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法律だって変えられる

法の網をかいくぐるのが商売人か?

法律は国が決めるもの。その中でなんとかするのが商売人であるーー。

日本人にはそういう意識が強くあるように思います。

法律は変えられないんだから、その枠内でやる。あるいは、なんとか「グレーゾーン」でやろうとしたり、「抜け道」を探したりしてビジネスをやる。

……ただ、それだとなかなか大きなビジネスは生まれません。

僕が言いたいのは「法律は変えられるんだよ」ということです。

法律というのは絶対的な存在ではありません。きちんとした大義と理由があれば、変えられる。それで社会がよくなるのなら「変えるべき」なのです。

今回のnoteでは、法律を変えることでどのようにビジネスが大きくなるのか? 法律を変えるにはどのようなアプローチをすべきなのか? といったことについてお話ししたいと思います。

法律が変わったことで躍進したUBERとダイキン

「法律は変えられる」という前提で考えられるかどうかで、生まれるビジネスの大きさは雲泥の差になります。

法律が変わったことで大きなビジネスが生まれた事例はたくさんあります。

アメリカでは配車サービスの「UBER」が広がりました。

当初はいろんな規制に引っかかったり、訴訟を受けまくったりしていたのですが、UBER社は「顧客の利便性を高めるサービスである」と政府や州政府に訴え続け、さまざまな裁判に対峙し、今のサービスの形を勝ちとりました。

さらに他の国の政府や行政機関に対しても同じように働きかけることで、今では世界的に広がるサービスになっています。

中国では2008年頃以降、ダイキンのエアコンが席巻しました。

それは中国政府が「エアコンにはインバータをつけなければいけない」という規制を入れたことに起因しています。当時エアコンのインバータを作れる会社が中国になかったため、日本のダイキンが呼ばれて、ダイキンのエアコンが中国に広がっていったのです。

そして実は「インバータを入れると省エネできますよ」と地道に中国政府にずっと言い続けきたのはダイキン自身だったのです。経済発展により爆発する当時のエネルギー需要に対し、中国政府も背に腹は代えられなくなり、「じゃあやろう」となったわけです。

ルールを変えたことでLEDは普及した

以前のnoteにも書きましたが、僕らが携わった「LED照明の普及」も政府への働きかけがポイントでした。

かつては「LED照明なんか普及しない」とさんざん言われていたのですが、経産省に働きかけ、他省庁にも働きかけ、LED照明を受け入れるための法令整備をしてもらいました。

また、総務省とも相談しつつ、全国自治体の物品購入の基準を変えてもらい、これまで照明は「蛍光灯」しか書いてなかったところに「LED」も加えてもらいました。さらには経産省が進めるスマートコミュニティの文脈の中にも「LED照明」を入れてもらったのです。

こうした取り組みによって「これはLED照明市場が広がるな」というメッセージが民間企業にも伝わり、大胆な設備投資をすることによりLED照明の値段を先行して下げてもらうこともできました。

さらに東日本大震災以降、全国レベルでの省エネ意識が高まり、一気にLED照明は広がって、今では当たり前になっています。

もちろん普及には他にもいろんな要因がありましたが、「国への働きかけ」が大きなターニングポイントを作ったのです。

国に働きかけるのは「ズルいこと」なのか?

ここまでの話を聞いて「国に働きかけるなんて、ちょっとズルいんじゃない?」と思う人もいるかもしれません。

そんなことはありません。

実は、国も困っているからです。

僕は経産省で6年間余り、いわゆる官僚として働いていましたが、僕自身ずっと困っていました。政府として、または経産省として、次々と政策を打ち出していくわけですが、実は「この政策が本当に必要なのか?」「本当にこの法律が適切なのか?」を必ずしも確信して打ち出せているわけではないぞ……と思っていたのです。

お手本が世界中にあふれていた高度経済成長期ならいざしらず、すでに世界の「課題先進国」になっている日本では、政府が世の中の実態をすべて把握して設計するなんてことは不可能です。

だから、実際に政策をリリースしてみると「スベる」ことがある。「この補助金、ぜんぜん使われませんでした」とか「このルールが実態とズレていました」とか……。すると、民間からは総スカンです。

政府から見たら小さなことであっても、民間から見て致命的な欠陥があるとその政策はまったく利用されずに終わってしまいます。大枠のコンセプトが合っていたとしても、です。

特に補正予算が組まれる際は時間がなく、十分な検討をする余裕がありません。それこそ1ヶ月ほどで政策を書いて、予算を請求する。補正予算であるがゆえに通常よりも大きなお金がつくにもかかわらず、時間がない中で決めるので、スベる可能性が格段に上がってしまいます。

政策を作る各省庁からすると、これが怖いのです。

本音を言ってくれない民間

政策がスベると、各省庁の要請に応じて予算を用意した財務省からも「ニーズなんてないじゃないか!」と怒られますし、国会からの次回以降の政策に対する信頼も失います。

当然ながら、官僚も本当はちゃんとやりたいと思っています。でも、きちんと調査もできずにやらざるを得ない場合は本当に多いのです。

民間に対して、政府が立案した政策について「こういう政策、どう思いますか?」と聞きに行くことも多々あります。しかし、そのときに民間が本音を語るとは限りません。

筋が悪くとも補助金がもらえるなら「いいんじゃないですか?」と答えてしまう。それどころか、その政策に興味がない場合もやっぱり「いいんじゃないですか」と答えます。

だから「ぶっちゃけどうなのか?」という芯を食った議論ができなかったりするのです。

国が法律を決めるときに困っている、なんて想像できないかもしれません。国は「こうします!」と決めてしまう存在で、民間はそこに合わせてビジネスをする。そう思っている人も多いと思います。

でも、国も困っている。そのことは伝えておきたいなと思うわけです。

必要なのは「陳情」ではなく「ロビイング」

だからこそ、民間の企業も国に対して「こうしてほしい」と真剣に訴える機会をもっと持ってほしいと思っています。

しかし、こう言うと、やりがちなのが「陳情」です。

規制の緩和や変更、撤廃を提案するというよりも「補助金や助成金を出してほしい」というお願いをしてしまうことが圧倒的に多い。

これでは、状況はなかなか変わっていきません。

霞が関に行く企業がすべきことは「陳情」ではなく、公的な利益を実現するための「ロビイング」です。そういった政策提案であれば、行政担当者はどんなに忙しくても話を聞くべきですし、それこそが行政の仕事です。

企業が正しい目的で「法律を変えてほしい」「新しい法律を作ってほしい」と要望すれば、それを実現するのが政府の役目。政府や自治体はそういった民間からの働きかけを待っているという側面すらあります。

(ちなみに働きかけるときのコツとしては「この法律(条例)や政令の第何条第何項をこう変えてほしい」というように具体的に要望すること。

正当な理由があれば、変わる可能性が出てきますし、変えたときの経済効果をきちんと定量化し、逆に発生する不利益とそれに対する対策もセットにすると、思った以上に早く対応してくれます。)

官民の「Win-Win」ポイントを見つける

国が政策を作るときに思っていること。

それは「社会課題を解決したい」ということです。そして同時に、「できればビジネスになってほしい」とも思っています。ビジネスになれば、いつまでも補助金漬けにしなくても自律的に回る世界ができるからです。

しかし政府から見ると、ビジネスの話は今ひとつ理解しづらいという問題があります。そして、政府側でビジネスの理解が甘いと、政策のズレとなって出てしまうのです。

そこで「どうやったらビジネスは動くのか?」をきちっと把握したうえで、国が実現したい社会課題の解決に持っていく存在が必要になります。官民双方が「Win-Win」になるポイントを見つけて実行する。

たとえば国は「温暖化」という社会課題を解決したいと思っています。そのために太陽光発電や風力発電などの環境エネルギーを増やしたい。そこをいかに「ビジネスとして」動くよう設計し、官民を巻き込んでいくかーー。

社会課題を「ビジネス化」する。

僕らのやっている「ビジネスプロデュース」という仕事も、シンプルに言えばそういうことです。

カーボンニュートラルを実現するには

僕らのやっていることのイメージを持ってもらうために、もう少し具体的な話をします。(と言っても、書ける範囲には限りがあるのですが……。)

日本は2050年にカーボンニュートラルを実現することを世界に約束しています。カーボンニュートラル、つまり「CO2の排出を実質的にゼロにします」という宣言をしているのです。

でもカーボンニュートラルの実現は、かなり難しいことです。

まずは、太陽光発電や風力発電の推進が思い浮かぶと思います。これらはわかりやすいのですが、それだけでは大した量のCO2削減はできません。ひとつの対策で削減できるのは、それぞれ5から10%くらい。太陽光発電だって、もしかしたら3%くらいしか削減できないかもしれない。

だから、できる対策は全部やらないといけません。

原子力発電なども視野に入れないといけませんし、アンモニアや水素発電といった「非化石」の火力発電も注目すべきです。

水素で発電すれば「LNG発電所」という既存インフラが活用できます。コストの問題が難しいと言われますが、そんなことを言っている場合ではない。今、政府で検討してくれている値差補てんでも炭素税でも、あらゆる政策手法を導入して水素活用を進めるべきだと思っています。

それに加えて、森林吸収源の活用(木材を利用し、新たに木を植える)やCCUS(炭素の回収や有効利用・貯留)といったことも同時に進める必要がある。それくらいあらゆる手段を講じないと、カーボンニュートラルは達成できない難問なのです。

「御社はどうされますか?」

……と、こんなふうに、僕らはつねに社会課題の研究をしています。

そして「世の中がこうあるべきだ」とか「産業はこうなるべき」「そのためには法律はこうなっているべき」という「妄想」をつねにし続けています。

一方で政府と継続的に腹を割った議論をしながら、政策の見直しの可能性が出てくるとなれば、一方でカギを握りそうな民間企業に「御社はどうされますか?」と話を持っていく。そのうえで「こういうプロジェクトはどうですか?」と提案をしていきます。

提案を受ける企業のインセンティブとしては2つあります。

ひとつは、問題への対処です。

カーボンニュートラルの話で言うと、今後は国から「これくらいCO2を排出しているなら、これくらい税金を払ってください」と言われる可能性があります。そこに対する備えを何もしてないのはマズいという思いがあります。

もうひとつは、シンプルに「儲けたい」という思いです。

カーボンニュートラルを実現する技術を開発できれば、大きく儲けられるかもしれません。

企業は、純粋に「社会のため」だけでは動きません。自分たちのビジネスにマイナスにならないか、もしくはプラスにならないか、ということを考えて動きます。

僕らは「国がどういう社会課題を解決しようとしているか?」を把握する一方で「それをビジネスに落とし込むにはどうすればいいか?」を考える。国と企業の思惑を調整しながら、大きな絵を描いていく。

すると「妄想」は「構想」に変わっていくのです。

これはとても複雑で難しいことではあるのですが、こんなにやりがいのある仕事もないと思っています。

「世のため人のため」がいちばん儲かる

「社会」と「会社」は表裏一体。

「政策」と「ビジネス」は裏表の関係です。

僕らは「日本はこうあるべき」「産業はこうあるべき」と政府に提案します。一方で今度は、それを民間側から見てみます。すると、ある企業にとっては、その一部がビジネスになることがある。

「ビジネスプロデュース」は、そんな図式です。

ひとつの「大きな傘」の下に、企業への提案が5つも6つもぶら下がっている。「スマートコミュニティー」という大きな傘があったら、そこに「LED」や「ハイブリッド自動車」「スマートグリッド」などのビジネスがぶら下がっている。

あとはそれをひとつずつ実現していけばいいのです。

ビジネスプロデュースで大切なのは「世の中全体をよくしたい」という思いです。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、本当です。

もっと高い視座で世の中を見てみることです。

「あつまれ どうぶつの森」や「シムシティ」では、村やまちを作ったことがあるはず。それと同じ発想でいいんです。「ここに畑をつくろう」「このルールはみんなが幸せにならないからやめよう」「こことここを連携させよう」などと全体を見て考える。

現実もそれと同じはずです。

しかしながら現実になるとなぜか突然、視点が下がって「住民の1人」になってしまう。それではもったいないと思うんです。

歴史を勉強するときだって、王様よりも上の「神の視座」で学んだでしょう。それを思い出してほしいのです。

全体を見て、世の中をよくしようとすればするほど、実は「儲け」にもつながります。「世のため人のため」が「自分のため、みんなのため」になる。だからやりましょ! ということなんです。

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