空気階段を愛している

空気階段を知ったのは、かたまりの号泣プロポーズだった。

正確にはその少し前から「空気階段の踊り場」をラジオクラウドで聴き始めて、「サラリーマンじゃない人」へのインタビューで撃ち抜かれた。テレビだと水曜日のダウンタウンでも出てこれないような底辺たちへのインタビュー。これが本当にすごかった。インタビュアーのもぐら自身も夜の世界で働き、飲む打つ買うの芸人であるため、底辺同士の会話がぶっ飛びすぎていて、耳がしびれた。競馬の話、風俗の話、酒の話、もぐらが聞き手になると、とんでもないところで話が広がる。こんな日本の底辺の会話が聞ける放送媒体は他にない。

そしてこんなクレイジーな企画をケラケラ笑っている水川かたまり。彼もやっぱりクレイジーで、真っ直ぐで本気な男だった。彼の本気は情けないほど笑える。キングオブコント2019で、カメラをまっすぐ睨みつけて言った「お笑いのある世界に生まれてよかった」というセリフがものすごく彼らしい。笑いの大会にあるまじき表情で、彼は自分の熱い思いを電波に乗せた。会場が変な空気になるとはわかっていても、彼はそう言わずにはいられなかった。

画像1

彼のその真っ直ぐさが、もぐらの詭弁で折り曲げられる時、彼はあからさまにヘソを曲げて不機嫌になる。彼は自分の感情を繕おうとしない。彼は自分が感じたままに怒り、笑い、歯を出し、ヘソを曲げ、泣き、プロポーズをし、親から仕送りを受け取る。いずれも彼の真っ直ぐさのせいだ。

時にはその真っ直ぐさゆえに、コンビ間で大げんかになる。過去のラジオクラウドで、何度も喧嘩をした。お笑いコンビの喧嘩が放送されたのなんてオリエンタルラジオ以来ではないか。空気階段の踊り場の凄いところは、喧嘩を録音して、あまり編集しないままにクラウドに流してしまうところだ。スタッフも、空気階段の仲を信頼しているからこそなのだろう。コンビの喧嘩別れを恐れるなら、喧嘩を放送に乗せたりしない。何度も喧嘩をして、仲直りすると信頼するからこそ、怒りという感情さえも放送に流し、クラウドに残す。

口論の後、少しの休憩を挟んで、明らかにシュンと反省しているもぐらに笑いが止まらなくなる。くすぶるようにまだ怒っているかたまりも面白い。何がどう転んだって面白い二人。

笑いに必要なのは、感情だ。楽しさだけが笑いになるわけではない。悲しみも、怒りも、苦しさも、辛いことも、幸福も全ての感情が笑いになる。

コント師の彼らはラジオで生まれた感情を、単独ライブで思い切り吐き出す。切なさ、恥ずかしさ、見栄、哀愁、狂気、およそ幸せとはかけ離れた感情を、上手に切り取って笑いを生み出す。

漫才は言葉を使って笑いを生み出す。コントは感情を使って笑いを生み出す。

笑いの引き出しが違うから、言葉を扱うプロである漫才師に対して、コント師が言葉しか使えないラジオで勝てるはずがない。過去のラジオスターを考えてみても、圧倒的に漫才師が多い。

でも、それでも今の若手のラジオで、一番最高なのは間違いなく「空気階段の踊り場」。コント師らしく、感情を上手に引き出して笑いを生み出す。本当に最高のラジオ芸人。


空気階段の二人をラジオ芸人たらしめるのは、人生のすごろくで止まるマスを全てラジオと共に歩んでいるからだ。芸人がラジオで結婚の報告をすることはあるが、彼らはその道のりも逐一ラジオで放送している。

放送開始時に30年間彼女ナシだったもぐらは、自分に好意を持っているという女性との初デートを赤裸々に話し、交際を申し込む時も、ラジオを通して告白した。告白の雰囲気も事細かに話した。いちいち繊細な表現をするもぐらにツッコミを入れつつも、妙にむずがゆくなってくる。そして告白後の初デート、初キス、初夜。その後時間を置かずに結婚、出産。間も無く別居。人生の大事なイベントを駆け足で走り抜ける。

かたまりはいずれももぐらによる問い詰め、追い詰めによって恋人の存在がバラされ、キングオブコント敗退をきっかけに酒を飲んで暴れて別れ、さらに元サヤ、番組のイベントである大踊り場で公開プロポーズを果たし、見事成功している。

こんなに人生を赤裸々に話したラジオDJがいるだろうか。これまでのエピソードの書き起こしだけで、最高のエッセイ本が出来上がる。

ラジオリスナーは、もぐらの初デートの場所も、妹に縁を切られていた時期も、息子と2ヶ月ぶりに会ったときのことも、母親がライブ配信相手にブツブツ話しかけていることも、知っている。かたまりが親から仕送りをもらっていることも、下ネタを話したラジオを母親と聞いたことも、キングオブコント敗退で荒れたことも、緊張すると勃起する事も、知っている。

家族と恋人以外で、こんなに深い家庭事情まで知っている人なんて、もう空気階段ぐらいしかいない。

ラジオクラウドでは、第一回目の放送から聞けます。一度でいいので、ぜひ聞いてみてください。もう最高です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?