奇妙な経歴

2001年入省の官僚の間では、私はちょっとした有名人だった。新人研修のとき、事務次官だろうが誰だろうがズバズバ質問するので、「どうせ篠原が質問するんだから最初からマイク渡しとけ」と言われるほど。当時の新聞で「今年の新人はえらくやる気がある」と評されていたのは、たぶん私のせい。

そんな私を蛇蝎の如く嫌う同期と、面白がる同期とにスパンと分かれた。そりゃまあ、これから出世したいと思う人間は、私と親しいなんて思われたら迷惑だと思ったに違いない。けれど不思議なことに、私に触発されてズバズバ質問するのもいたりして、必ずしも一色ではなかった。

金融庁の課長が私の参加してるグループで懇談。「何兆円ものお金を動かしてる、この国を動かしてるんだという快感」の話、税務署に行ったらいきなり署長で、トップとして君臨する快感とかの話。
で、私に触発された同期が「あなたのポリシーは?」と質問したら、その課長、ドギマギして

「いや、特に」
そしたら「国の仕事を預かる以上、ポリシーは重要だと思いますが?」と畳み掛けられて、その課長、鼻白んでた。「オレはこの国のエリートだ」と安易に構えていたら、後輩たちから思わぬ突き上げ食らってビックリしていた。

農水省の研修の際、事務次官が話をした。「陳情はなるべく聞くといいですよ」という内容。そこで私が質問。
「阪神大震災では、東灘区だけで170箇所も避難所がありました。中には一人しかボランティアがおらず、食事を老人ホームの皆さんに運ぶだけで疲労困憊し、陳情もできない避難所も。

陳情する方は、それだけの力と大きな声を出せる人なのだと思います。しかし声を届けることさえできない人が全国にはいます。そうした声なき声に耳を傾けるにはどうしたらよいでしょうか?」と質問した。
すると事務次官、「阪神大震災といえば」と、農水省の活躍した話を延々と始めた。

しばらく静かに待っていたのだが、一向に質問に答えてくれなさそうなので「あのう、そう言うことを聞いてるのではないのですが」と言うと、事務次官、ムッとした顔して話を切り上げてしまった。
その後の懇親会で「ご愁傷さま!あんなこと言ったらどこに飛ばされるかわからんよ!」との声複数。

ところが一人、かなり地位の上の人がわざわざ私のところに来て名刺を渡してくれ、「何か提案したいことがあれば私に連絡寄越しなさい」と言ってくれた。気骨のある人もいるものだなあ、と思った。
私は、もともと左遷されてるも同然な配属先だったから、事務次官に歯向かったからかどうかわからない。

ちなみに、その事務次官は後に、息子を殺害することで大変な話題になった。
その翌年、若手官僚を中心にネットワークを作ろう、という話が来て、参加。それはやがて、民間の人も参加したCrossover21として発足。私は官僚じゃなかったけどそれにガンガン提言。

当時、産業空洞化が加速していて、私の出身の隣町で急激に工場がなくなり、マンションなどになっていることを報告した。するとある官僚が、オーストリアの帰国子女であると名乗れば平伏するだろうと思ったのかそう名乗った上で、週刊誌にでも乗ってそうな話をして私を黙らせようとした。

私は名乗りを真似して「工場だらけの東大阪市の隣の出身です」と書き出し、オーストリアと現場の東大阪市の何の関係があるの?と書いた。
そしたらそれを甚だしい侮辱だと思ったのか激昂、篠原をやめさせないならかなりの官僚が退会すると息巻いた。

私はアホらしくなり、「すみませんでした。退会させてもらいます」とメールを打った。そしたらすかさず電話が入り、「篠原さん、やめないでください!」と言われた。相手を説得するからちょっと待っててください、と。私は意見を述べただけで、別に侮辱したわけじゃないんだし、と言ってくれた。

で、幹部が説得したけど、結局50人もの官僚が私のせいでやめてしまったらしい。やめた中には現役国会議員も含まれていて、その人は私のことをボロクソに言っていたらしい。そう言えば、私と目を合わせようとしなかったな、あの人。
主宰者も一時、頭を抱えたと言っていた。ごめんね。

Crossover21には官僚だけでなく、政治家やその秘書も参加していて、「篠原さんの投稿を読ませてもらってます」と挨拶されることしばしば。自民党シンクタンクの代表(当時)ともその時に知り合いになった。

私は官僚のことも時々ボロクソに言うので、代表が「篠原さんは官僚を応援したいんですか?それとも攻撃したいんですか?」と聞いてきた。私は「頑張ってる人間を応援したい。官僚とか関係ない」と答えたら、何故か「国士」と呼ばれた。そんなつもりはないけど。

第一次安倍政権のときに、ある提言をしたところ、自民党系シンクタンクの代表から「ぜひ会いたい、議員からもお礼を言うように言われている」の連絡があったので会うことにした。その時、政府の内情をいろいろ教えてもらうことができた。

第二次安倍政権の時は、官僚を辞める人間続出。辞めた一人から、「忖度が本当にひどかった」とグチを聞かされた。気に入らない人間は飛ばされるし、それでも腹をくくつて諫言してもやはり飛ばされるだけで、まともな意見を言う人間がいなくなってしまったと嘆いていた。

私はズバズバ言うので、私と仲良くしてるというと迷惑かけかねないから言わないけど、そんなこんなで不思議なルートがあり、それをもとに書いてるんだけど、ツイッターではウソだと言ってくる人がいて不思議。

追伸。
農水省から講演依頼が来た。「部下育成について講義してほしい」
え?研究じゃなくて?

どうやら私の最初に書いた本「自分の頭で考えて動く部下の育て方」をもとに、上司向け研修の最初の講演者として、私に白羽の矢が立ったらしい。私の次の講義が、駅伝の原晋監督。どう考えても順番が変。

職場では上司が大騒ぎ。研究以外で親方の農水省で講演するなんて前代未聞。講演用プレゼンの事前チェックと、余計なこと喋らないか職員の同行(監視)も加えることで許可が出た。
講義が始まる際、聴講者リストを見てびっくり。局長クラスまで参加してるやん!

講演後、私に応対してくれた官僚の方が「農水省で講演したこと、宣伝してもらって構いませんよ」と意味深な言葉。
これは多分、私が本を出したり積極的に発言してるのを、上の組織である農水省が、それとなくお墨付きを与える格好にしておこう、という配慮なのだと感じた。気骨ある官僚がいる様子。

大っぴらには応援できない、でも味方はいるよ、ということを私に伝えるとともに、それをなんとなく公にする配慮も働いていたのだろう。大人の対応だな、と思う。

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