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ポルトガルのカメノテとウナギ

カメノテと呼ばれる食べ物をご存知だろうか。貝の一種で、見かけは亀の手首から先を甲羅から切り離した様な形をしており、これが海辺の岩肌にびっしりと張り付いているのを想像すると食欲も失せようというシロモノ。ポルトガルで初めて見た時はぎょっとしたが、日本でも食される海産物だと聞いて二度ビックリ。

 リスボンで住んでいた町では当時日本人はたぶん我々家族(私と妻、高校生の息子)だけで、地元の市場へ行くと店の人たちが面白がって色んなものを勧めてくれる。魚屋で”日本人は魚を生で食べるらしいが、このホバロ(すずき)は今朝取れたてで新鮮だぞ”とか、八百屋では”このカラコイシュ(カタツムリ)は生きがいいから、茹でて食べるととても美味いぞ”なんて話しかけてくれて、片言ながらポルトガル語の会話を楽しんだ。

 そこで見たカメノテが密集した塊に驚いて、その時はとても買って食べようとは思えなかった。しかし、これはポルトガル語でペルセブシュと呼ぶポピュラーな食材で、かの英国人サッカー プレイヤーのベッカムも好物だったとか。現地の同僚に確認するととても美味しいと太鼓判を押す。

 どんな味か興味津々。一度は挑戦したいと近くのレストランへ。大振りの皿にこんもりと盛られて出て来たモノを前に家族で顔を見合わせていると、ウエィターが食べ方を教えてくれる。黒い手首部分と爪のようなところを両手で摘まんで折ると白い身が爪に付いて抜けて来る。それを頬張ると塩味の効いた茹でた帆立のひものような味、美味しくてビールによく合う。

 すっかり気に入り、海鮮レストランへ行くと必ずつまみとして注文するようになった。ある時、家族でむしゃむしゃ食べていると、隣の席の観光客が ”ポルトガルに来てみたら、変な東洋人が妙なモノを食べてる” と怪訝な顔をしてこちらを見ている。にやりと笑って”挑戦してみるか?”と聞いたら、顔をしかめて”No Thanks!"と言われてしまった。

 もう一つ、ポルトガルでは珍しくウナギを食す習慣もある。稚魚を丸ごと唐揚げにしたり、大きいものはぶつ切りにして焼くこともある。ウナギと言えば、”日本人なら蒲焼でしょ❢” と言うわけで、いつもの市場で大物を3匹見付けて来て、私が頭に千枚通し様のピンを刺して固定、妻が腹をナイフで開くという共同作業を敢行した。

 ところが、生きが良すぎていっこうにおとなしくならず、いつまでもうねうね動いている。仕方ないから、全部そのまま冷凍庫へ入れて静かに昇天するのを待つことにした。翌日、取り出してベランダで炭焼きにし、蒲焼のたれも自製して食べたが、肉厚の身が驚くほど美味しかった。

 ただし、一匹だけはいくら焼いても生臭くて食べられなかった。あれはウミヘビだったのではないかと、日本でウナギを食べるたびに話題となっている。色々楽かった経験が懐かしく思い出される、今日この頃である。


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