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読書記録『成瀬は天下を取りに行く』③ (読んだあとに心に成瀬が宿る)

昨日の記事で締めようと思ってましたけど、よくよく考えたらストーリーの説明を一切してないと思いあたり、もうひと記事だけ。


前述の通り、主人公の「成瀬」を中心に巻き起こる物語を、多視点で描いた短編集です。


全6エピソードのタイトルと内容が以下の通り。(ちょいネタバレあり)



『ありがとう西武大津店』

成瀬の幼馴染、島崎みゆきの視点で描かれるエピソード。地元民の憩いの場、西武大津店が夏の終わりに閉店することになり、夕方の地元テレビ局の中継に、毎日映り込むという謎の宣言をする成瀬。


西武ライオンズのユニフォームを着て、毎日無表情で中継に映る成瀬と、それに巻き込まれる島崎のお話。



なんだかもう、こういう意味のわからないこと、下手すると意味があるのかすらわからないようなことに謎に一生懸命取り組む。こういうのは非常に好きです。自分の価値観を謎に肯定された気分になった。


西武大津店閉店当日、よりによって目標達成最後の日に、成瀬が西武に行けなくなるかもしれない出来事が発生します。
意味のない目標でも、頑張れ!と心から願ってしまう。
タイパとかコスパとかそういうのばっかり重視される昨今、意味不明なことに意味不明なくらい一生懸命取り組むって、尊い。



『膳所(ぜぜ)から来ました』

ひとつ目のエピソードと同じく、幼馴染の島﨑視点で描かれる。

ある日突然成瀬から「M-1グランプリに出よう」と誘われて、漫才コンビを結成するというお話。

「膳所から来ました」「膳所から世界へ」を合言葉に、『ゼゼカラ』というコンビ名で漫才にチャレンジします。


これを読んでいるあたりで気付くのが、成瀬も面白いけど、それに付き合う島﨑も面白くてめちゃ良い奴。


変な人が、変な人のまま終わらずイノベーションを起こすには、それにしっかりと巻き込まれてあげる一人目の存在というのがかなり貴重。
実はその人が、イノベーターをイノベーターたらしめていたりする。


唐突な意味不明な目標、最高。



『階段は走らない』

ここで視点(語り手)が変わり、成瀬が西武大津店の中継に映ってるのを見かけたサラリーマン・稲枝の物語。


40代となり、久しぶりに小学校の同窓会を開くことになった稲枝。
小学5年のときに、西武大津店で少し気まずい関係になってしまいそのまま転校していった同級生を、同窓会に呼ぼうと、行方を探すお話です。


このエピソードには直接成瀬は関わってきませんが、知らないところでいろんな人が繋がっていたり、成瀬の行動が実は回り回って誰かの背中を押してたり。


『線がつながる』

成瀬のことが嫌いな同級生・大貫視点の物語。
他人の目や世間体を気にしてしまう大貫は、高校入学後、人知れず東大を目指すことを決意。

他人の目を一切気にすることなく、高校入学初日に謎に丸坊主で登場してきた成瀬。

東大のオープンキャンパスで二人がバッタリ出会ってしまいます。


フワッと心が軽くなる終わり方をするのがとても心地良かったです。



『レッツゴーミシガン』

広島から百人一首かるた部の全国大会に出場するために大津に遠征してきた男子高校生・西浦視点の物語。

全国大会会場で成瀬と出会い、成瀬に恋をしてしまいます。

二人は大津の観光船・ミシガンクルーズに一緒に乗ることになります。




このエピソードが、個人的には最高作でした。相変わらず世間から大きくずれている(我が道を突き進みまくる)成瀬と、ふいにそんな成瀬を好きになってしまう西浦。


この二人が愛おしすぎて、それでいてやっぱりどっちもずれていて。

終わり方も素晴らしすぎます。




『ときめき江州音頭』

満を持しての成瀬視点。これまで他の人の視点で描かれてきた成瀬が、何を思って生きているのかが、ここでわかる。


高校三年生になり、幼馴染の島崎が卒業後は東京に引っ越してしまうことがわかります。漫才コンビ『ゼゼカラ』の相方同士でもある二人は、地元の夏祭りでラストステージに立つことを決意するのでした。



他のエピソードを読んできて、成瀬は悩むことなど一切無い最強人物だと思っていましたが、成瀬もちゃんと悩むことがあるんだなと。

前の5エピソードまで読んできた時点で完全に心を掴まれており、『ゼゼカラ』が解散するのがめちゃくちゃ寂しくなっている自分に気付く。

とはいえリミットがあるからこそ青春なんだろうなと。



ラストは安定の、ぬるっとした笑いとフワッと心が軽くなる感じに加え、でっかい多幸感に包まれて終わります。


この本に出会えてよかったー!となりました。


人知れずいろんな人生と交差し、誰かの今日に影響を与える成瀬。読者もきっと、何かしらの影響を受けるはず。



ちなみに続編も出てるので、早速読んでみたいなと思います。

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