人類共有知ゲノム

得丸久文(デジタル言語学者)。人類は6万6千年前、南アフリカの洞窟で母音を獲得し、デジ…

人類共有知ゲノム

得丸久文(デジタル言語学者)。人類は6万6千年前、南アフリカの洞窟で母音を獲得し、デジタル言語進化が始まった。その後の信号の三段階進化(音節、文字、Bit)に対応したホモサピエンスになるためには、生後に人類共有知ゲノムを取り込み、発現させる必要がある。

マガジン

  • アウストラロピテクス発見から99年目の南アフリカ

    1924年にレイモンド・ダートが、初期人類の化石を発見して来年で百年になる。300万年前の初期人類誕生から、7万年前の言語の獲得までを、人類学はどのように解明したのか。 一方、1994年に全人種選挙の行われた南アフリカで、まだアパルトヘイトが続いているという。この現実も見てきたい。

  • 人間は光から生まれてきた

記事一覧

パブロフ博士の犬供養(4)

(4) 動物愛護団体の抗議  実験医学研究所の前では、動物愛護団体が犬の虐待に抗議していた。  パブロフの実験手法は、犬に2本ある唾液腺のうち、片方を切って体外…

パブロフ博士の犬供養(3)

(3) もうひとつの謎 「負の相互誘導」  パブロフは分化抑制の講義のあと、聴衆が謎に気づかなかったために、彼が答えに困る質問も出なかったことで面目が保たれて気をよ…

パブロフ博士の犬供養(2)

(2) 誰も謎に気づかなかった 研究所の誰も解明できなかった謎の実験結果を、パブロフは「分化抑制」の講義のなかで、できるかぎりありのままに説明を試みた。 「当時かな…

パブロフ博士の犬供養(1)

(1) 広瀬武夫の助言「タケオはサムライだった。」  パブロフは誰も人影のない自分の研究室のなかでこう独り言すると、自分にとって謎のままである実験結果を講義のなかに…

How to Deal with Scientific Concepts using Sign Reflex Mechanism

Language became digital when syllables were born with vowels. Syllables are discrete, finite and one-dimensional digital signals. It is likely that language is …

跳躍進化は二段階で生まれる

昨日の夕方、本屋に行きたくなって家を出て、大分駅ビルにある紀伊国屋書店にいくと、新刊コーナーに河田雅圭著「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか? 進化の仕組み…

ルーシーも偽化石だったのだろうか!?

 今年(2024年)は、アウストラロピテクス化石発見百周年であると同時に、エチオピアで発掘され、ルーシーと名づけられた化石の発見50周年でもある。  4月6日(…

ことばが力をもつ、ということを理解するための本

コンピュータネットワークのおかげで、誰でも自分の体験や思考内容を発信できる時代になった。 検索のおかげで、キーワードを投入すると、それに関する本やブログがたちま…

1年間の有給休暇とヨハネスブルグサミット

2002年8月から9月にかけて、南アフリカのヨハネスブルグで行われた「国連・持続可能な開発のための世界サミット」(UN-WSSD)に、日本から派遣されたNGOの宿泊・交通担当幹事…

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ここ数年、「人類共有知」という言葉で、人類がひとつとなって、継承し、発展させる知恵のことを考えてきたけれど、それって「伝統」のことじゃないかと思った。

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語を正しく使ってホモサピエンスになる (第6回)

5. おわりに:ヒトは生命進化の最前線  本研究はこれまで日本認知科学会の認知モデル研究会(2021.1.9開催,youtube動画あり)と全国大会ポスター発表(得丸2020c,得丸2022a…

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語情報の前方誤り訂正に向けて (第5回)

4.6 bitの双方向性を生かした検索とカタログ  インターネットが,検索エンジンや図書館のOPAC (Open Public Access Catalog)サービスを提供するようになって,我々は過去…

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 文法と概念の生理メカニズム (第4回)

4. 脳室内免疫ネットワークの活用 脳室内の免疫細胞の成熟と相互ネットワークによって成り立っている言語処理のメカニズムはIF A THEN Bの論理によって実現している.こ…

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 音素の誕生と音節の三段階進化 (第3回)

3. デジタル信号「音節」の起源と発展3.1 デジタル化のはじまり 哺乳類のコミュニケーションは,鳴き声の波形が意味(喜怒哀楽)を,声の大きさがその大小を表す.群れ…

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語獲得装置(LAD)の分子構造 (第2回)

2. 脳室内免疫ネットワークが言語を処理 2.1 IF A THEN Bの回路 言語学者の鈴木孝夫(1956)は,動物社会学者のティンバーゲンの観察結果をもとに,言語の論理構造を可…

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語は自然進化だった (第1回)

1. はじめに:生命進化と言語の進化 40億年前に地球で発生した生命体(細胞膜のなかに信号処理回路をもった生命体)は,原核生物,真核生物,脊椎動物,哺乳類と段階的かつ…

パブロフ博士の犬供養(4)

パブロフ博士の犬供養(4)



(4) 動物愛護団体の抗議

 実験医学研究所の前では、動物愛護団体が犬の虐待に抗議していた。

 パブロフの実験手法は、犬に2本ある唾液腺のうち、片方を切って体外に出し試験管を装着してから台の上にのせる。刺激が与えられたときに犬が出す唾液が何滴かを横についている係員が数えるというものだった。

 パブロフは右左とも利き手で、手術の腕前がよかった。犬に負担をかけないよう、なるべく短い時間で

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パブロフ博士の犬供養(3)

パブロフ博士の犬供養(3)

(3) もうひとつの謎 「負の相互誘導」

 パブロフは分化抑制の講義のあと、聴衆が謎に気づかなかったために、彼が答えに困る質問も出なかったことで面目が保たれて気をよくした。科学者としてやるべきことはやったと満足感にひたった。これがサムライの生き方かと、廣瀬の写真に語りかけた。
 そして、やはり理解不能な謎である「負の相互誘導」と名づけた実験を思い出した。これは「分化抑制」実験で得られた分化抑制刺

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パブロフ博士の犬供養(2)

パブロフ博士の犬供養(2)

(2) 誰も謎に気づかなかった 研究所の誰も解明できなかった謎の実験結果を、パブロフは「分化抑制」の講義のなかで、できるかぎりありのままに説明を試みた。

「当時かなりの謎と思われた事実を出さねばならない。一定の外部要因から条件刺激を形成して、それに非常に近い他の要因、たとえば、刺激となっている音によく似た音をはじめて試みると、しばしば、形成された条件刺激よりはずっと弱い条件反射効果がえられる。し

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パブロフ博士の犬供養(1)

(1) 広瀬武夫の助言「タケオはサムライだった。」

 パブロフは誰も人影のない自分の研究室のなかでこう独り言すると、自分にとって謎のままである実験結果を講義のなかにもりこむことを決めた。

 一九二四年、彼は定年を目前にして二十年間続けてきた「条件反射」研究を、ペトログラードの軍医学校で連続講義していた。その間、革命が起きてロマノフ王朝が滅び、ボルシェビキが権力を握った。革命後、市民生活も大きく

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How to Deal with Scientific Concepts using Sign Reflex Mechanism

How to Deal with Scientific Concepts using Sign Reflex Mechanism

Language became digital when syllables were born with vowels. Syllables are discrete, finite and one-dimensional digital signals. It is likely that language is processed by the mammalian sign reflex c

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跳躍進化は二段階で生まれる

跳躍進化は二段階で生まれる

昨日の夕方、本屋に行きたくなって家を出て、大分駅ビルにある紀伊国屋書店にいくと、新刊コーナーに河田雅圭著「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか? 進化の仕組みを基礎から学ぶ」(光文社新書、2024年4月30日刊)があったので、迷わず買って帰ってきた。

進化とは何かの定義や、進化を生み出すメカニズムについて、専門家の知識が展開されているのだが、僕が2年前の日本進化学会シンポジウム企画「進化の情報

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ルーシーも偽化石だったのだろうか!?

ルーシーも偽化石だったのだろうか!?

 今年(2024年)は、アウストラロピテクス化石発見百周年であると同時に、エチオピアで発掘され、ルーシーと名づけられた化石の発見50周年でもある。
 4月6日(現地時間)に、アリゾナ州立大学で行われたシンポジウムをオンライン視聴したが、丸一日、興味深い発表が続いた。僕は途中3時間ほど寝てしまったが、オンライン映像は今もアリゾナ州立大学のサイトで視聴可能だ。(設定を変えると、文字起こしもしてくれ(結

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ことばが力をもつ、ということを理解するための本

ことばが力をもつ、ということを理解するための本

コンピュータネットワークのおかげで、誰でも自分の体験や思考内容を発信できる時代になった。

検索のおかげで、キーワードを投入すると、それに関する本やブログがたちまちひっかかって、いろいろな著者の言葉に触れることができるのだけど、「うわー、すごい。これ実話なの? 世の中にはすごい人がいるもんだ」と感動することはあまりない。

ユーチューバーの番組も、知識よりも勉強不足を感じることが多い。粗製乱造とい

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1年間の有給休暇とヨハネスブルグサミット

1年間の有給休暇とヨハネスブルグサミット

2002年8月から9月にかけて、南アフリカのヨハネスブルグで行われた「国連・持続可能な開発のための世界サミット」(UN-WSSD)に、日本から派遣されたNGOの宿泊・交通担当幹事として、僕は南アフリカの大地を踏んだ。6月には下見旅行までした。

この経験が、その後、人類学・言語学の研究にかかわるきっかけになった。どうしてヨハネスブルグサミットに出向くNGOと付き合うようになったのか。今、思い返して

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ここ数年、「人類共有知」という言葉で、人類がひとつとなって、継承し、発展させる知恵のことを考えてきたけれど、それって「伝統」のことじゃないかと思った。

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語を正しく使ってホモサピエンスになる (第6回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語を正しく使ってホモサピエンスになる (第6回)

5. おわりに:ヒトは生命進化の最前線  本研究はこれまで日本認知科学会の認知モデル研究会(2021.1.9開催,youtube動画あり)と全国大会ポスター発表(得丸2020c,得丸2022a),全国大会シンポジウム企画(得丸2022b, 2022c)で発表した内容をもとにさらに発展させたものである.「ことばの認知科学:言語の基盤とは何か」の論文募集に申し込んだところ,担当編集者から一般投稿を勧め

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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語情報の前方誤り訂正に向けて (第5回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語情報の前方誤り訂正に向けて (第5回)

4.6 bitの双方向性を生かした検索とカタログ

 インターネットが,検索エンジンや図書館のOPAC (Open Public Access Catalog)サービスを提供するようになって,我々は過去の人々が書いた書籍や論文を容易に閲覧・入手できるようになった.

 スマホやパソコンからインターネット検索エンジンにキーワードを投入すると,たちまちのうちに関連した情報のリストが提示される.人類の文

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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 文法と概念の生理メカニズム (第4回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 文法と概念の生理メカニズム (第4回)

4. 脳室内免疫ネットワークの活用 脳室内の免疫細胞の成熟と相互ネットワークによって成り立っている言語処理のメカニズムはIF A THEN Bの論理によって実現している.この論理を音節の時間的離散性,文字の不滅性,bitの対話性に適用するにはどうすればよいか,すると何ができるかを以下で論ずる.(得丸2020b, 2020c, 2021b)

4.1 文法:片耳聴覚で文法処理

ヒトは,赤

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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 音素の誕生と音節の三段階進化 (第3回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 音素の誕生と音節の三段階進化 (第3回)

3. デジタル信号「音節」の起源と発展3.1 デジタル化のはじまり

哺乳類のコミュニケーションは,鳴き声の波形が意味(喜怒哀楽)を,声の大きさがその大小を表す.群れで共有できる記号数は最大でも数十にとどまる.例えば,怒り,求愛,服従,敵,餌といった記号だ.

 一方,ヒトの言葉は数万あり,必要なら無限に作り出せる.ヒトの語彙数が多いのは,音素の順列で言葉をつくるからだ.アサ,アシ,アス,アセ

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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語獲得装置(LAD)の分子構造 (第2回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語獲得装置(LAD)の分子構造 (第2回)

2. 脳室内免疫ネットワークが言語を処理

2.1 IF A THEN Bの回路

言語学者の鈴木孝夫(1956)は,動物社会学者のティンバーゲンの観察結果をもとに,言語の論理構造を可視化している.

図1は,ある視・聴覚刺激の入力が,記憶にあるAであるときに,「Aが入力されたらBをしなさい」(If A then B)と行動を指示する.図2は,少し複雑で,「Aが入力されて,その運動方

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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語は自然進化だった (第1回)

デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語は自然進化だった (第1回)

1. はじめに:生命進化と言語の進化 40億年前に地球で発生した生命体(細胞膜のなかに信号処理回路をもった生命体)は,原核生物,真核生物,脊椎動物,哺乳類と段階的かつ跳躍的に複雑さの次元を高めて進化してきた.

 ヒトの「言語」はその延長線上にあり,哺乳類の音声コミュニケーションが発展したもので,今も進化の途上にあるというのが筆者の仮説である.

 生命誕生からヒトの言語獲得までをひとつの時間軸上

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