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サチコのサングラス

日本人の父とイタリア人の母を持つサチコは、イタリア語と日本語と英語が話せる。会話の能力と読み書きの能力は別で、日本語の読み書きはあまり得意ではない。

日本語を書く機会があるとお客である日本人観光客から「かわいい」と言われるのには閉口した。サチコにって文字は読めれば良いもので。その字が上手い、下手という感覚はなかった。

劣るものをかわいいというのかも知れない。と、「かわいい」と言われながらサチコは考えた。彼らにとって、文字が上手いというのは、バランスがいいということなのかもしれない。四角の中に文字を書くという訓練にはそんな目的があるのだろう。

日本で育っていないサチコにとって日本語の文字の習得は決して簡単ではなかった。大学時代に時間と労力をかけて文字を学んだという自負はある。「それをかわいいだと?」

と、仕事を始めてすぐの頃はカチンときたものだった。

アンナマリーアはサチコが怒っているのにすぐ気づく、数少ない人の一人だった。「いつも落ち着いていて、感情がわからない」と言われ続けるサチコにとっては貴重な相手だった。

しかし、以前はいつでもアペリに一緒に来てくれた彼女は変わってしまった。パンデミックで会えない間にアンナマリーアはマッチングアプリにはまり、デートで忙しくなっていたのだ。

サチコもそんなアンナマリーアに触発され、マッチングアプリをやってみたのだがうまくいかなかった。彼女の見た目を気に入ってメッセージを送ってくるのは、アジア系の女に過大な期待を抱いている面倒な男ばかりだった。

アジア系の自分はフェチの対象になるのだということを、サチコは思い出してげんなりした。見た目で自分を気に入るやつはバカばかり。若いころに散々嫌な目にあったのに。ほんと学習していない。というより、気の合う人を見つけることの大変さを、結婚というぬるま湯にしばらくいたせいですっかり忘れていたに気がついた。

出かける相手は欲しい、でもアジア系好きの男も女も嫌だ。と、考えた結果。サチコは髪をブリーチして金髪になった。

次はタトゥだな、とサチコの改造計画は続く。



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