虚木 善

エッセイと小説を好きに書くよ/小説「K地区にて」......とある配達員の体験談。微ホ…

虚木 善

エッセイと小説を好きに書くよ/小説「K地区にて」......とある配達員の体験談。微ホラー

最近の記事

【短編小説】K地区にて⑥|修羅場

 長い間この仕事をしていると、いろいろな場面に出くわす。  印象に残っているものだと、【トイレにはまって身動きが取れなくなった人に助けを求められたこと】や【ヤクザの仕事納め?にでくわす】なんてことも経験した。すべて配達中の話だ。  今回も印象に残る体験になった。 ***  人も車も見当たらない静まり返った平日の午前中、叫び声が聞こえている。  女の絶叫が。  声にならない声で何かを言っている。  まさか何かの事件じゃないよな?と思い、俺はバイクを止めてあたりを見渡した。叫

    • 異動

       この春、会社で異動になった。  自分で希望したこととはいえ、かなり緊張していた。  理由は二つ。  まず一つ目は、異動先の営業所の前評判があまりにも悪かったこと。  二つ目の理由は、人生初の異動に対する不安。人間、わからないことは怖いもの。  そして初めての異動から二日経ち、頭をめぐっている言葉がある。  「なんもわからん」  なんもだ。  全部わからん。  名付けるなら、【やる気はあるけどなんもわからんから、なんもできん】状態である。  どこか懐かしいこの感覚。

      • 『剥かせて!竜ケ崎さん』の、かわいい二人

         あなたが恋愛漫画を読んでいて、「これはいい恋愛漫画だな!」と感じる部分はどこですか?シチュエーション、キャラクター、ストーリー、絵の可愛さ、いろいろありますが、僕がこのジャンルで重要だと思うのは、ただ一点です。  「恋をしている女性(または男性)の姿がかわいいかどうか」この一点です。  読み手はきっと、恋の成就よりも、恋をしている側のリアクションを楽しんでいると思う。少なくても僕はそうです。 そこで、この漫画を紹介したい。 『剥かせて!竜ケ崎さん』という、一智和智先生作の

        • 睡魔に勝てない

           仕事が終わって帰宅し、晩御飯をいただき、お風呂を済ませ、子供たちが寝てからパソコンの前に座る。僕の日常はだいたいこのパターンです。  ちょっと訂正。パソコンの前に座る前に読書かゲームをする。  ここでだいたい睡魔に襲われて、ソファーで寝てしまうか、本を開いたままうつぶせに突っ伏して転がっている。ここが鬼門なのよ。  ていうか仕事の疲れって、六時間程度の睡眠じゃ取れなくない?もっと睡眠をとれば良いじゃんっていう意見は最もですが、そんなことしてたら仕事のためだけに生きてるみた

        【短編小説】K地区にて⑥|修羅場

          ショートショート|魔法廃止

          『若者の魔法離れ』  最近よく目にする言葉だ。いつからだろうか、若者たちの生活には魔法はあまり必要ないみたいだ。国家魔法士として生計を立てている私にとっては耳が痛い話である。  さらにここ数年、あきらかに仕事が減ってきているのを実感している。  理由はいろいろあるが、第一に『科学』人気がすごいのだ。歴史的には、古代から人類に親しまれてきたのは『魔法』で、『科学』が後を追うように発展してきた。常に『魔法』は『科学』の先を行ってきた。  しかし、近年はこの序列が完全に逆転して

          ショートショート|魔法廃止

          本屋さんでテンションが上がっちまう

           どデカい本屋ってテンション上がるよね。 いや、小さい本屋でも地元の通い慣れたTSUTAYAでもテンション上がるには上がるんだけどね。あの圧倒的物量が良いんだよね。どデカ本屋は。単純に良書に巡り逢える確率が上がるし。  一番のテンション上がりポイントは、店内のビジュアルだと思う。背の高い本棚がずらっと並ぶさまは壮観で、本に囲まれるのが好きな僕にとっては、どデカ本屋はテーマパークそのものなんです。  先日行った丸善仙台アエル店はかなり良かった。平日にもかかわらず、店内の本好き

          本屋さんでテンションが上がっちまう

          【短編小説】K地区にて⑤|ステゴアリマス

          尋常ではない子供の泣き声に、配達の手が止まった。 午前中、まばらに建っている借家を配達していた俺は、すぐに声のほうに目をやった。 まだ幼稚園にも入っていないような幼児が、古いアパートの錆びてボロボロになった手すりの下で、涙をぼろぼろと流しながら大声で泣いていた。 見たところ男の子のようで、最初は変わった服を着ているのかと思ったが、首から何かをぶら下げているらしかった。 あまりジロジロ見るのもどうかとも思ったが、バイクの後方にある荷台から大型の配達物を取り出すふりをして、

          【短編小説】K地区にて⑤|ステゴアリマス

          【短編小説】K地区にて④|交差点

          その交差点はありきたりで、どこにでもある交差点だ。 俺が通ることはもう二度とないだろうが。 田んぼに囲まれた大規模農道をつなぐ見通しのいい十字路交差点は、正規の配達コースではなかったが、近道としてたまに俺も通っていた。 交通量は少なめで走りやすいし、夏は風がとても気持ちよかった。 信号待ちをしていると、よくカエルやカマキリなんかがぺしゃんこに潰れていた。 この仕事は一分のロスでも惜しい。ショートカットできる便利なこの道を通る回数は段々と増えていった。 信号待ちをしていると

          【短編小説】K地区にて④|交差点

          【短編小説】K地区にて③|『あれ』

          最悪の日だった。 午前の配達では『あれ』の存在は全然気にならなかった。いつも通りのK地区だった。 会社で昼休憩をとって、三時過ぎに再びK地区へ向かった。 一軒目の配達から、異変に気づいた。 『あれ』が大量発生していた。 俺はおぞましい光景を見てすぐにマスクをし、ヘルメットのシールドを下ろした。 油断していると、『あれ』は目の中や口の中に入ってくる。それだけは石にかじりついてでも避けたかった。 バイクに乗りアクセルを回すと、およそ数十の『あれ』が次々とシールドにぶつかる。

          【短編小説】K地区にて③|『あれ』

          【短編小説】K地区にて②|アレルギー

          アレルギー 秋になって、K地区でしか見かけない黄色い花を見ると、Sさんのことを思い出す。 Sさんは、俺が異動でこの班に配属になったときにK地区の担当だった。 班内では年長者で、年齢もあり仕事が速いわけではなかったが、いつも穏やかでやさしい人だった。 ある時スギ花粉に苦しんで目薬をさしている俺を見て、「おいは(俺は)、生まれてこのかた花粉症になったこと無いんだよ。おっきな病気をしたことも無いんだぁ」なんて笑顔で話してた。 秋になり、Sさんが配達帰りに黄色い花を持ち帰って

          【短編小説】K地区にて②|アレルギー

          【短編小説】K地区にて①|蜘蛛の巣

          蜘蛛の巣この仕事は体力的にも精神的にもキツいから、あの日もかなり疲れていたんだと思う。 だからあの日見たモノは気のせいだと思っている。 家族に話そうとも思ったが、馬鹿らしくなってやめた。どうせ信じてくれないから。 とはいえ、もやもやした気持ちを持ったままなのも嫌だし、ここに吐き出すことにした。 バイクを使った配達の仕事をしているんだが、その日はいつも通り田舎の地区の担当だった。住宅地もあるにはあるが、田んぼと畑だらけでやたらと距離を走る地区だ。 しかも町場と違って郵便受

          【短編小説】K地区にて①|蜘蛛の巣

          『P3R』発売のニュースのおかげで『P5R』が楽しい話

          『ペルソナ3』がリメイクされる。 このニュースをXで知ったとき、僕がするべき行動は脳内の風香によってナビゲーションされた。 「未プレイの『ペルソナ5』を直ちに始め、来たるべきP3Rに備えましょう!」 風香とはP3のナビをしてくれる癒しの女性である。 僕は脳内風香の指示に従い、メルカリで未使用のP5Rを探した。 数日待ってもなかなか納得のいくものが見つからず、いいねのハートを押した分の労力が無駄になっただけだった。結局、近所のGEOで新品を買うことにした。 別にP3Rを

          『P3R』発売のニュースのおかげで『P5R』が楽しい話