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中華の日々⑦ 北京ダック鍋の日々

中国に渡る前、【昔からごちそうとして知っているが、食べたことがないもの】として私にはもはや信仰に近い北京ダックへの思い入れがあった。激烈な低収入とはいえ、べつに食べようとすれば食べられたはずだが、「よし、明日こそ食べに行こう。店も調べたし」⇒「・・・面倒くさいからいいか」を繰り返し、だから口にしたことがなく、口にしたことがないからこそ【いつか食べたい北京ダック】となっていったのだった。

その北京ダック、中国の方々から「そんな特別なものじゃないですよ。私は週に数回食べています」などと言われてはいた。が、その言葉に納得したのはこちらに渡ってきてからだった。いや、もっといえば毎日のようにウォルマートに通うようになってからだった。

私の通う、ハイネケンやカールスバーグ、それに洋酒が置いてある以外はなにがウォルなのかわからない現地感丸出しのマート。私はそういうのが大好きなわけだが、それはともかく、そのウォルマートの総菜コーナーで、北京ダックは骨付きのブツ切りのパック詰めで【鶏の唐揚げ】なみの扱いと値段で売られていたのだった。

トースターがあればまた違ったのかもしれないが、パックから直に食べたダックの皮はベロベロだった。(これは北京ダックなのだろうか…いや、まあ北京ダックなのだろう。ダックなのは確かだし)などと愚にもつかないことを考えながら、私はそいつを黙々と食べた。なんだかんだいって美味かった。しかし、例の「なんか知らんが薄い包み皮やネギなどの薬味」なしに食したそれは、どちらかというとコールドチキン(ダックだが)の趣だった。コールドチキンについても、『ポーの一族』からあこがれがあったのだが、【ただのローストチキンの冷めたやつ】だったわけで、そういう意味でも北京ダックと同じく(え、これが、あの…?)という感じではあった。

(やっぱり、店で食べよう)と思いつつも、やはり面倒くさがりの私は、気が付けばウォルマートで毎日のように北京ダックを買うようになっていた。なんだかんだ美味いし、タンパク質不足解消にはもってこい、さらに夜の7時以降は値引きがされて安く(200~350円ぐらい)で買えることもある――ありがたい食べ物だ。

さらに気が付けば、私は北京ダック鍋をほぼ毎日食べるようになっていた。鍋に北京ダックをぶち込んで、醤油を入れて煮込めばOK。あとは白菜、モヤシ、それにニラを加えて食べる。これが美味い。鴨鍋の範疇のはずだが、骨付きダックの食感は時にフグやカエルのようでもあり、それが最高に私の好みだ。飽きるまで食べ続けようとしているのだが、まだ飽きない。ビールにもよく合う。スープも残さず飲む。健康的な病人になりそうな食生活だ。


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