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ただ、ファンタジーを紡ぐ。

私は刺青を入れた。
ふとしたことをきっかけに入れることにした。
左腕、上腕二頭筋の辺りに小さく「Forever」という刺青を入れようと決めたのだ。
知人に紹介された店に行き、オーダーした。
施術が始まった。
思っていたより痛くはないと感じた。
そんな矢先、彫り師が私のオーダーを無視して、どんどんと腕全体に
漫画ONE PIECEの海賊船サウザンドサニー号を
デカデカと彫り込んでいった。
満足気な彫り師を横目に私は激しく絶望した。


という夢を見た。

今朝、強い倦怠感を覚えながら起床した。
左腕に何も彫り込まれていないことを確認して安心した。

さてこの話は、嘘か。
私は刺青を入れていない。夢の内容は事実と異なる。
しかし、夢を見たことは事実だ。
つまり私は嘘をついていない。
ただ真実を告げている。




さて、「嘘つき」という人種がいる。


自分の失態を誤魔化したい。
自分をより良く見せたい。
他人を欺いて利益を得たい。
都合よく物事を運びたい。
そんな気持ちからだろうか、彼らはよく嘘をつく。

嘘をつく頻度や、程度は人によるが
「嘘つき」には本当に手を焼く。

信用に値しないし、時間や思いの無駄につながる。
さらに、彼らを責め立てる手段はなく、
「裏切られた」と泣き寝入りをする他ない。

人間は不必要に嘘をつくべきではないし、誠実に生きることが理想だろう。
「嘘つき」は批判の対象であるべきだ。
裁きや報いを受ける日が来ることを強く望む。

しかし、
「嘘」と「真実」の線引きは簡単だが、
「嘘」と「嘘をついていない」の区別は実は難しい。
真実ではないものを全て「嘘」と断定して、
人を「嘘つき」として非難してしまっている人がいる。
相当数の「非・嘘つき」が、「嘘つき」と誤った認定をされて差別を受けている。
そんなことはあってはならないと、私は考える。

複雑多様化した昨今の社会において、その区別や理解はかなり難しくなってきている。
多くの人が「嘘」と断定してしまっている事象について、解説していこうと思う。

誤解による不要な差別が少しでも減ることを説に願い、
本著を記すことにする。






待ち合わせの時刻になった。友人はまだ来ない。
私「あとどれくらいで着く?」
友「言うてる間に着きます。」
20分待たされた。
私は言うてる間に着いていなくないか?と思った。

これは嘘か。
嘘ではない。
「言うてる間に」が定義されていないからだ。
私にとってのそれは、0分〜5分程度で到着をするものだが、
彼にとっては20分は「言うてる間」なのかもしれない。
極めて誠実に到着時間を申告している。



行きつけのシーシャバーがある。
数人で食事をし、お酒を飲み、シーシャを吸って
何時間か過ごすとお会計は数千円〜1万円程度だ。
まぁよくあるシーシャバー。

ある夜、そのお店の開店10数周年記念イベントが行われていた。
私は友人と4人で飲みに行った。
かなり派手に飲んだ。
会計は「9万円」だった。

後日その話をその夜一緒にいた友人がしていた。
「こないだの飲み会はハメを外しすぎて、いくら酒の強い俺でも流石に酔ったな。会計は12万だった。」

これは嘘か。
いや、嘘ではない。
「盛っている」だけだ。
9万円では面白みに欠けると判断し、誇張して伝えただけだ。
確かに12万円の方が派手に遊んだ感じが出る。
彼は嘘をついていない。盛っただけだ。





友人が車で迎えにきた。
車を持っていたのかと聞くと
「学生の頃、自分で新車を買いました。」
彼はそう言う。
しかし後日彼の母親が
「あんた、車のお金だって1円も払っていないじゃない。私が全部立て替えたままじゃないの」
と本人に言っているのを耳にした。

さてこれは嘘か。
当然、嘘ではない。
事実を全て話しきっていないだけだ。

全額自分で支払い、新車を購入した。
などとは言っていない。
まだ1円も払っていないだけだ。
今この瞬間にでも数百万円を口座に振り込めば、
紛れもなく自分で買ったことになる。
彼は嘘をついていない。

後日、女の子に
「1番でかい買い物は車やな。学生の頃新車で買った。」
と話して聞かせているところを見た。
問題ない。
嘘ではない。



定義が曖昧なだけ。
盛っただけ。
真実を全ては話していないだけ。

彼らはきっと「嘘つき」と誤解をされてしまうのだろう。
冤罪だ。
よくよく読み解くと彼らは嘘をついていない。
誤って批判してはいけない。

彼らの思惑を、狙いを、あるいはその野望を、
私達は理解しなくてはいけない。


私であれば、
「あと20分くらいかかっちゃいます。」
「飲み会が9万円もしちゃってさ」
「学生の頃親に立て替えてもらって買いました」
と告げる。

しかし、彼らはそうしない。
なぜか。





彼らはファンタジーを描いているのだ。





20分?おい遅いな。。遅刻するなよ。。
を、
お!そろそろ来るのか!
今日は○○に行くから楽しみだな!
に、描き変える。


9万円もしたのか!笑
を、
マジか!!12万か!!とんでもねえな!!!笑
何があったんだよ!!!笑笑
に、描き変える。


そうなんだ。
を、
え!学生でこの車を新車で!すごいな!
に、描き変える。


彼らは、私たちにワクワクを届けている。
日常の普遍的事象に
驚きを、興奮を、確かな非日常を、ふんだんに乗せる。
退屈な毎日を、壮大なファンタジー作品として世に送り出す。
無限の可能性。
スペクタクル超大作。

彼らはファンタジーを描いているのだ。



そもそもその予定に行く気がないのに、着くと言っている。
行われていない飲み会を捏造して伝える。
ただ親の車に乗っている。
ならば、全て嘘だ。

彼らはそんなことはしていない。

ただ、届けたいのだ。感動を。

聞こえてくるだろう。荘厳な音楽が。
見えるだろう。幻想的な風景が。
感じるだろう。予定調和の崩壊を。



無償の奉仕。
見返りを求めてなどいない、純粋な願い。
日常に抗い、退屈に一矢報いようとする、崇高な魂。
彼らは嘘つきではない。


巨大な鮫が人を襲い、
杖からは魔法が飛び出て、箒に跨って空を飛ぶ。
引き出しは過去に、未来に、繋がっていて、ポケットからはなんだって出てくる。
遠い昔、遥か彼方の銀河系では闘いがあったし、
大富豪は機械の全身スーツを開発して戦う。

そんな様に私たちは目を輝かせるのだ。
そんな世界を嘘だと揶揄するものがいるだろうか。




彼らはただ、
12万の飲み会をして、
自分で買った車で、
言うてる間に到着するのだ。

壮大だ。

彼らは嘘なんてついていないのだ。












友人に「純金です」と渡されたネックレスが、
使っていたらだんだんと銀色になった。

嘘じゃない。

嘘じゃ、、ない。。。



明日も生きる。



May the Force be with you.

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