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オカえもん ~厄病神生成AI~

はじめに

 「オカえもん」の世界は、現実世界とは似ているけど別物だよ!
 「オカえもん」の世界と現実世界との区別が付かなくなったり、気分が悪くなったりしたら、インターネットを閉じてゆっくり休んでね!
 このことだけは、オカえもんとの約束だよ!
 それでは本編、はじまりはじまり~!

厄病神生成AI

 「あああ!!! また海川にやられたあああ!!!」
 今日も部屋に青年の叫び声がこだまする。機嫌の良し悪しをバイト先でも露骨に出すのはお手の物だ。
 「相変わらずインターネットでは俺をイライラさせる言葉しか流れないな。俺にはここしか居場所がないのによ、この野郎」
 自堕落な生活を送り続けている青年。SNSやイラストだけが生きがいだ。
 「もうテストの時期か、ダルいなー。落単したら誰かのせいにできたら良いのになー。イラストを見る時間がなくなるじゃねーか」
 「あー、イライラしてきたな。バイトもクレーマーを殴ってクビになっちゃったし、暇だから散歩にでも行くか」

 街を歩く青年。しばらくすると何かに気付く。
 「なんか……緑のワンピースを着たメガネの男がいるよ……キッショいな……」
 「悩める青年さん。こんにちは」
 「うわ、喋った!」
 「初対面でそれは失礼すぎませんかね……」
 「こんな人間なんてそうそういねえよ」
 「僕のことを人間じゃないと思っているんですか。僕は成績向上支援人型ロボットの『オカえもん』です」
 「やっぱり人間じゃなくてロボットじゃねえか」
 「まあ、くだらないツッコミ待ちはほどほどにして、あなたが悩みを抱えていそうで僕は心配なんですよ。通り魔事件とか放火事件とか起こしそうで」
 「そんなことするわけないだろ! こっちはテストが近いからイライラしてんだよ!」
 「そうですか。僕は貴方の事情にはあまり詳しくないのですが、相当追い込まれているようですね」
 青年は謎の引き出しを持っていることに気付く。
 「何かいいものは持ってないのかよ。変なワンピース野郎」
 「しょうがないですね。秘密でも何でもないですが、こんな道具を差し上げましょう……」
 オカえもんは引き出しから道具を取り出す。

 ギャハハハ。
 気味の悪い高笑いのBGMが響き渡る。
 「厄病神生成AI」

 「え、何だよ。このキッショくて、きったねえ機械は」
 「迷える学生さん。この『厄病神生成AI』を使うとですね、貴方の気に入らない方をAIが自動判定してくれます」
 「え、この変な道具、そんな機能があるのかよ」
 「しばらくすると3人気に入らない方の候補が出てきます。だから、その中から1人を選んで『厄病神』に設定してください」
 「え!?」
 「『厄病神』を設定し終わったら、貴方や周りの人の身に起こった悪いことが、全部その人の責任になります。何と、貴方たちは何も悪くなくなります!」
 「すごい道具だな、早く俺にくれよ。世界大戦とかも全部ソイツのせいにできるのか?」
 「いいえ、このAIを使う前に起こった出来事の責任は、『厄病神』に押し付けることができません。そして、この道具は使い捨てなので、1回しか使えません」
 「まあしょうがないか。さっさとくれよ」
 「はい、こちら3万円です」
 「金取んのかよ」
 「他にも100万円で買える『全自動放火ロボ』や、1000万円で買える『家庭用水素爆弾』などの商品もあるのですが……」
 「そんな金なんかねえわ。まあこのキッショい機械、買ってやるわ、この野郎」
 「すみません、最後に1つ言っておきたいことがあるのですが……」
 「長々と他人の話なんか聞きたくねえんだよ。早く道具よこせ」
 「道具を使うのを、楽しんでくださいね!」
 オカえもんは帰っていった。

 青年は早速、「厄病神生成AI」の電源を入れる。
 「よし、使ったら厄病神の候補が出てきたな」
 「ヒトリメノ ヤクビョウガミノ コウホハ プロセンシュノ 『海川』デス」
 「1人目はプロ選手の『海川』か。まあ俺は大嫌いだけど、好きな人も結構いるからな。おいAI、2人目を見せろ」
 「フタリメノ ヤクビョウガミノ コウホハ ドウガトウコウシャノ 『無課金』デス」
 「あ、コイツはパス。俺大好きだし。早く3人目をよこせ」
 「サンニンメノ ヤクビョウガミノ コウホハ インフルエンサーノ 『1クン』デス」
 「あん……くん……? そういえば毎日のようにSNSで炎上しているな。まあコイツが死んだって悲しむヤツなんかいないだろ。これにするか」

 青年は叫ぶ。
 「『1クン』を厄病神にしやがれ」
 「モウスコシ テイネイナ コトバデ オネガイシマス」
 「厄病神生成AIさん、『1クン』を厄病神にしてください」

 テッテレー。
 不気味に明るいBGMが鳴り響く。
 「オメデトウ ゴザイマス。 コレカラ コノヨニ オコル スベテノ デキゴトハ、 スベテ 『1クン』ノ セキニンニ ナリマシタ」
 「よっしゃー! これで明日のテストで、赤点を取っても大丈夫だな!」

 翌日。青年は単位のかかったテストを受ける。
 「30点ですが、この点数は『1クン』のせいなので、あなたに単位を与えます」
 「え、いいんですか? ありがとうございます!」
 青年は単位を取得して喜ぶ。
 「このAI、なかなかやるじゃねえか。この調子でどんどん使っていくぜ。ただ、犯罪には使いたくねえな」

 さらに翌日。青年はSNSを眺める。
 「どうして応援してるコンテンツに、こんなことばっかり言えるんだよ。ああ……無性にイライラする……、クソ!!!」
 青年はコップを壊してしまった。
 「これも全部アイツのせいだし、損害賠償でも請求しておくか。方法もしっかり調べておかないとな」

 そして1週間後。青年は自動車を運転して自損事故を起こしてしまった。
 「あーあ、コレで廃車になるかもな。流石に新車を買う代金を厄病神に請求するのは無理だよな……」
 青年は思いつく。
 「待てよ。いらないプレゼントとかをわざと壊せば、お金にできるな! 減価償却とか面倒臭いけど、しっかり勉強しておこう」

 その頃、オカえもんは公園で子どもたちが遊んでいるのを眺めていた。
 「あの青年、大丈夫ですかね……」
 子どもの笑い声でもかき消せない不安が、オカえもんを襲う。
 「気分転換にコーラでも飲みますか」
 オカえもんが飲もうとしていたコーラが、振られていたせいか吹き出る。
 「全くもう……。強い器がないと、いつかは破裂してしまいますよ」
 「そう、かつての僕みたいに、ですよ……」

 月日はどんどん流れる。
 厄もどんどん「1クン」に流れる。
 会計不正、汚職事件、男女差別、児童虐待、大量殺人、宗教戦争……。
 青年はありとあらゆる不祥事の責任を、すべて「1クン」に背負わせるようになった。

 しばらくしたある日、青年は友人と会話していた。
 「『繁華街で通り魔 100人以上死亡』? まあこれも全部『1クン』が悪いよな」
 友人は冷たく言い放つ。
 「そんなわけないだろ。完全に犯人が悪いじゃねえか」
 AIが使えなくなっている。青年は焦る。
 「あれ……?」
 「お前、よくそんな支離滅裂なことが言えるよな。一旦休んだ方がいいんじゃないか?」
 「ごめん、一旦家に帰るわ」

 青年の家ではAIがエラーを吐き出していた。
 「ヤクガ イッパイデス。 コレイジョウ セキニンヲ オシツケラレマセン」
 「うるせえ! 殴るぞ!」

 青年はAIを殴り始める。機械は煙を上げる。
 「モウ アナタニ デキルコトハ アリマセン」
 「全部AIのせいだからな」
 「サイゴニ プレゼントヲ ヨウイシタノデ コレカラハ コレヲ ツカッテクダサイ」
 青年は機械から出てきた巾着袋を調べる。
 「これ、って……」
 中身は「1クン」の住所が書かれたメモと、300円のハンマーだった。
 「よし、コレで俺は正義の味方になれる」

 そう言い残すと、青年は「1クン」の家への長い旅路を歩み始めた。
 大雨を凌ぐための雨傘も、今となっては青年に必要ない。
 「1クン」の家が見える。
 築数十年は経っていそうな古民家だ。

 ピンポーン。
 インターホンを鳴らすと、高齢の女性が対応した。

 「はい、どちらさまでしょうか」
 「あなたが『1クン』の家族ですか」
 「はい、そうですけど……。最近無言電話やイタズラ、それに賠償請求が多くて大変なんですよね」
 「良くあんなのなんか作れましたね」

 ドスン。
 青年は無言で、ハンマーを頭に勢い良く振り下ろす。
 「こんな親からこんな子ができるのなんて、普通だろ」

 「あれ、母さん……?」
 「お前が『1クン』か?」
 「違います。父です」

 ドスン。
 青年はまた無言で、ハンマーを頭に勢い良く振り下ろす。
 「お前も同罪だ、この野郎」

 「お父さん、お母さん。どうしたの、そんな大声なんか出して……」
 中年男性が困惑した声でやってくる。
 「お前が『1クン』か?」
 「そうだよ。何か無関係なことまで全部自分のせいにされて、ブチギレたくなるよ」
 「なら、両親の所に行かせてあげるね」

 ドスン、ドスン、ドスン……。
 「こうなったのも全部、お前のせいだからな!!!」
 青年はそう叫びながら、ハンマーを「1クン」の全身に何回も、目一杯振り下ろす。
 「そうだ、野次馬がそろそろ来る頃かな。そいつらの前で自慢してやるか。服と靴を着替えて、と……」

 野次馬が数百人、まとめて駆け付ける。
 「野次馬のみんな、この星の厄病神だった、『1クン』を知ってるか?」
 「めちゃくちゃ知ってるぞ」
 「知ってるー! 知ってるー!」
 「そいつが厄病神じゃなくなったから、俺が倒してきたぞ」

 野次馬の声が止まる。

 「おい、『1クン』を何で殺してんだよ!」
 「そーだ! そーだ!」
 「しかも、無関係な両親まで巻き込みやがって!」
 「そーだ! そーだ!」

 青年は困惑する。

 「厄病神の『1クン』を倒したということは、お前のほうが厄が強いに決まってるだろうが! だからお前のほうがよっぽど厄病神だよ!」
 「そーだ! そーだ!」
 「しかも、もう死んじまったから『1クン』をストレスの捌け口にできねえじゃねえか! 何してんだよ!」
 「そーだ! そーだ!」
 「じゃあ今度はコイツを厄病神にしようぜ!」
 「いーね! いーね!」

 野次馬たちが青年を追いかける。
 「え!? ちょっと待て! 早く来て、オカえm、早く来やがれ、この悪魔!」
 青年は胸ぐらを掴まれて屋上の隅に追いやられる。
 「痛えなお前ら、何をs」
 「俺らはお前みたいに厄病神にはなりたくねーんだよ」
 ドスの利いた声が脳に響く。
 「だけど、お前には生きてて欲しくないからさ。大人しくここから飛び降りてよ」
 「はい、飛ーべ! 飛ーべ! 飛ーべ!」
 青年は泣き出す。
 「う、う、うわあああああ!!!!!」

 その頃、オカえもんは夕食を作りながらニュースを見ていた。
 「速報です。今日午後6時ごろ、100階建ての大型百貨店の屋上から、20代と見られる男性が飛び降りました。男性はその場で死亡が確認されました」
 「ああ……。だから『最後まで説明は聞いてください』って、言ったんですけどね……」
 「屋上の柵を乗り越えた跡があることから、自殺と見られています」

 「教育って難しいですね」

おわり。

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