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侵入者 

いつもありがとうございます。
今日は人の方の息子と、もしゃもしゃな方の息子のお話。


息子の部屋は酷く散らかっている。

学習机は息子の趣味の作業台として利用され
教科書は床に散乱し、プリントから洋服まで全て床に置いてある。
私は掃除機を持ったまま暫く考え立ち尽くし
そして諦める日々を繰り返していた。
受験生と名乗ることすらおこがましいレベルの汚部屋。
でも、待って。

部屋は心の状態が現れると言う。

それは由々しき事態
そんなに荒んでいるのか
なるほど。 
聞いたって答えるわけがないので
様子を見てみようと暫く泳がせる事にした。

いつも通り疲れたぁと言いながら帰宅。
シャワーを浴びてそのまま就寝。
夕飯時に起きてきて、『今日肉ある?』と重要事項とばかりに毎日聞いてくる。
夕食後に入浴を済ませ
うっすら勉強して友人とオンラインゲーム後にNetflixタイム。

息子、いたって普通でいつも通り。
思春期の揺れや
受験生のそれらしい
葛藤、ストレス、不安、悩み、、、これらを1ミリも感じさせない。
雲の上をスキップしながら笑ってるように呑気な息子。
走馬灯のように思い出されたのは
期末の結果に打ちひしがれる想いを隠し、頑張った点と努力が必要な点を物腰柔らかく話した後、静かに寝室へ行きダメージの回復をする私の姿。

そんなもの知らぬ存ぜぬと言ってられるのはいつまでかな?
私は地獄の受験勉強に誘う決意を固めながら息子に静かに怒りを覚えた。

いや、静かじゃなかったかもしれない。
その想いは言葉に乗った音として息子に届いた。

『本当にいい加減、片付けなさい!』

もう後が無い本気の怒りを猛吹雪のように浴びた息子は静かにゴミ袋を持って片付け始めた。
ゴミ袋を取りに時折キッチンに来る息子。
順調に進んでいるようだ。
掃除機まで持っていった息子
やるじゃない。
お掃除センスがこれまでに無い速さで伸びている。
モップまでかけられたら
お掃除偏差値がさらに上がるけど今回は見逃そう。

2時間ほどかけ、息子の部屋は息を吹き替えした。


これでいいのだ。
勉強する環境が整った。

その後も整った部屋はキープされているが
ある日息子が学校に行っている時間に、息子の部屋からカチャカチャと
フローリングに爪を立てる音が聞こえてきた。
例のうちのわんこだ。

彼は息子の部屋だけ立ち入り禁止。
それを彼も深く理解していて、息子の部屋に入りたい時は遠慮がちにお伺いを立てている。
そんな犬なのになぜと思い
そっと息子の部屋を覗くと
息子の学習机の下に置いてあるゴミ箱をひっくり返し、コソコソとなにかしている所だった。

犬なのに色々鈍感なうちの子。
暫く様子を見ていたけど
私の気配に気が付かないので
何してんの??と声をかけたら

昭和の漫画のような慌てぶり。
床で滑った4本脚が全てバラバラの動きになったせいで
おしりを強打しながらひっくり返り脚で宙を蹴る格好に。
それだけで済まず、慌て過ぎて起き上がれず目をまん丸にしながら
七転八倒している。

BGMを付けるなら
物悲しけな滑稽という演出で
戦場のメリークリスマス。
もしくは
エヴァ的絶望演出をするなら
カノンかシンクロ率100%の時の曲がしっくりきそう。

とにかく
私は昭和のリアクションをする犬に唖然としてただ見ているしかなかった。

まぁまぁな時間もがいた後、スクッと立ち上がった彼と8秒ほど見つめ合い
『ねえ、何してるの?』と訊ねた。
彼は目が泳いでいる。
『ここ入っちゃダメでしょ』と窘めると、出口はひとつなのに右往左往して
動揺をかくしきれない。

彼のドクドクとした心拍が空気を打ち付け、私にも伝わってくる。
慌てふためいている彼は逆に部屋から出られない。

右往左往of右往左往しているうちに落ち着いてきたようで息子の部屋から出て行った。

横目でちらっと私を見た彼の目は
『お言葉ですが、侵入を許すほど油断してるママが悪い。それから今見た事は誰にも言わないでほしいんだなぁ』と言っていた。
実に彼らしい態度だ。

彼はいつだってそうなのだ
パパに叱られた時も急いで私の所へ来て
『パパ、すごく怒ってる!どうしよう!』と、身を隠したので
私が『パパにごめんなさいしておいで』と言った時に
クゥーンと可愛らしく鳴いたらよしよしとしてあげるのに
ウワァァァン!!!
と、意味が分からない逆ギレをされた事もある。
『そんな事言わないで慰めてよ!』
『ママが悪い!』
『僕は何も悪くない!』
『やだ!』
とでも言っているような吠え方だった。

お言葉ですがと私が言いたい。





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