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意味がわかると怖い話

意味がわかると怖い話

飲み会の帰り、ふらふらと一人暮らしの部屋に帰ってきた。いつもつけっぱなしにしているテレビが眩しい。ろくに歯磨きや着替えもせずにベッドに倒れ込み、眠ってしまった。

寝ている間、ドーンと大きな音がしたような気がした。音の理由を確かめようにも眠くて、そのまま寝た。

あの音は何だったのだろう。翌朝起きぬけにそれが気になった私は、テレビに目を向けた。ちょうどニュース番組で、アナウンサーが「昨夜大きな雷が

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空港職員の朝

空港職員の朝

空港職員の友人がいる。

彼女は空港の手荷物検査所で働いている。その日は朝から憂鬱な気分だった。

昨日、彼氏が「明日から一人で沖縄旅行に行くよ」と言ってきたのだ。その突然の報告に唖然とした。いや、別に旅行に行くことはいい。結婚しているわけでもないし、彼の行動についてとやかく言える立場ではない。

ただ、もう少し早めに伝えてくれたらよかったのに、と彼女は思うのである。仕事の日程を調整すれば沖縄へ一

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走馬灯

走馬灯

木曜日、走馬灯を見ました。

病院の屋上から落ちた時でした。なぜかスローに周りの景色が動いてよく見えました。コンビニの屋上に設置された室外機、街路樹の上で騒ぐカラスの群れ、ゴミ置場から転がったアルミ缶、駅の方角へ歩く柄シャツの男性。薄ぼんやりとした意識の中、壊れたラジコンのように動かない体が日常をめがけてゆっくりと落ちていきました。

ふと気がつくと、目の前に走馬灯が流れていました。

小学校入学

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100億個目の荷物

100億個目の荷物

ちょうどバニラアイスを食べ終えたところにチャイムが鳴った。

インターホンの画面には青い帽子の男と段ボールが見えた。おそらく注文していた韓国コスメが届いたのだ。通話ボタンを押して応答する。

「淀川急便です」

溌剌とした声を聞いて、ようやく配達員が前橋さんだと気づいた。法学部の学生だった頃の二つ上の先輩。今は役者を目指して宅急便で働いているのだ。明るくて格好いい前橋さんはゼミの人気者で、私みたい

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二通の手紙

二通の手紙

「僕ということが、どうしたことだろう。君という存在が、日に日に大きくなっていって、たまらない。君を思うときは、世界が夕焼け色に染まった時のように甘やかで切ない心持ちになる。君を思うときはいつでも世界は輝いている。だから君から僕宛の封筒を見たときに舞い上がってしまったのだと思う。開封することさえ忘れ、君の丸みを帯びた小さな文字を食べたくなってしまった。ああ、そうさ、おかしいと笑ってくれたらいい。僕は

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AI新法

AI新法

朝食のコーヒーを淹れていた時、竹中から入電があった。

「会長、今すぐテレビつけろ」

電話を取るなり竹中はそう叫んだ。そのだみ声に思わず受話器を耳から離す。穏やかな気持ちに小さな波が立った。

「なんだよいきなり」

小さくため息をついてからテレビをつけると、青をベースとしたスタジオの中で、女性アナウンサーが原稿を読み上げていた。テロップには「AI新法採択」の文字。

「通っちまったんだよ、AI

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創作大賞2022表彰式爆破事件

創作大賞2022表彰式爆破事件

コンテスト関係者が集められた小部屋で、私は食い入るようにタブレットの画面を見つめていた。

「速報です。今日昼頃、都内ホテルにて爆破事件が発生しました。ホテルではnote株式会社主催のコンテスト『創作大賞2022』の式典準備が行われておりましたが、幸い死傷者は出ていないとのことです。警察はテロの可能性も視野に入れて捜査を開始しています」

アナウンサーが原稿を淡々と読み上げるのを聞いた。自分もこの

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「Netflix」本編

「Netflix」本編

「ねぇ、最近このドラマ見た?」

夕食後にリモコンをいじっていた妻が尋ねた。iPhoneを置いてテレビに目を向ける。「携帯はオフのまま」という最近話題の邦画ドラマだ。

「いや、いつか見ようとは思ってたけど」

妻が首をひねる。リモコンを操作し、Netflixの視聴履歴を展開した。

「今日の視聴履歴が変でさ」

画面には最近見た映画やバラエティ番組に混ざって、見覚えのないタイトルがいくつか表示さ

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魔術

魔術

タクヤは週刊誌に追われていた。人気俳優の私生活を彼らが勝手にストーキングすることは、有名税と称して黙認されている。

犯罪を犯罪として裁けない世の中は狂っている、とタクヤは思う。

「それでもう週刊誌に撮られたくないということですね」

マネージャーの紹介で知り合った男は魔黒と名乗った。現代に生きる魔術使いで、依頼者の願いを叶える男だという。

「もうカメラに撮られたくないんです。そんな願いも叶え

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失恋

失恋

「まーたダメ男に引っかかっちゃった。私って男を見る目ないのかなあ」

アルコール度数3%の缶チューハイをぐびと飲む。ジュースのような甘さのそれは、苦い失恋を拭うための薬だ。

深夜の電話相手は幼馴染の安田だった。男勝りな性格の私は、女の子相手に恋の相談ができなくて、安田にばかり電話をかけてしまう。

「まあ、そうかもな」

安田は小さく笑いながら答えた。安田はお酒を飲まない。

「はーあ、どっかに

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自転車

自転車

急いでいた。朝寝坊をしてしまったのだ。

ぐずる息子をなだめつつ、朝食を用意し、スーツに着替える。化粧に使ってる時間はない。日焼け止めだけを塗ってマスクをつける。いつものことながら目まぐるしい忙しさだった。

自転車の後ろに息子を乗せた時にはもう8時だった。焦った母が面白いのか、けらけらと笑っている息子。唇の端についた牛乳を親指で拭ってやる。その親指はスーツのパンツで拭いた。黄色い帽子が飛ばないよ

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赤い救急車

赤い救急車

サイレンを鳴らしながら街を走る救急車を見て、幼い頃の記憶が蘇った。
「赤い救急車」だ。
赤い救急車を見つけたら、それを指差しながら「赤い救急車」と五回唱えると願い事が叶うという噂があった。
その噂を信じて、何度か赤い救急車と唱えたことがある。

大人になった今ならはっきりと分かるが、救急車の車体は白だ。絵文字も白い🚑。
だから、赤い救急車など存在しないはずである。

けれど私は幼い頃、確かに赤い

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改善

改善

最近、よく眠れるようになって、ものすごく目覚めがいいんです。

え?よかったね、ですって?いやいや、だめなんですよ、先生。よく眠れちゃって。そりゃ、体の調子もいいし、頭もスッキリして良いことだらけです。でもね、先生。変なんですよ。だって、そう思いません?

何年もこの整形外科に通っても治らなかった腰痛、肩こり、膝の痛みのどれもがすっきり治ったんです。いいや先生、そんなニコニコして、先生のおかげでは

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人間関係販売

人間関係販売

佐伯が浮気をしている。一枚の写真がその事実を突きつけていた。携帯電話にその写真を表示させて、私はそれを眺めた。
都内にあるテーマパーク内のゴンドラに乗った佐伯と知らない女の写真だった。ゴンドラは急降下する瞬間で、佐伯と女は目を見開いてその行く末を見ている。掲げた両手は固く繋がれていた。その姿に怒りと悲しみが同時にわいてくる。
昨日、この写真が大学のサークル仲間の清子から送られてきた。友達と乗ったア

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