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【おとなりさんちの話】きゅうらぎみんなの食堂『彩り(いろどり)』@唐津市

過疎(かそ)という言葉を聞いたことが1度はあるのではないだろうか。

過疎地域とは、「人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して、低位にある地域」を指します。

過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法第1条

簡単に言うと、人口減少や高齢化が加速して、地域の資源や活力が著しく減ってしまっているということだ。こういった地域では、相対的にこどもの数も少なく、中々自由に集まったり、のんびりできる場所はない。今回は、そんな佐賀県唐津市の中でも、『過疎』地域となっている厳木(きゅうらぎ)町で「おとなりさん」となっている人を紹介する。

横道 亨(よこみち とおる、以下、横道さん)さんは2019年、出身だった東京から奥さんの地元だった佐賀県に移住をしてきた。当初は時間をかけて福岡で仕事をしていたそうだが、もっと地元のためにできることをしたいと、唐津市から委託を受けて「集落支援員」の仕事に転じた(現在は転職)。集落支援員は、自治体職員と連携しながら集落の状況を把握する役割を担う。そういったことから、時には家を訪問して地域の人とコミュニケーションをとったり、話しを聞いたりしていた。そこで感じた課題が「集落からこどもの声が聴こえない」「独居老人が非常に多い」ということだった。横道さんが言うには、月に減少している人口は10人、年間で約120人前後らしい。(全ての要因が高齢者とは限らない)また、2023年度には、2つの小学校が児童数の減少により統合したという。

来る人たちと近況を話す横道さん

一人で家にいたら、元気にしているのかも分からず、話す機会も無いため、そんな人たちとの繋がりをつくろうと考えたのが「地域食堂」という形だった。ちょうど空き家になる古民家を購入し、自身でリノベもしたのだそう。高齢者だけではなく、地域全体の繋がりをつくるために、皆さんの協力を仰いで、こどものいる家庭に声をかけていった。

毎月、地域の人にお知らせをするチラシを作っている

そんな訳で、横道さんが感じた地域の課題をきっかけとして、多様な人が「おとなりさん」になり、手伝ったり、参加したり、一緒に見守ったりと、様々な距離感でこどもたちにかかわっている。「地域の方々がいなければ、運営できないため、皆さんの協力あっての場所なんです」と横道さんも日頃の感謝を話す。

例えば、朝は、長らくこの地域でこどもから高齢の方を見守っている方々が中心となり、近くのコミュニティセンターで食事の準備に取り掛かっていた。地域の状況をよく知っている方々は毎回の場づくりに欠かせない存在であるという。

立ち上げ当初から手伝っている、地域でこどもから高齢の方を見守っている方々

「困りを抱えているこどもや家庭がいるかもしれないけれど、外から見ているだけでは分からないものね。こういう場所が大切よね。」と皆さんも話す。

また、縁があって、この地域を良くしようとしている人も。相島(あいしま)さんは、旦那さんの実家が厳木にあることから、毎回ボランティアとして足を運び、場をつくるにあたって、欠かせない人になっているという。「続けている中で、毎回来てくれる人が出てきたなと感じています。こどもも大人も元気にしているかどうか、話せるこういう機会が重要だな、と思うのよ。」と来る人たちのことを観察しているからならではの感想を教えてくれた。

毎月家族全員でこの場を手伝っている相島さん

他にも、この場でできることをしたい、と手伝いに来ている「おとなりさん」たちもいた。近くにある厳木高校の生徒の皆さんだ。やり始めた当初、横道さんが声をかけて手伝いに来てくれた高校生たちに続き、後輩たちにも引き継がれていったらしい。

手伝う厳木高校の生徒(右)

「将来のことは決まっていないけれど、人と話すことは嫌いじゃないし、友だちに誘われたので来ました!」と元気に教えてくれた。若い活力は、やっぱり地域にとって偉大らしく「心強いね〜」と周りの大人から喜ばれていて、まんざらでも無い笑顔を高校生たちは浮かべる。

来ているこどもたちも大人だと萎縮してしまいがちだが、お兄さんだからこそ、心を開いている様子。すっかり前から知っていたかのような関係性になっていて「肩車して〜!」と大喜びしながら関わっていた。そんな声を聞いていると、こどもたちにとって一緒の目線で遊んでくれて、同じ世界を見てくれる相手は貴重な存在なんだろう。ご飯を食べた後は、まるで親戚の家にいるかのようにはしゃぐ。2階に上がっていって、鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり。

「かくれんぼ」をしてはしゃぐ、こどもたち

階下にいると「ドタバタ」と聞こえてくるくらい大きな音だったのだが、「楽しそうだね」「いいね」と温かい気持ちで見守るのが、地域食堂での大人の在り方だ。もしかすると家では「ダメだよ」「うるさいよ」などと言ってしまうかもしれない。それが、ここだと優しい気持ちになれるような余裕が生まれるのだろう。

親子を見送る横道さん

そんな優しい眼差しは、集う親子にも。いつも近所からやってくる親子は、元々は別の地域にいて、引越しをしてきたという。「こどもがいると、目が離せなくて、ご飯を作ることも本当に大変。1食だけでも、こうやって作ってもらっていることが本当にありがたいと思っています。」と笑顔で教えてくれた。この地域では、こどもを育てる親同士の関わりでさえ薄く「本当はもっと、こどもの育て方とか就学のこととか相談したいのだけれど。」と悩みもあるらしい。そいういう、ちょっと悩んでいることや心細さがある時に、ここは頼っていい場所になっているんだろう。

横道さんは、地域全体のことを自分ごとに考えていて、こどもたちが元気に育っていけることが、この地域そのものの活力を生み出していくと信じている。だから、こどもたちが笑顔でいられるように、周りにいる大人の見守りが必要であると感じているのかもしれない。そんな「おとなりさん」の志が地域を支えているのだ。

山口知事も、応援しに訪れたそうだ

ご飯を食べ終えて、たくさん遊んでホッと一息。机の上にお菓子を広げて、好きなことをして過ごしていたこどもたち。そんな時、「こども食堂さいこ〜だな!」とある子が呟いた。「なんで?」と聞いてみると「だって、やりたいことができるし。お菓子も自由に食べれるし。」と教えてくれた。いつもの日常では、好きなことができなかったり、食べるものを禁止されたりすることが、大人の都合によってあるのかな、なんてふと思うと、こういう場所が、こどもたちにとっていかに大事な存在なのかを感じるのだ。

自由に好きなことをして過ごす、こどもたち

どうかこれからも、こどもたちにとって「おとなりさん」がいる地域であって欲しいと願うばかりです。

厳木地域の皆さん

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きゅうらぎみんなの食堂『彩り』
おとなりさん:横道さん、地域のおとなの皆さん、厳木高校の生徒たち
おとなりさんち:唐津市厳木町厳木1018 →(令和6年10月)から場所が変わり、道の駅や認定こども園なども近いエリアにある古民家に移動する予定
毎月第3日曜日 12:00-14:00
高校生までのこども無料/大人300円

Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/

こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。

編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)

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