化石エネルギーと食糧

全国の農業研究者が参加するメーリングリストに質問したことがある。「食糧をたくさん作るという意味で、江戸時代より進んだ技術が何かありますか?ただし石油に頼らないという前提で。」
議論がしばらく続いた結果、「ない」という話に落ち着いた。大量の食糧を作るこを可能にした現代農業の技術のほとんどは、石油などの化石エネルギーに頼っている。

化学肥料も、化学農薬も、トラクターなどの動力も、石油などの化石エネルギーに依存している。現代農業の技術のほとんどは、化石エネルギーで成り立っている。化石エネルギーがもし思うように手に入らなかったり、高すぎて手が出ないようになったら、これらの技術も利用が難しくなる。

カナダの研究者、バーツラフ・スミルは、化学肥料にいっさい頼らない場合、どのくらいの人口を養えるのか試算した。30~40億人。現在の世界人口は77億人。半分しか養えないことになる。
現代の有機農業は、化学肥料が作り出した余剰の有機物のおかげで有機肥料が手に入る面がある。もし石油がないと。

有機肥料が手に入りにくくなる恐れがある。例えば日本では、肥料として使い切れないほどの畜産廃棄物が出る。しかしもとはと言えば、アメリカから輸入したトウモロコシをエサにするから。そのトウモロコシは化学肥料で育てられたもの。化学肥料なしにこれだけ安いエサを作れるかというと、難しい。

世界のエネルギー動向を調査する国際エネルギー機関IEAは、もはや石油に投資しなくてよい、と昨年レポートした。ここは昔から、石油バンバン使え、まだたくさんあるからみたいなことを言ってたと記憶するが、それまでの主張を逆転させるようなことを言うようになった。

これは、世界中で本格的に石油が採れにくくなってきたことを示唆するもののように思う。サウジアラビアは世界でも飛び抜けて優れた油田があるが、どうも採りにくくなっているのでは。もしかしたら、シェールオイルのように、搾り出さないと採れなくなってる恐れがある。

シェールオイルの問題は、水などを地下に注入して石油を押し出し、採掘するという無理のある方法。昔の油田は穴さえ掘れば吹き出すような感じだった(自噴式)のに、今や、雑巾を搾るようにしないと石油が採れなくなり始めている。

それでも大量に採れるならまだいい。しかしシェールオイルは、しばらくすると石油を搾り出せなくなる。また次の穴を開け、水などを注入する。面倒、コストが高い。採掘するのにエネルギーもいる。
昔の自噴式油田なら1のエネルギーで200くらいエネルギーが採れたけど、シェールオイルだと。

かなり採算が悪い。この、投入するエネルギーと得られるエネルギーの比率をEROIというけど、この数字がどんどん小さくなっている。この数字が小さくなると、エネルギー的に黒字でなくなる。採算を採りにくい時代に突入しようとしている。

石油は極めて優秀なエネルギー。ほんのちょっとの量で大量のエネルギーを取り出せる(エネルギー密度が高い)。しかもプラスチックの原料にもなる。こんなに優れた燃料・原料は他にない。しかも地下から掘るだけで採れたというありがたさ。これまで石油は断然安かった。

しかし、石油が採りにくくなり、高騰すれば、他のエネルギー・原料を探さねばならない。しかし他のエネルギーは量が採れない・面倒・高いという問題がある。石油以外のプラスチック原料も同様。石油時代のように安価にエネルギー・原料を手にすることは難しくなる。

ほんの少し前まで、世界の指導層は、金持ちだけは豊かな生活を維持し、貧乏人には泣いてもらうという政策を考えていたらしい。金持ちと貧乏人の格差をどんどん大きくし、貧しい者は「仕方がない」と諦めるように仕向ける。金持ちは今まで通りの浪費生活を続けよう、と。

しかし、トランプ大統領の登場で、金持ち層は恐怖したようだ。トランプ氏自身が金持ちではあるが、貧しい労働者層の支持を得ることで無茶を通すやり方を見て、ナチスのような独裁政治はアメリカでも生まれうる、と気がついたらしい。しかも。

トランプ氏の向こうを張る形でサンダース議員も人気を博した。こちらは昔の共産主義を彷彿とさせたようだ。金持ちにとって、ナチスも共産主義も恐怖。第二次大戦で金持ちを虐殺した思想・運動だったから。

かつて、環境問題や格差是正に冷ややかな目を向ける金持ちが多かったのに、トランプ大統領が現れて以降、急に率先して格差是正、環境問題を解決する投資行動を、と言い出したのは、このままだとナチズムか共産主義によって皆殺しにされるかも、という恐怖に気づいたからのようだ。

さて、石油時代がいよいよ終焉すると、やはりエネルギーが十分に手に入らない時代に突入するだろう。そんな時代に入っても、十分な食料を作れるよう、農業にエネルギーを振り分けられるか?化学肥料の基本、アンモニアを製造するためだけに世界のエネルギーの1%を消費している。これだけのエネルギーを今後も農業に振り向けられるのか?エネルギーが十分でなくても幸せな生活は可能なのか?これから全人類的な挑戦が始まる。

※石炭は二酸化炭素を出し過ぎるため、エネルギー候補としては、最初から考察の外に置いている。

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