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連載小説 ダイスケ、目が覚めたってよ(15)~(27)

今まで掲載した(15)~(27)をまとめたものになります。整理も兼ねて掲載したいと思います。

文字数としては6,800字を超えたところになりました。塵も積もれば小説となるような気持ちで執筆しております。

駄文となりますが、読んでいただいた方にはお礼を伝えたいと思います。
本当にありがとうございます。

それでは引き続きよろしくお願いいたします。


(15)

「お兄ちゃん、お風呂あがったよ~」

「りょ、りょうかい」

この世界線では当たり前のように経験してきた記憶があるけど緊張するなあ。急に可愛い妹ができたからなあ。と、俺にはアカリがいたんだった。アカリは大丈夫かなあ。とりあえず、お風呂に入るか。

風呂場はナナミが入ったあとで湯気で暖かくなっていた。そしてフローラルシャンプーの香りが充満していた。

「あー、とりあえず、いいお湯だ。いろんなことありすぎだよ」俺は疲れすぎて独り言を言いながら、お風呂に浸かり今日あった出来事を整理していた。

アカリがヘビに、俺がカエルに、ナナミが妹に。

転生、時間、時空、世界線。他になんかあったかな。

「なんでもありだな」少しぬるいお湯の中で考えながら眠りに落ちそうになってつぶやいた。

「お兄ちゃん、パジャマおいとくよ~」風呂場の外からナナミの声が聞こえてきた。

「あ、ありがとう……」

「あんまり緊張しないでよ。今までずっと一緒に暮らしてたんだからね」

「わかってるんだけどナナミが妹だっていうのが全然慣れないよ……」

「まあ、その気持ちはわかるよ~」

本当にわかってるのか?と俺は思った。

つづく


(16)

お風呂を出るとナナミは居間でヘビのアカリを抱えていた。

母親も一緒にヘビを見ている。

「本当にこのヘビは可愛いくて綺麗ね~私は基本的にヘビはダメなんだけど、このヘビは大丈夫よ。ヘビじゃないみたい」母親はうっとりするような目でヘビを見ていた。

確かにそのヘビは明るいところで見ると美しかった。透き通るような純白の鱗、その鱗の表面は透明で光が乱反射している。赤い部分、青い部分、黄色い部分、緑色の部分、グラデーションもあればコントラストもある。まるで煌めく蛇状の宝石がなまめかしく生きているようだ。それは精巧に緻密に作られた装飾品のようにも見える。一番輝いているのはその目だ。宝石職人が歳月をかけてカットしたダイヤモンドのような輝きを放っている。

そのダイヤモンドは俺の方を見ていた。

「アカリ……」

「お兄ちゃん、私の部屋でちょっと勉強教えてくれる?数学でわからないところがあるよ」アカリを見て動きが止まっていた俺にナナミが話しかけてきた。

「おう……い、いいよ」

「じゃあ、部屋に行こ!」

「わ、わかった……」

「なんか緊張してる?今までずっと一緒に暮らしてたんだからね」

「わかってるんだけどナナミが妹だっていうのがまだ慣れてないからね……それに、女子の部屋っていうのも普通にただ緊張するよ」

「まあ、その気持ちはわかるよ~」

本当にわかってるのか?と廊下を歩きながら俺はまた思った。

つづく


(17)

廊下を歩いてすぐに2階に登る階段がある。ナナミの後について階段を登っていく。ナナミの部屋は階段を上ってすぐの右側だ。知っているはずだが知らない部屋。

ドアには”NANAMI”と書かれた木製のふだが掛かっている。

そのドアをナナミは開けた。開けたときにナナミの髪からシャンプーのフローラルの香りがしてきた。それに続いてナナミの部屋の香りが鼻孔をくすぐった。女子特有の香り。おそらくは石けんだったり、シャンプーだったり、消臭剤だったり、柔軟剤だったり、香水だったりの香りなんだろうが、それらが混ざり合って融合してひとつの香りになっている。

「どうぞ~」ナナミが俺を部屋に誘い入れた。

部屋に入ると、そこは緑色だった。カーテンや布団、壁、置いてあるぬいぐるみもカエルやカメでそこは緑色で統一されていた。

「すごいな」俺は思わずつぶやいた。

「緑色好きなんだよね~」そう言いながらナナミはおもむろにヘビをカエルのぬいぐるみの横に置いた。ヘビは微動だにせずこちらを見ていた。

ナナミは自分の椅子に座り、くるりと回ってこちらを向いた。「お兄ちゃんもそこ座っていいよ」と言ってベッドを指さした。

「おお……」

俺は言われたとおりにベッドに腰掛けた。そのベッドは意外にも固めだった。

つづく


(18)

「お姉ちゃんのことだけど、これから話すことは重要だから覚えておいてね」

「わかった」俺はナナミという急にできた可愛い妹の部屋でちょっと浮ついた気持ちになっていたが、アカリのことを思い出してしゃんとなった。

「お姉ちゃんはしばらくはヘビのままなの。いつ戻れるかはまだわからないわ。元の状態に戻れるかもわからないし、実はこの世界線にいられるのもいつまでかもわからないの」

「そっか。まあ、この世界線はナナミもいて、こう言ったら変だけど前の世界線より幸せに感じたよ。だけど、人間のアカリにももちろん会いたいんだけどね」

「そうかもしれないわね。今は多くを話せないんだけど、この世界線の記憶や思い出もすごく大事だからね。いろいろ感じて覚えておいてね」

「多くを話せないっていうのはどういう意味なんだろ。ナナミもいろいろわかってるの?」

「お姉ちゃんとはダイスケさんと会う前からずっと一緒だからね。もちろんある程度知っているわ。今は話せないけど、流れとしてはちゃんと元の世界に戻る流れだから心配しないでね」

「なんかちょっと心配だけどナナミの言うことを信じるよ。ていうか今はナナミの言うことを信じるしか選択肢がないからね」

「そうね。だけど、盲目的にもならないでね。それはそれでもしかしたら道をはずしちゃうかもしれないからね。自分でちゃんと考えてね」

「わかった。その都度ちゃんと考えるよ」

俺は自分の妹となったナナミから話を聞いてちょっと心を落ち着けることができた。だが、まだまだわからないことだらけだし、自分に妹ができたという不意に訪れた幸せな感覚の余韻がまだ残っている。その余韻が大きくそれが俺を盲目的にさせていた。

つづく


(19)

「じゃあ、お兄ちゃんもいったん部屋に戻って早く寝てね。今日はいろいろあったからね」

「わかった。本当に今日は疲れたよ。早めに寝るよ。ナナミも早く寝てね」

アカリの方を見るとアカリも俺の方を見ていた。アカリの瞳は輝いていて無言で

「アカリ、おやすみ。また明日ね」言葉少なめに俺はアカリに声をかけた。

後ろ髪を引かれる気持ちはあったが、疲れもあったので部屋を出た。

ふう。思わずため息が出た。とりあえず、俺は部屋に戻った。

これからどうなるんだろうと思いながらベッドに身を投げた。

布団に入りアカリを思い出した。

一人暮らしをしているアカリのところによく泊まりに行っていた。アカリは寝相が悪く寝言もすごい。本当に疲れているが、アカリが隣にいない今日は静かすぎて眠れそうもない。

つづく


(20)

「ダイスケ、ダイスケ、ダイスケ・・・・」

な、なんだ?アカリの声が聞こえたような気がした。やっと眠りについたと思ったんだけどな。様子を見に行こうにも、こんな遅くにナナミの部屋に行くのも悪いからな。もう一度寝よう。

「ダイスケ、ダイスケ!、ダイスケ!」

「ん?なんだ。アカリ。いるの?」アカリの姿がぼんやりと見える。だが、顔がはっきり見えない。

「やっと寝たのね。ずっと待ってたわよ」

「あ、これは夢の中か」

「そう、夢の中よ」

「なあんだ、びっくりしたよ。アカリがちゃんと人間に戻ったのかと思っちゃったよ」

「まあ、まだ戻ってはいないけどね。しばらくはこのままだよ」

「そうなんだね。ナナミからは聞いてるけどね。早く会いたいよ」

「私もダイスケに会いたいわよ。だけど、私は今ヘビの姿だけどちゃんとダイスケのこと見えてるからね」

「ああ、見えてはいるんだね。良かったよ。ヘビのアカリはすごく綺麗だよ」

「『ヘビのアカリは』って言われると人間のときは綺麗じゃなく聞こえるわね」

「もちろん人間のときも綺麗だよ。ヘビのときは高価な宝飾品のように見えるよ」

「なんかそれも言い方として微妙だけど、まあ、いいわ。ところで…………」

「あれ、アカリ?」

「…………」

アカリの姿が見えなくなり声も聞こえなくなった。

「ダイスケ!!朝ご飯よ!何時まで寝てるの?」母の声が聞こえてきた。

時計を見ると8時を回っていた。

つづく


(21)

「お兄ちゃん、おはよ」

「おはよう」パジャマ姿のナナミに声をかけられ俺は目を背けながら返事をした。どちらかと言えば萌え系のビジュアルのナナミだが、もふもふのパジャマを着ていて萌え系はさらに増していた。

「お兄ちゃん、昨日はちゃんと寝れた?」

「ああ、寝れたよ。アカリがいなくて寝れないかなと思ったけど、いつの間にか眠りに入ってたよ」食パンにマヨネーズをつけてトースターで焼いたものを食べながら答えた。

「夢にお姉ちゃん出てきたでしょ」

「ぶほっ、なんで知ってるの?」

「カマかけてみたよ。知ってるわけないよ~」

「そ、そっか。焦ったよ」

「ていうのはウソ~」

「えっ、ウソ?」

「お兄ちゃんの夢の内容は全部知ってるよ!」ナナミは小悪魔的な笑みを浮かべていた。

つづく


(22)

「えっ、俺が昨日見た夢を知ってるって?」いろいろなことがありすぎてもうあまり驚かなくなっていたが、やはり、あり得ないことが起きると驚いてしまう。

「お姉ちゃん出てきたでしょ」

「まあ、出てきたけどもだけど」

「私もお兄ちゃんの夢の中にいたんだよ。お姉ちゃんと一緒に待ってたんだけどお兄ちゃんは昨日はなかなか眠れなかったようね。眠りに入ったのが遅かったよね」

「ということはあれか。アカリとナナミは人の夢の中に入る能力があるということだね」

「まあ、そんなような感じね。レム睡眠時は人の思念に入りやすいのよね。夢の中ではお姉ちゃんも話せるからね。話もいろいろできるよ。だけど、レム睡眠時の中の意識が同調できるときのみだから、時間はすごく短くなっちゃうけどね」

「そっか。そんなに簡単にはいかない感じだね」俺はやはりどういう理論なのか全然わからないのでそれを聞く気もなくしていた。聞いたところでもっとわからないだろう。

「今日の夜は多分お姉ちゃんと話できるだろうからね。楽しみにしててね」

「楽しみではあるけど緊張するな。アカリが何者なのかも気になるし」

「そのあたりも本人に聞いてみればいいんじゃない?」

「それもそうだね。本人の口から聞くよ」

「じゃあ、私は学校に行くね。いってきまーす」ナナミは明るい花のような笑顔を俺に見せ、カバンを持って言った。

「学校か……いってらっしゃい」

俺は学生服姿のナナミを見送った。そこには明らかな幸せな空気があり、俺はそれを肌で感じていた。前の世界線では感じてなかったものだ。そのちょっとしたささくれのような違和感を思いながら仕事に行く準備をした。

つづく


(23)

こっちの世界線での俺の仕事はラーメン屋のバイトだった。前の世界線では薬剤師だった。記憶が層になっていて両方の世界線の記憶が維持されている。今の俺は両方の知識、経験があり、なぜだかちょっとした無敵感も感じていた。

最近始めたばかりのバイトで今日は10時からの出勤だった。ゆっくりと歩いてバイト先のラーメン屋へ向かう。今日は天気がいい。この町は自然が多く、歩道にも街路樹があり自然を豊富に感じさせる。かつて俺はこのように自然を感じていただろうか。街が緑を纏っている。

空にはいつの間にか細く長い飛行機雲ができていた。このような空、このような飛行機雲を探していたわけではないが、探していたものが見つかったような気分になった。

心地よい風も吹いてきた。植物の緑の香りが鼻孔をくすぐる。少年のときにいろいろ森や川を探検した記憶やいろいろな記憶が緑の香りによって思い出される。これらの記憶もすべて幸せな記憶だった。物思いに耽るという行為すら幸せに感じ、これらの行為すべてを貴重な感覚に俺は感じている。

そう思っていると豚骨の匂いも漂ってきた。ラーメン屋が近づいてきた。この匂いを嗅ぐとこれから仕事だというスイッチも入ってきた。

豚骨ラーメンは美味しい。

俺は豚骨ラーメンが好きで、豚骨ラーメン屋を独立開業したくて元々の仕事を辞め今バイトをしていることを思い出した。

豚骨は調理の仕方によって味が変わる。豚骨の部位によっても変わってくるが一番大きい変化は煮込み方だ。強火で煮込むか弱火で煮込むか。強く煮込めば白く、弱火で煮込めば透明に。いわゆる白湯と清湯になる。

そんなことを考えながら俺はバイト先のラーメン屋に入った。

つづく


(24)

「おはようございます!」俺は大きい声を出してすでに仕込みを始めている店長や他のバイトに挨拶をした。

「おはようございます」みんなが大きい声で返事をする。飲食業は礼儀が大事でお客様に対して失礼がないようにしなければいけない。普段の礼儀もきちんとしておかなければならない。

「ダイスケ、着替えて手を洗ったら、仕込みで使った器具の洗浄と薬味のネギを切っておいてくれ。昨日もやったから覚えてるな?」

「はい、覚えてます。わかりました」

俺は着替え等を済ませ、洗浄場所へ向かった。亀の子たわしで寸胴を洗う。スポンジに洗剤をつけ洗う。スチールウールで焦げを落とし、あとは軽く拭いて乾かせば終わりだ。その他器具はスポンジでゆすぎ洗浄機へ入れた。

自分の好きなラーメン屋でバイトとして働けている。俺はもうそれだけで満足感、充足感、達成感を感じていた。もちろんそれだけではダメなことはわかっている。だが、この世界線に来てからはきつい労働でさえ幸せを感じていた。

「じゃあ、もうすぐ11時でオープンだからな」

「はい。わかりました」心地よい緊張感とともにこれからお店がオープンしてお客様が来店されるという期待感が体を包んでいた。

「いらっしゃいませ~」スタッフが一斉に最初の客を出迎えた。

「ダイスケ、今日は忙しくなるからな。よく他のスタッフの動きとかを見て覚えろよ」店長が俺に声をかけてきた。

「はい!わかりました!」俺は大きな声で答えた。

人と人との関わり、労働の喜びを俺は体全体で感じていた。

つづく


(25)

ラーメン屋の昼のラッシュが終わり、ダイスケは汗をかいていた。発汗作用。まるで始めてサウナに入ったときのような感覚を覚えていた。

「ダイスケ、大丈夫か?ぼーっとしてるのか?」

「この汗を感覚が気持ちいいなと思っていました。すいません。ぼーっとしてたのかもです」

「今は熱中症とかもあるからな。ちゃんと水分は補給しておけよ」

「はい。わかりました」先輩の温かい言葉を受け、ちゃんとしなければと思った。

夜の部も同じような感じで俺は心地よい労働を続けた。

「ダイスケ、お疲れさま。今日はもう時間だから帰っていいぞ」

「お疲れさまです。ありがとうございます。やっぱりラーメンっていいですよね」

「お、おお、そうだな」

「お疲れさまです!」俺は変なことを口走ってしまい、取り繕えずその場をそそくさと退散した。

そうだ。今日は帰って寝たらアカリに会えるんだった。ヤクルト1000でも買って早くお家に帰ろう。なんかシチューも食べたくなったな。とアカリに会えると思うと、いろいろなことを考え俺のテンションが高くなっていた。

つづく


(26)

俺は心の中で手を腰に当てスキップをしていた。らんらんらん、らんらんらん。

まるで金色の草原の上で水平に手を広げている気分だ。

「ただいま~」普段家に帰るときにただいまなんて言っていたかどうかわからないが思わず誰かに聞こえるように陽気に声を出してしまった。

「お兄ちゃん、おかえり~」ナナミが笑顔で出てきた。

相変わらず普通に可愛い。

「ただいま」

「ただいまって言うなんて珍しいね。いいことでもあった?」

「あ、いや、特にないよ」ナナミに浮かれてることを気付かれ恥ずかしくなった。

「今日寝たらお姉ちゃんと会えるからかな」

「まあ、それもあるけどね」

「それも?ていうことは他に何かあるのかな」ナナミが小悪魔的笑みでこっちを下から見てきた。

「い、いや、何もないよ」

この世界線にいることが幸せに感じていることをナナミに悟られるのが恥ずかしく思い、俺は自分の部屋へ逃げた。

つづく


(27)

今日はこれから寝れたら夢の中でアカリに会える。

話をして状況を聞いたり、これからどうするのか、これからどうなるのかを聞きたいと思う。

とりあえずもう寝る準備をしよう。歯を磨きに行くかと思い俺は部屋を出た。

部屋を出たらまたちょうどナナミと会った。

「今日お姉ちゃんと会ったらよろしく言っておいてね。まあヘビのお姉ちゃんは私の部屋にいるからね。ちゃんとお姉ちゃんの言うこと聞いてね」

「わ、わかったよ。あとは気をつけなきゃいけないこととかある?」

「特にないよ!」ナナミは小動物が草むらに隠れるように自分の部屋へ入っていった。

「よし!準備オーケー」俺は歯を磨き部屋に戻った。

ベッドに入る。布団をかける。

何かが収斂されてきたように感じる。

この世界線は幸せだった。

今、何か不安がよぎった。

「ダイスケ……」

「あ、アカリかな、どこだろう。真っ暗でどこにいるかわからないよ」

「生きてね」

「えっ!」

首に痛みを感じ、目が覚めた。

土の地面にうつぶせになっていた。俺はあの森にいた。

つづく



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