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長文感想『家康、江戸を建てる』門井慶喜

群像劇のかたちで、様々な日本の時代背景を鮮やかに切り取る、門井慶喜氏の代表作。

東京生まれ、東京育ちの私。
改めてこの広大な東京=江戸の成り立ちを振り返るのは実に興味深いテーマです。


この広大な土地が切り開かれたきっかけは、豊臣政権の盛りに、秀吉が家康へ関八州(現在の関東平野) への「国替え」を命じたことでした。

当時、太田道灌(おおたどうかん) が築いた「江戸城」周辺は、水はけのよくない草原が広がるだけの「田舎」。

体のいい厄介払いに、徳川家の家臣たちは猛反発!

それでも、あっさり秀吉の命に従った家康。

そこには、家康なりの「思惑」があったようで…。


「為政者」たるもの、通常ならすでに栄えた土地を牛耳ることが繁栄の近道、と考えるもの。

一方で家康は、上方に強固な地盤を築いている豊臣家を「超える」ため、新たな「上方」を建てる事業へと邁進することになります。

そこで登場する、家康の信を受けた様々な「プロフェッショナル」たち。

広大な草原をしっかりした大地に変えるべく、「大河の流れ」を変える者。

上方に負けない太平の世を築く基礎、「貨幣の鋳造」を担う者。

切り開いた大地に「大量の真水」を引く者。

首都にふさわしい城の基盤となる「石垣」を積む者。

そして、ついに姿を現した徳川家の「江戸城を引き継ぐ者」。(二代将軍・秀忠)

登場人物それぞれの「熱」をエネルギッシュに綴る著者の筆致が冴えわたり、あの時代の空気が読み手にビンビンと伝わります。


本書を読み進めるにつれて、家康の「思惑」 が何となく見えてきたような…。

ここからは私見ですが、「江戸普請」を名乗り出る重鎮たちを差し置いて、これまで武功の無かったものを徴用する家康の「適材適所」の感覚。

それは、新しい「秩序」を打ち立てんがため、だったのでしょう。

そんな新しい時代への息吹が込められた物語は、読み手も感化されますね。

これまでの「行き詰まり」をひしひしと感じる昨今、この物語の価値はさらに高まったのではないでしょうか。

【以下、余談】


この本の中で、私自身のゆかりの地も多数登場するのもとても興味深いポイントでした。

現在の隅田川は、家康当時の利根川のなごり。

大河の流れを東に変更する第一段階、現在の江戸川を本流に変えるのですが、江戸川の河口は現在の千葉県浦安市。

当時は猫実村(ねこざね)。今でも浦安市内に猫実の地名が残っています。

というか、若い頃は猫実の職場まで通っていたので懐かしい(笑)。

さらにその本流を東に曲げ、現在の銚子を河口とする姿へ。

これは「治水」を超え、下総地方の物産を江戸へ輸送する「水運」を発展させるための「利水」目的でした。

その工事の最中の試行錯誤で犠牲になった土地もありましたが、これが300年つづく江戸の世を支えるインフラへと変わっていったのですね。

そんな大事業を担う、世代を超えた「職人」たちの矜持も、この本の大きな魅力なのです。

それにしても、この物語の秀忠さん、市井の役人のふりをして城の普請を見回ったり、家康と熱く議論したり…まるで「暴れん坊将軍」みたいで妙にカッコイイ。

「二代目」のイメージがちょっと変わるかも(*´罒`*)ニヒヒ

【おわり】

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