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パンサー尾形が一人勝ちのワケ

今、バラエティ番組におけるパンサー尾形がすごい。

一人勝ちと言っていいぐらい芸人として脂がのりきっている。尾形と聞くと、ポンコツ、おバカ、面白くないやつ、すべり芸、サンキューしかない、などマイナスイメージを持つ人も多いかもしれないが、2019年あたりからパンサー尾形のバラエティ番組での活躍ぶりは異常だった。どの番組でも気がつくと尾形を中心に笑いが生まれている。

水曜日のダウンタウンのドッキリの常連でもあり、まっすぐで頑張り屋、男気のある素顔がよく放送される。ロンドンハーツで見せた嫁への異常な執着心や相席食堂での気合が入りまくったロケも面白かった。有吉の壁やくりぃむナンチャラなどでもそのまっすぐな頑張りは欠かせないキャラクターとなっている。

こうして振り返れば、今テレビの王様と呼べる番組にことごとくハマって呼ばれ続けている。

同世代の中ではすでに頭一つ二つ抜けた、すごい芸人になったのは間違いないのだ。

けれど、あのトークが下手(アメトークではハマらない)で、笑いをわかっていなそうなポンコツ感が尾形の評価を下げる。どれだけオバケ番組で結果を残そうとも、「面白くないやつが周りにいじってもらって笑いを取っている」という評価に落ち着いてしまうのだ。少しかわいそうだが、尾形のキャラクターを考えると、視聴者が彼のことを下に見ているぐらいが笑いを生みやすくなるのだろう。

尾形は自分の芸人としてのすごさを誇示しないし、第7世代をライバルとして位置付け、テレビで負け顔を晒す。周りと比べて劣っている、お笑いのわからないポンコツだ、というポジションに立つからその懸命さがおかしいし、視聴者からも反感を買われない。誰からも嫌われずにむしろ好かれ、しかも面白い芸人は尾形の他に思いつかない。

やはり、パンサー尾形はスゴい芸人なのである。


パンサーを初めてテレビで見たのは7−8年ほど前になる。確かコント番組だったと思う。

パンサー初期のエースは向井で、2番手にセンスのある菅さんと、3番手に面白くない尾形という構図だった。当時向井はピンでの仕事も多く、その甘いマスクで番組に花を添え、テレビの出方も芸人としてより、アイドル芸人としての扱いだった。3人でのコントはいまいちで、尾形のテレビでの出番は持ちギャグ「サンキュー」を本気でやってスベる、という箇所だけだった。

それがいつの間にか、あばれる君や狩野英孝らと一緒になって「ポンコツチーム」としてピンでの活躍が増えていった。若手のアイドル芸人の台頭とともにパンサー向井はテレビ出演の機会が減り、パンサーのエースは尾形となった。


時代も尾形に味方した。

バラエティ番組はこれまで演者と裏方での争いだった。芸人がステージの上で自分のお笑いを存分に披露し、それを裏方がどうにかカメラに収める時代と、裏方が用意した練りに練られた企画で芸人を料理しようとする時代。

今は、水曜日のダウンタウンに代表されるような、ロケやドッキリで芸人の普段の姿を引き出そうとする時代になった。裏方が芸人を使って大喜利する時代なのだ。その時に必要な芸人は、トークが面白い人間ではなく、大喜利が強い人間でもなく、「わかりやすい」人間だ。視聴者が「あの人って〇〇だよね」と一言で言い換えられるような単純なキャラクターを持っていることが重要なのだ。

裏方がひねったドッキリを芸人に仕掛ける時に、複雑なキャラクターだとそこに注意がそれてしまってドッキリ自体を楽しめない。例えばオンとオフのキャラが違う人であれば、「裏ではこんな人なんだ」とドッキリの主眼がずれてしまう。尾形のような純粋でお馬鹿なキャラクターだとわかっている芸人にドッキリを仕掛けるから、ドッキリへの反応が作られた演技ではないと分かり、純粋にその反応を楽しめる。

もともと芸人を驚かせたり、困らせたりすることが目的のドッキリで、見たいのは芸人が苦悩し、追い詰められる姿だ。尾形を困らせようと思うと、その姿が目の裏にすぐ浮かぶ。追い詰められて目が泳ぎだし、顔中から汗を吹き出して、テンパって訳のわからないことを言い出す。このゴールが単純で明らかでさえあれば、ドッキリ自体がどれだけ悪質で複雑でも笑いになる。

今の時代が尾形を必要としたのだ。


尾形はポンコツでおバカ、けれど一生懸命になんでも挑戦する。その真剣な姿は、人生における重要なことを伝えようとする熱いメッセンジャーにも思えてくる。

どれだけ他人に馬鹿にされたっていい。どれだけ自分のことを低く見積もられたとしても、自分の仕事に懸命であれ。おバカでも、ポンコツでも、一生懸命にやり続けろ。そうすれば必ず道は開ける。

その熱いメッセージが、尾形で笑い転げた後に少し胸にしみる。特に相席食堂での尾形の立ち回りはすごかった。笑いへの情熱と誰にも負けないという覚悟。これほどの情熱を持って自分はこれまで働いてきただろうか。尾形には負けられない、私も、この騒動の中でも踏ん張らなくては。


自粛期間に入ったせいで、しばらく新しいバラエティ番組を見られていないが、自粛明けにはまたパンサー尾形の暴れっぷりを見られる。その日を楽しみに、今日も医師として情熱を持って働く。

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