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二通の手紙

「僕ということが、どうしたことだろう。君という存在が、日に日に大きくなっていって、たまらない。君を思うときは、世界が夕焼け色に染まった時のように甘やかで切ない心持ちになる。君を思うときはいつでも世界は輝いている。だから君から僕宛の封筒を見たときに舞い上がってしまったのだと思う。開封することさえ忘れ、君の丸みを帯びた小さな文字を食べたくなってしまった。ああ、そうさ、おかしいと笑ってくれたらいい。僕は君の愛に焼かれて、もうおかしくなったのだと思う。君からの手紙を端正に耳を切られたサンドウィッチのように丁寧に折り畳み、そして口に入れた。優しい味だった。一度噛み締めると、君の垂らしたインクが歯肉から直接僕の血管に流れ込み、間違いなくあのとき僕と君は繋がっていた。じんわりと唾液で濡れた封筒は口内を突いたが、それは全く問題のない痛みだった。君という存在を、君の想いを受け入れるために正しい痛みだったとさえ思う。噛めば噛むほど君を理解できるような、美しい食事の時間だった。すっかり柔らかくなった君からの手紙を飲み込み、温めたミルクを一口飲んだ後でようやく気がついた。君はどんな用事で僕に手紙を送ったんだろうって。僕にとって一番大事なことは、君の僕に対する思いなのに。君が僕に何を伝えたかったのかを知りたい。知りたくてたまらない。だから、ごめん、もう一度だけ、君からの手紙が欲しい。君からの愛を、楽しみに待っています」

黒ヤギさんは手紙をしたためて、大好きな君へ送り返した。お返事がもらえますようにと天に願って。

一週間後、黒ヤギさんのポストに手紙が再び届いた。

「再送 告訴状」

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