「醸造アルコール」考

「醸造アルコール」考。
あくまで私個人の感じ方でしかないのだけれど、日本酒で醸造アルコール入りだと、味は美味しいのだけれど胃に届いた時に「どすん」が来て、「あ、これは頭痛くなるやつ、すぐ吐き気が来るやつ」ってわかる。お猪口一杯でやめておかないと、後で大変なことになる。

そんな体質になってしまったのには、理由が二つあるように思う。一つは酒に弱いこと。普段、お酒を楽しむにしてもお猪口一杯だけにしている。純米だと4,5杯はいけるだろうけど、味を楽しむにはお猪口1,2杯で十分。コップでグビリなんて、したくてもできやしない。

もう一つの理由は、そんな酒に弱い人間が大学の新入生歓迎会でコップ1杯の日本酒を一気飲みさせられたこと。ゲーゲー吐いて頭グラングラン。そのときに醸造アルコールの何かに反応してしまったのかもしれない。以来、醸造アルコール入りを飲むと「どすん」が来るように。

興味深いことに、私は焼酎も苦手な方。醸造アルコール入りの日本酒と同じような反応をし、頭がすぐ痛くなる。悪酔いする。もしかしたら、焼酎と醸造アルコールのどちらにも共通する「蒸留」の過程で、私の苦手な何らかの成分が含まれるようになるのかもしれない。

醸造アルコールを製造しているメーカーの方からは「醸造アルコール入りで悪酔いするはずがない、だってほぼ純粋なエタノールですよ?」と言われた。私もその通りだと思う。でもなぜか私はかなりの確率で醸造アルコール入りを飲むと悪酔いする。焼酎も。「蒸留」に何かカギがあるのかも。

ただし同じ蒸留酒でも、(ちょっと質のいい)ブランデーならそこまで悪酔いしない(なんちゃってブランデーは悪酔いする)。どうやら、何年か寝かすようなステップが挟まると、蒸留酒でもそうそう悪酔いせずに済むらしい。樽で寝かしている間に、木材が原因物質を吸着するのかもしれない。

久保田の「千寿」は味が好みなのだけれど、醸造アルコール入りのため頭が痛くなり、悪酔いしやすい。でも一度、それが起きないのがあった。1年ほど部屋の隅でほったらかしにしていたという。「寝かす」と、醸造アルコール入りでも悪酔いしなくなるようす。

悪酔いの原因として、二つくらい考えている。一つは、エタノール分子が水分子のクラスターとなじんでいるかどうか、ということ。水分子はクラスターを形成しているという話があり、醸造アルコールを混ぜた場合、このクラスターとうまくなじめていないのではないか、という説。

この説だと、1年以上寝かした醸造アルコール入りの日本酒や、寝かすのが前提のブランデーで悪酔いせずに済む理由がわかる気がする。長く寝かせている間にエタノール分子が水分子のクラスターとなじんで、悪酔いしにくい形態になるのかも。知らんけど。

もう一つの仮説は、醸造アルコールや焼酎などを作る過程である「蒸留」で、私を悪酔いさせる成分が含まれやすい「何か」が含まれることになるのかも。蒸留する部品が金属でできているのだとしたら、金属イオンがわずかに溶けるのかもしれない。知らんけど。

そこはおいしいお酒が自慢の店だったのだけれど、本醸造(醸造アルコール入り)ばかりだった。純米が欲しいと伝えたら、次のように諭された。「醸造アルコール入れるとダメというのは気のせい。純粋なエタノールなのだから。何かの本の知識を仕入れてそんな気がしているだけ」と、気のせいにされた。

しかし、私は「美味しんぼ」とかいう漫画はほとんど読んでいないし、本の知識から得たのではなく、なぜ悪酔いするのとそうでないのとがあるのか?を観察してきた結果、気づいたものなので、気のせいと思えなかった。本醸造は、口は美味しいと訴えるのだけど、胃が「やめとけ」という。

私が思うに、醸造アルコール入りでも平気な人は、焼酎も平気なのでは?という仮説が成り立つのかな、という気がしている。そうした人がうらやましい。焼酎も本醸造も楽しめるのだから。いろんなお酒を楽しめる体質。これは幸せなこと。でも私はどうやら、寝かしていない醸造アルコールが無理みたい。

今回、私が日本酒嫌いになった経緯、そして日本酒のおいしさに目覚めた経緯をツイッターで紹介したところ、「私も醸造アルコール入りが苦手」という人たちが多数いることが分かった。私と同じ体質、同じ体験をしている人が少なくないらしい。そしてその体質が災いして、いったんは日本酒嫌いに。

「寝かしていない醸造アルコール」が平気な体質の人は、本醸造や焼酎などを自分がおいしく飲めるものだから、ついついそれらを勧めるのかもしれない。そしてこうした人は大概、グビグビいける人。お猪口にほんのちょっとじゃなくてコップについで「飲め」とやりがちなのかも。

でも「寝かしていない醸造アルコール」が苦手な人が最初に出会ったお酒がそれだと、悪酔いする。頭が痛くなり、ゲーゲー吐く。それが醸造アルコール入りの日本酒だったりすると「日本酒は二度と飲まない」になってしまう。日本酒嫌いを名乗る人の少なからずが、この体質なのでは?という気がしている。

吉田兼好「徒然草」には、「健康優良児とは付き合いづらい」という話が出てくる。病気一つしたことがない健康優良児は、病人への同情がなく、押しつけがましいから苦手、みたいな内容。もしかしたら醸造アルコールが平気な人は、これに近い面があるのかも。自分が平気だから苦手な人がわからない。

そう考えると、たとえ自分は醸造アルコール入りが平気であっても、初めて日本酒を飲むという人に対しては、純米を勧めるのが無難な気がする。これなら、アルコールがまるでダメという人を除けば、体質に関わらず、日本酒ファンを獲得することに成功する気がする。

日本酒好きになってしばらくすれば、醸造アルコール入りでも平気な体質の人は、物足りなくなって本醸造や焼酎にも幅を広げていくように思う。醸造アルコールや焼酎が苦手な人は、何度か試してみて自分の体質に気がつく。でも、純米の日本酒なら飲める、という点は失わずに済むだろう。

醸造アルコールや焼酎が平気な人が、無理に醸造アルコール入りを勧めることで、日本酒から遠ざけてしまう原因になっていることが少なくない気がする。醸造アルコールがどうもダメな人がいることを「知識」でいいから頭に入れておいて、特に初心者には無理に勧めない配慮をしていただきたい。

「百姓貴族」の著者の夫は、牛乳がダメな体質で、飲むとお腹がゴロゴロいいだして下痢をしてしまうのだという。ところが著者の実家の牛乳を飲んでみると、全然下痢せずに済んだ。牛乳がすべてダメなわけじゃない、と気がつき、それからは牛乳を飲むようになったという。

でも、普通の牛乳だとお腹を壊す、というのはそう簡単に変わらないだろう。こうした人に普通の牛乳を勧めるのは酷。そうした配慮を欠けば、「牛乳は嫌い」と拒絶されても仕方ないだろう。

純米のおいしい日本酒は体質によらず、虜にする力があるように思う。まずは入り口だけ、そうしたところから入って、日本酒好きを増やすことがとても大切なように思う。
醸造アルコールが平気な人!無理に勧めないで!どうぜ平気な人はそっちに行くから!待ってて!苦手な人に無理強いしないで!

念のため付言。私は純米原理主義ではない。焼酎が平気な人は、たぶん醸造アルコール入りでも平気。醸造アルコール入りでも、おいしくて有名な本醸造もあるから、楽しめる人は大いに楽しんでほしい。ただ、悲しいかな、醸造アルコール入りを楽しめない体質の人もいることは分かってほしい。

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