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縁起物と他責思考

 2024年の2月という月を振り返ってみると、筆者にとっては精神的な浮き沈みの激しい月だった。前の月である1月から転職活動を開始し、色々な会社に応募を行い、履歴書や職務経歴書を書いては面接を受ける日々。しかし2月の中旬まで全く内定が得られず、転職市場のデビューから13連敗という不名誉な記録を樹立してしまった。13連敗なんて西武の隅田知一郎だって真っ青だ。
 筆者としてはいわゆる”お祈りメール”が届いたところで、次の選考に向けた準備をするだけなのだが、4月以降の職場が無くなってしまうことに対する危機感が募るばかりだった。頭を下げて現職の会社に戻るくらいなら無職になる方が幾分かマシだし、とりあえずエントリーを行い面接は受け続けよう…ということを考えていると、2月も折り返し地点を過ぎていた。段々と転職産業に対する恨み辛みのようなものも出てきて、批判がルーティン化する危険な水域に突入しているが、現状を打破する手立ても無かった。

 ある日曜日。筆者は現実逃避も兼ねて、日帰りで北陸地方を訪ねていた。3月の北陸新幹線開業を前に、北陸の鉄道に乗りに行くことが目的だ。一通りお目当ての電車に乗った後、金沢市内を散策していたときのこと。金沢フォーラスに出店している蓮ノ空ゲーマーズに立ち寄ることにした。
 ラブライブ!の通算5シリーズ目の舞台となる金沢に構えたこの店舗は、まさしく蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブにとっての本丸と言える場所だろう。入口でキャラクターのパネルによるお出迎えを受け、店内に入ると至る所に蓮ノ空関連のグッズや歴代ラブライブのグッズが並んでいる。

 

 ここが夢見た場所なのか…!まずは慈ちゃんの金平糖を買って…眩耀夜行のCDを買ってという具合に買い物を進めていると、キャラクターのアクスタがズラリと並んでいるコーナーを発見した。ラブライブも5シリーズ目となると、キャラの衣装ごとのスタンドも大所帯となっている。筆者としては世代的にμ’sへの思い入れが強いので、大好きな”かよちん”こと小泉花陽や以前記したnoteでも語った矢澤にこのスタンドを物色する。すると"のんたん”こと東條希のスタンドが目に入った。セーターに身を包んだアクスタが2割引で売られている。せっかくなら買うか。そんなノリで購入を決めていた。 
 旅先のテンションというのは「わざわざ金沢の蓮ノ空ゲーマーズで2割引の東條希さんのアクスタを買う意味は一体何なんだろう」と帰りの北陸新幹線はくたか号の車内で考えていた。

 翌日の月曜日から面接を受け続けていたのだが、火曜日の面接に向かう途中。見知らぬ番号から筆者に電話がかかってきた。内定通知だ。あまりに突然だったので信じられず、筆者は受け答えがとんちんかんになったことを覚えている。それまでエントリーを続けていたこともあるのだが、1件内定が出るとポンポンと内定をいただけるようになり、1日に2件内定をいただくことも珍しくない日々。面接に向かう途中、あるいは面接を終えると内定通知が届いている状況はシュールに感じて笑いさえ出てくる。あまりに上手く行き過ぎることや、無職の危機から救ってくださったのは東條希のアクスタを買ったおかげなのかもしれない。確かにスピリチュアルパワーをおすそ分けしてくれるし、神田明神で巫女のアルバイトをしているから納得。いつしか、筆者は内定を得られるたびに神田明神に御礼参りをすることが日課になっていた。


 現時点で筆者の転職市場での成績は8勝17敗。試合数の多い5月か8月に負けまくった野球チームの月間成績みたいだけれど、内定が8個もあるのはありがたいことだ。件のアクスタを買う前は0勝13敗。購入後は8勝4敗という成績を踏まえると、アクスタが縁起物と考えてしまうものだ。恐ろしいスピリチュアルパワーである。

 さて、ここからは縁起物と他責思考について記していこうと思う。縁起物のありがたさを感じる一方で、反対に物事が上手くいかなくなった際には「あのアクスタを持ち続けていたから、今度は逆効果だったんだ」という思考に至るだろう。
 上手くいったとき・そうじゃないときの双方において、人間は自分以外の誰かのせいにしたくなるものなんだと思う。そりゃね、全部自分は悪いと考えると精神的に大ダメージを負って潰れてしまうもの。そんな時に責任の肩代わりをしてくれるのが神様という存在だったのだと思う。
 世の中の様々な事象が科学的に説明されるようになると、宗教の存在意義は薄くなったようには思えるが、依然として人々は何かしらの責任を肩代わりする神様に代わる存在を探している。インターネットにおいては、やれ「女が悪い」「男が悪い」「政治が悪い」「日本という国が悪い」「社会が悪い」「外国人が悪い」なんて念仏のように唱える人達の多さには驚くばかりだ。
 彼らの主張をのぞいてみると一定数理解できる点はあるが、結局は自分の現状を憂いている理由を他の何かに求める他責的な思考に至っているように思えるのだ。

 筆者の場合は「東條希のアクリルスタンド」という存在が縁起物となり、不思議な力を発揮したのかもしれない。2度と東條希さんや神田明神に足を向けて寝られないし、絶望的だった状況が変わったことには感謝してもしきれない限りだ。同時に周りの人間のサポートにも御礼申し上げます。そして自分自身が転職活動を諦めなかったことに対しても、少しは褒めてやってもいいのかもしれない。

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