」という言葉があります。

仕事の役割をあらわす言葉で、ロジは「取りまとめる」「管理する」という意味。サブは「本質」「中身」という意味です。

ロジの仕事って、一見すると雑用っぽいんです。コピーをとったり、いろんな人の間で連絡係をしたり。サブのほうが、リサーチしたり資料を作ったりして、カッコよく見える。だから「なんでずっとロジなんだ、サブがやりたい」と思う人も多いんです。

でも、とんでもない。むしろロジのほうが圧倒的に大切なのです。

ロジのところには、どんどん情報が集まります。

コピーしたり、みんなの意見を聞き取ってまとめたりしているうちに「この人にこう言うと、絶対こういう意見が返ってくるな」とか「次の展開はきっとこうなるな」というのがわかってくる。

すると、だんだんと何を聞かれても答えられるようになってきて、情報もコントロールできるようになってきます。上司に「これ、こういう内容で返しときましょうか」と言うと「いいね。それでいこう」となったりする。

そうすると、いつのまにか上司の仕事も全部できるようになってしまうんです。

AIの学習のしくみと同じだと思います。たくさんの人の意見や情報を聞いているうちに、いつの間にか賢くなっている。だからロジが大切なんです。

ニコニコ仕事しよう

いろんな人に好きになってもらいながら、ロジをやれたら最強です。

好きになってもらうと、いろんな人が話をしに来てくれます。ロジは集まってくる情報を取りまとめるので、情報の質もどんどん上がっていく。

そのためにはムスッとしながらロジをやってたらダメです。

ムスッとしてると、仕事は勝手にハードになっていきます。不機嫌な顔した人がくると、相手もなんだかムカついちゃうんですよね。「なんなんだよ。こいつなんかに、何もあげたくないぞ」と思われちゃいます。

ニコニコしながら仕事をしてる人には、みんな「こいつにお饅頭でもあげようかな」と思います。情が生まれるんです。そうするとどんどん成長できます。傲慢にならず、ずっとニコニコやっていけば、みんなが応援してくれる。

「敵がいないリーダー」ができるんです。

真面目な人ほど、難しい顔をして、一人で一生懸命に考えたりしがちです。でもそれだと「力を借さないぞ」と思われて、損してしまうんですよね。

意見は通すものではなく「通る」もの

意見は「通す」ものではありません。

意見は「通る」ものなんです。力で押し通すのではなく、自然と通るもの。相手の意見を聞いて、混ぜて、返す。合気道みたいな感じなんですよね。

怖い人に意見を否定されたりすると、ふつうは「もう、あの人は放っといたほうがいいですよね」みたいになってしまうものです。

でも、あえてそこに飛び込んだら、いいことがある。成層圏を抜けると、自由に歩ける世界がある。しかもそこには、巨大な価値があるんです。

意見を主張する前に、相手のメリットを設計する。怖いときほど、相手に抱きつく。

いろいろと書きましたが、シンプルにこのマインドで交渉するのが、やっぱりとても大切です。

ちょっとしたテクニックなのですが、noteを読んでくださった方がこれを実践して、いままでボツになっていた「いい意見」がたくさん通ってくれたらいいなあと、密かに願っています。


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