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「そういう人もいる」の先に

SDGs17の目標の一つに「ジェンダー平等の実現」があります。ジェンダー平等について考えた学生の頃の話を書いてみます。


学生の頃、LGBTへの理解を深めましょうというFacebookの投稿が盛んだった。当時繋がっていた友人にはこの問題に積極的に取り組もうとする人が多かった。

正確にはLGBTTQQIAAPまで種類があること、友人が経験した性体験の話、自分の性はどこに位置するか、など様々な投稿があった。

中でも印象的だったのは、自身の性のポジションをクエスチョニング(性自認や性的指向はまだ未定である)と告白した友人や、ポリアモリー(関与する全てのパートナーの同意を得て、複数のパートナーとの間で親密な関係を持つこと)として生きていくと綴った友人の投稿だ。

LGBTの友人は多く、性に関する情報で友人を差別することはなかったが、当事者でないクエスチョニングやポリアモリーに関しては、未知の世界すぎてうまく理解が追いつかなかった。

当時の自分の感覚では、クエスチョニングは考え過ぎな人で、ポリアモリーはオープンな人だな、という印象だった。色んな人がいて面白いなと思ったが、そのポジションを理解することは難しかった。人は自分の経験に基づいた物差しでしか物事を測れない。

それから興味を持って話を聞いたり、調べていくうちに、ある日「そういう人もいる」という感覚にストンと落ちた。理解はできなくても、そういう人もいる。この広い世界、たくさんの人がいて、そういう人もいる。それはとても当たり前のことだ。

そういう人もいる。この感覚は性的ポジションの話だけにとどまらない。校舎の窓ガラスを割った先輩や、生牡蠣を好んで食べる友人も自分には理解が難しい。私なら同じことをしない。

真夏日にマラソンをするランナーも、たくさんの命を乗せて飛行機を操縦するパイロットも、バンジージャンプをする人もそうだ。私には理解できない行動をとる人はたくさんいる。

自分では理解しきれない行動を目にしても、それが原因でその人を嫌うことはない。そういう人もいるな、と心の中でつぶやくだけだ。

相手を深く理解するには時間がかかるし、難しい。時間をかけても理解できない存在はたくさんいる。それなら相手の深みに飛び込んで理解しようとするよりも、その手前でまず相手の存在を認めてしまった方が早い。

学生だった私は「そういう人もいる」という感覚に納得し、それから理解できない相手に対して、そういう人もいるよな、とつぶやくようになった。これだけで、ふんわりと相手を受け入れた気になれる。



大学2年の夏、一つ上の先輩と差別について話す機会があり、私は得意になって「そういう人もいる」という感覚を話した。先輩は納得も共感もせず、首を傾げた。

「それはちょっと消極的過ぎると思うな」

てっきり褒められると思っていた私は驚いた。なんでですか、とすぐに尋ねた。

「そういう人もいるんやな、って否定しないことは大事やと思う。でもな、それだと社会は変わらん」

先輩は、ある病気のせいでひどい差別を受けた患者さんについての勉強をしていた。患者さんたちとの交流会や病気についての勉強会をよく開いていた。

「世の中の人は、差別された人に対して、ひどい偏見を持ってるのが1%、差別された人を守ろうと活動するのが1%、そして残りの98%はどうでも良いし関わりたくないと思っている」

「そんなもんですかね」

「そういう人もいる、と思っている君を、差別された誰かが見た時、なんで思うだろう。多分、君のことを関わりたくないと思っている98%か、場合によっては自分に対して酷い偏見を持った1%と思うかも知れない」

「偏見なんてないですよ」

「もちろんな。でも、差別を受けた人はそれぐらい追い込まれている。目に見える人全てが敵に見えている人だっている。黙っている人の思いなんて誰にも汲み取れない」

先輩の目は真剣だった。

「そういう人もいる」と一人で呟くのは、遠くから問題を眺めるような消極的な付き合い方なのだと知った。


相手の存在を肯定する、それを自分の中で思っているだけでは伝わらない。差別される人がいる世の中で必要なことは「あなたという存在を否定する人はいない」と声に出すことだ。それがどんな相手でも。そして、私自身がどんな存在でも。

あなたを完璧に理解することはできないかもしれないけれど、だからといってあなたを否定することもない。

多くの人が口に出さないだけで、みんな同じようなことを思っている。あなたの事情はよく分からないけど、別にあなたもそこにいて良いんだよ。そう口にすることで、みんなが同じようなことを思っているんだと知れる。

「差別をしないで」と仮想の誰かと対立する意見よりも、差別する人、差別される人、全ての人への「あなたもそこにいて良いんだよ」というメッセージの方が、多くの気づきがある。

対立も批判もやめ、まず近くにいる人に自分の思いを伝える。その言葉をたくさんの人が口に出すことで、社会が良い空気を孕み始めるだろう。きっとそこには誰もが住みやすい世界が広がっているはずだ。

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