食糧とエネルギーは直結している

日本の食料安全保障といえば、カロリーベースの食料自給率がよく問題視される。40%を切り、危険である、と。
それを問題視しないわけではないが、8月に発刊した新著では、日本のカロリーベース自給率には一切触れなかった。私独自の指標である「エネルギーベース食料自給率」が低すぎるからだ。

化学肥料を大量に使用していた1970年代、コメ1キロカロリー生産するのに2.6キロカロリーの石油を消費していた。現代は改善されて1.8キロカロリーで済んでいるが、それでもコメの1.8倍ものエネルギーを消費している。

食料全体で見ると、収穫物として51兆9000キロカロリーが得られるけど、それを得るために消費されているエネルギーは145兆キロカロリー。収穫の2.79倍もエネルギーを消費している。もしエネルギーベース食料自給率を計算したとしたら、マイナス179%になる。エネルギー的に大赤字。

農業は、お日様の光で光合成するから、無から有を作ることができる、エネルギー的に純粋に黒字の産業と思われている。しかし実際には、生み出すエネルギーの2.79倍ものエネルギーを消耗する、消耗産業。
農業がGDPの1.4%だったとき、使用してるエネルギーは全産業の7%。他産業の5倍もエネルギー浪費。

農業は実は、工業やサービス業以上に石油などの化石燃料に依存している。もし石油が途絶してしまうと、カロリーベース自給率なんて吹き飛んで、国内での食料生産はままならなくなる。エネルギー危機はそのまま食料危機に直結しかねない。

また、世界的に穀物が安かったのは、石油や天然ガスなどの化石燃料が安かったから。アメリカのような穀物輸出国は大量の化学肥料を投入することで昔の10倍もの収穫が得られるようになった。しかしエネルギーも肥料も、ウクライナ侵攻をきっかけに得られにくくなっている。

石油が手に入りづらくなり、化学肥料が入手困難になってきたら、果たして欧米は穀物を輸出できるのか?ロシアやウクライナからは、来年以降、欧米や日本に食料を輸出することを期待しにくい。肥料も。すると、欧米も食料増産がうまくいかなくなり、安価な穀物が終わりを迎える恐れもある。

バーツラフ・スミルによると、化学肥料を一切使用しない場合、地球が養える人口は30〜40億人と見ている。現在の世界人口78億人の半分。この化学肥料が手に入らないと、地球に住む人口を養いきれない恐れがある。

化学肥料は大量のエネルギーを利用して製造されている。特に窒素肥料は、ハーバー・ボッシュ法という古い技術で生産されている。もし石油など化石燃料が高価になれば、化学肥料は一緒に高くなる。そうすると、化学肥料をバンバン使って食料を大量生産、というやり方は維持不可能となりかねない。

化石燃料のうち、石油は特にトラクターやトラックといった動力を動かすのに必要なエネルギー。乗用車は電気自動車は実用段階のようだが、トラクターやトラックのような大きい機械はバッテリーが持たず、電化にやや難がある。石油が高騰すると、農業はかなりのダメージを食らう。

エネルギー消耗型産業から、エネルギー生産型農業にシフトしなければならないが、今のところ、そっちに向かう改革は進められていない。石油が高騰を続ける中、エネルギーシフトをよほどうまくやらないと、国内食料生産は思うようにならないだろう。

ちなみに、人間の労働力を換算すると、石油0.086〜0.26リットル程度。人間の労働力がいかに小さく、機械力がいかにパワフルかがわかる。
戦後まもなくだと国民の約半数が農村に住んでいたが、今や152万人、国民のわずか1.2%。農業機械がなければ、今の日本の耕地面積の5%足らずを耕せればよいほう。

エネルギー危機はそのまま食料危機になりかねない構造になっていることを、よくよく考える必要がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?